アナリストeyes

5GからBeyond5Gへ向かう中で気になることがある

2021年1月
主任研究員 日栄彰二

モバイルネットワークの進展はこれまでほぼ10年毎に世代交代となっている。現在は5Gの普及が始まろうとしているが、これまでの進化はパソコンやテレビで出来ることがスマートフォンなどのモバイル機器でも可能になるというレベルだったのに対し、今後は既存のツールで利用されてこなかったサービスが先ずモバイル機器で提供される時代になっていくことになるはずだ。これにより、ネットワークにつながるモノが爆発的に増加すると思われる。
周波数に目を向けると、5Gの初期段階である現在は主に3~6GHzを用いたサービスが展開されている。これらの周波数帯では他の無線システムなどの存在により限られた帯域幅となるため、通信速度もその帯域幅に応じた限界が存在することになる。また、これまでも用いられている3GHz以下の周波数特性として、伝播損失は少ないものの波長は長く電波が広がりやすいという性質を有している。このため、通話やショートメッセージサービス、webブラウジングなどをメインとする限られた通信アプリケーションには適している一方、ビームを絞った高速無線通信の実現が難しく、複数端末間の電波干渉によりスタジアムなど極めて多くの端末を収容するような場合の対応も難しい点もある。このため、5Gではマイクロ波(6GHz未満)~ミリ波帯(30~300GHz)の利用も見込まれており、従来に比べてデータ伝送速度は10倍以上、遅延時間は1/10、接続数は10倍程度の実現が目標とされ、これらが段階的に導入されることが予想される。国内では先ず28GHz帯の利用が始まっているが、さらに39GHzと60GHz帯なども2020年代を通じて順次システム構築されることになる。

このように今後本格的な普及期を迎える5Gであるが、私の関心はその次にも移っている。

Beyond 5Gとは5Gに続く新たな次世代通信規格を指し、通常であれば6Gとなるが、場合によっては7Gを含む可能性もある。現時点では流動的なので、ここではBeyond 5Gとするが、総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」の下部組織である「成長戦略WG」でも検討が進められている。そこでは伝送速度が5Gの10倍となる100Gbps以上、遅延は1msec未満でほぼゼロ遅延、接続密度は1,000万台/ km2が目安とされている。
5Gの登場によりダウンロード速度は高速化し、待ち時間は減少することが予想されているが、しばらくするとネットワークに接続されているIoTを完全には処理できなくなる可能性が高いとみられている。なぜなら、今後登場するさまざまな分野のIoT製品によってIoTがより一層複雑になり、データ需要が大幅に増加するようになれば、ネットワークへの負担が急激に増大することになるからである。
そのため、早急にBeyond 5G実現に向けて動き始める必要があり、世界中の研究機関やネットワークベンダーはBeyond 5Gに向けた技術開発を始めている。
ITU(国際電気通信連合)においても2030年のBeyond 5Gネットワーク実現に向けた技術研究グループ(FG NET-2030:Focus Group on Technologies for NETwork 2030)の構築が既に始まっている。
5Gの中核デバイスは通信基地や端末で用いられるRFデバイスである。RFデバイスの半導体材料には5G周波数帯の特性に適した窒化ガリウム(GaN)などが採用され高性能化が進むことになる。一方、Beyond 5Gはどうか。そのスペックを満たすために使用される周波数帯域をテラヘルツ~可視光とする検討も進んでいるが、それに適した(それを実現させる)デバイス、および同材料の課題こそ重要である。例えば、テラヘルツ領域ではLEDやレーザーにおいて「グリーンギャップ」と呼ばれていたのと同様の「テラヘルツギャップ」が生じているとされるほど、その実現の難しさが指摘されている。
Beyond 5Gはまだ構想段階のようにみえるが、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)ではBeyond 5Gの新たなコンセプトやその実現に向けたアルゴリズムを開発する「Spectrum Collaboration Challenge(SC2)」というプロジェクトが既に設けられている。

このような次代に向かう動きの中でいつも私が気になるのは日本の科学技術の力だ。WIPO(世界知的所有権機関)による国際特許出願件数において既に日本は2017年時点で中国に抜かれ3位になっているが、日本を抜いた中国は同制度の運用開始以来世界一の出願件数を続けていた米国を昨年抜きトップに立っている。昨今、米中については貿易摩擦や貿易戦争などという表現が多いが、私はそんな温いレベルではないと考えている。相応しい表現を見つけることはできていないが、少なくともデカップリングはあって然るべきだと思っている。私などはそれを語る立場にないが、科学技術の視点に立った場合、日本のこれまでのアドバンテージを活かせる分野のひとつでもある、このBeyond 5G領域においてトップランナーたり得ることもこの環境下だからこそ目指すべきと考えたい。

関連研究に取り組まれる方達については少なからずそのご努力に触れさせていただく機会があるので敬意の念を持っている。しかし、それを支える側の全てについては歯がゆい思いで一杯だ。どうして“千三つ”を胸張って続けられるようにできないのか、なぜ5年や10年でしか物事を考えられないのか。こういうことについての冷ややかな見方やダメ出しが先々の我々に跳ね返ってくると叫ばずにはいられない。