アナリストeyes

AIは日本を救うか

2023年6月
理事研究員 野間 博美

先日、カメラで撮影した画像をAIなどのソフトウェアが解析しその対象物に関わる情報を把握する、画像解析システム市場の動向調査を行った(「画像解析システム市場の現状と将来展望」2月27日発刊)。この調査では、画像解析システムの導入が進展しつつある分野として大きく4つの市場を対象にした。一つ目は車両そのものやナンバーを認識する車両認識分野、次いで人間の顔により本人であることを認証したり、顔の持つ特徴から属性を判定したりする顔認証分野、3つ目は、主に小売業で来店客の人数カウントや属性分析等を行うマーケティング分野、4つ目は製造業などで出荷前の製品などから不良を見つけ出す外観検査分野である。これらの分野では、AIを活用したパッケージソフトやSaaSによる市場が次第に立ち上がりつつある。主要4分野を合わせた市場規模は2022年度で60億6,000万円の見込みとなり、2020年度比では144.0%であった。急速に市場は拡大傾向にあるものの、分野別の成長率に関してはそれぞれ濃淡がある結果であった。

各分野の主な活用方法としては、車両を対象にした市場ではまずはナンバーを自動で読み取って車両を認識するナンバー認識がある。これは例えばカーディーラーが敷地内に入ってきた車両のナンバーから自社の顧客が来訪したことを自動で把握し、すぐさま店員に対応に当たることを促すシステムなどである。
次に、車両そのものを対象にした用途では、自動車や二輪車等を検知するAIを活用し、通過する車数をカウントしたり、流れを可視化したり、属性情報を取得することで、例えば交通量調査などへの利用が進められている。

顔認証分野では、人の画像を認識して各種施設への入退場管理や属性の判別、今後は決済にも応用する可能性が模索されている。従来本人確認に利用されてきた身分証明書やICカードなどに代わって本人の顔自体を認識するため、盗難や偽造が難しくなり、高いセキュリティが実現するだけでなく、紛失の防止や施設側の本人確認のための手間を削減することも可能になる。

マーケティング分野では、主として人の顔を認識することで、来店者の数をカウントしたり、属性を分析したりすることで、マーケティングに活用する方法であるが、従来調査員が人海戦術で行っていた作業を効率化することが可能になる。

製造業を中心とした外観検査の用途では、従来人間が目視で確認していた製造物の検査を、人の代わりにAIがカメラの画像を読み取ることで、製品の異常を見つけ出すことを目的として活用されている。

これらの他にも、警備員の代わりにAIが店内の異常行動を見つける等、今後様々な分野でAIを使った画像解析の利用が期待されている。

画像解析システムが有効に活用され始めているこれらの分野に共通するのは、AIやソフトウェアが人の代わりに判断を行うことによって、その業務における人手不足の解消や人員の削減に貢献できることである。
だが、これまで各市場ではベンダー側が期待するほど活用が進んで来なかったのが実際のところである。その大きな理由としては、日本における画像解析ではユーザー側から限りなく100%に近い認識率が求められる傾向にあり、誤報が許容されにくい特徴があるという。その結果、ユーザーが導入に二の足を踏み、なかなか実装に至らないと言える。いかにも几帳面な日本人の気質が影響している事例であると言えるが、これからはそんな悠長なことは言ってはいられないだろう。

今後日本では長期的に労働力人口が減少していく。人手不足が早々に現実化している飲食店では、既にロボットによる配膳なども実現しており、様々な業界で「人の代わりニーズ」が顕在化してきている。画像解析システムも同じく「人の目の代わりニーズ」を満たすものとして、大いに活用すべき存在である。まずは導入してみて、技術的に対応できない部分は別の方法を考えるというスタンスでないと、人不足で廃業などということになりかねないのである。

様々な新技術においてこれまでPoCから先に進まない、というジレンマが叫ばれてきた。しかし、これからは実証を飛ばしてでも率先して新しい技術を導入していく企業こそが生き残れるということを、ユーザーに積極的に訴えていくことこそがICT業界に与えられた使命ではないか。