アナリストeyes

2030年「オタク人口比率40%」へ!?

2018年8月
主席研究員 松島 勝人

「オタク」とは、1980年代に一般に普及した用語で、元々はアニメ愛好家同士等が、話し相手に対して名前では呼ばず「オタクは?」「オタクさんは?」と呼び合っていたのが語源とされる。

よって、「オタク」というと、アニメまたは漫画の愛好家、という印象が強いが、現在では様々な分野に「○○オタク」が存在しており、矢野経済研究所の定義では、「自分の好きな事柄や興味のある分野に、極端に傾倒する人を指す呼称」としている。「アイドルオタク」「コスプレオタク」「エロゲーオタク」「美少女フィギアオタク」・・・等々、ジャンルは多数存在し、かつ、そのジャンルは次々と増殖している模様である。

2017年9月に実施した矢野経済研究所の調査(*)では、18~69歳までの男女のうち19.9%が何らかの「オタク」である、という結果が出た。実に5人に1人、人口にして約1,700万人が「オタク」なのである。
(*)「自分自身をオタクと思っている、または、人からオタクと言われたことがある人」の出現率。男女を実際の人口比で割付したサンプル9,869名に対してアンケート調査を実施した。

一方、「オタク」と類似した用語に「マニア」があるが、その違いは社会から「肯定的に」受け入れられているか、否かの差である。

「音楽マニア」「映画マニア」「将棋マニア」・・・というように、社会的に広く許容され、履歴書の趣味欄に記載しても差し支えないような趣味を持つ人は「○○マニア」であり、社会にはあまり肯定的に受け入れられていないため人目を偲びつつ、同好者同士で楽しむような趣味を持つ人は「○○オタク」となる。

SNS全盛時代の昨今、親の目の前、学校、職場等では決して口にできない濃い(危うい)趣味を持っていても、SNSでは同好の士と深く交流することが容易に可能となっており、「○○オタク」は益々増えてゆく環境下にある。

ここで2030年の日本国内の情勢を予想してみる。人口は今よりも1,000万人規模減少して、1億1,600万人程度になるが、65歳以上の人口は200万人以上増えて高齢者比率は32%近くになり、世界でも稀有な老人大国になっているだろう。その頃、日本のGDPはブラジルやインド等の人口爆発国に抜かれて世界5位に転落。様々な産業が衰退し中小企業を中心に企業数が今より100万社程度消滅、経済成長が完全にストップしているだろう。加えて、生涯未婚の成人が倍増し、男性の30%超、女性の25%超が生涯未婚となり、子供が少ないどころか、「お一人様」ばかりの世の中になっているだろう。かように、日本国内はマクロ経済的には恐ろしく暗い情勢となる。

その一方、2030年には、マスメディアのパワーは今よりも圧倒的に低下し、マスメディアが主導して創り出すような大衆文化は衰退、個々が好き勝手に文化を作り上げ、発信してゆく状況下で「オタク」は飛躍的に増加し、日本国内は「オタク」全盛時代を迎えていることであろう。

以上の情勢を鑑みるに、矢野経済研究所の予想では、2030年のオタク人口比率は30%を超え、40%に近づくものと見ている。世の中の3人に1人以上は「オタク」になる訳である。好きなことに好きなだけ時間を費やし、金はそんなに持っていなくても、大衆に合わせて消費する必要もないので、可能な限り自分の好きなものにだけ金を投じる、そんな人の比率が40%となる世の中・・。日本は世界からはとんでもなく奇異に映る国になるだろうが、見方を変えれば、日本のマクロとしての国力が落ちようとも、好きなことに没頭できる人が多い「オタク大国」日本は、世界でも稀有な幸せな国となることだろう。

オタク人口比率が40%になるということは、人口にして3,000万人以上が「オタク」ということであり、この数は直近の年間訪日外国人数を上回る数である。

国内の景気を活性化させるために政府があれこれ個人消費を促す施策をあれこれ考えるよりは、「オタク」が自然に増える環境にしていく方が余程有効であろう。

他人が「○○オタク」であろうと、否定せず(あえて肯定しなくてもいいが)、むしろ自分も進んで「○○オタク」になり、世の中がどうなろうと、好きなことに好きな時間・お金をつぎ込み、楽しみ続ける・・。そんな人が幸せになり、経済を支えるようになる・・。

経済大国日本という過去の幻想を捨て去り、「オタク先進国」の道を歩むことこそ、日本の歩む道であり、様々な産業は「オタク」の邪魔にならないよう、支えてゆくことが肝要ではないかと思う次第である。