今週の"ひらめき"視点

BYD、日本市場へ本格参入。国内EV市場の起爆剤となるか

2月2日、中国EVメーカーBYD(比亜迪)の国内正規ディーラー1号店が横浜にオープン、EV乗用車市場への本格参入を開始した。第1弾はスポーツ用多目的車「ATTO 3」、航続距離485㎞、出力150kw、欧州の安全基準「Euro NCAP」で最高評価を獲得、アルファロメオやアウディで実績のあるWolfgang Egger氏によるデザインの評価も高い。注目の価格は440万円、日産の「アリア」やテスラの「モデルY」などライバル車を2割下回る。2022年末までの累計販売台数は20万2千台、豪州やタイ市場にも参入済で欧州9ヵ国での販売も決まっている。まさに世界戦略車である。

同社EVの日本市場開拓は2015年の電気バスの販売に始まる。2020年には電動フォークリフト、2022年にはワゴンタイプの「e6」も投入、京都のタクシー会社が導入したことで話題となった。一方、乗用車ブランドとしての認知度はほぼゼロ、中国製品に対する固定観念の根強さや政治要因など不確実性も小さくない。そもそも日本のEV市場は欧米や中国に比べると圧倒的に小さい。したがって、短期的な苦戦は覚悟のうえでの参入であろう。オンラインを主力販路とせず、“2025年までに100店舗体制を構築する” との事業プランも長期戦を前提としたゆえのシナリオであり、同社の本気度を感じる。

2022年上期、BYDはテスラに次ぐ世界シェア2位に急伸した。世界のサプライチェーンが混乱する中、祖業である電池はもちろんモーターやパワー半導体など基幹部品の開発・製造を自社で手掛けるビジネスモデルによって供給の安定を維持できたことも背景にある。とは言え、乗用車としての完成度の高さが世界市場で認知されたことが最大の要因であり、世界のEV市場におけるプレゼンスは日本勢を大きく引き離したといって過言ではない。

1月26日、トヨタ自動車は、4月1日付で豊田章男社長が退任し、後任に佐藤恒治執行役員を昇格させる人事を発表した。豊田氏は「私はどこまでいってもクルマ屋、古い人間である」と前置きしたうえで、「未来のモビリティを考える新しい章に入ってゆくためには一歩引くことが必要だ」と述べた。30日、日産もルノーとの資本交渉が決着、双方が15%の相手方株式を保有する対等な関係となる、と声明した。カルロス・ゴーン氏が率いた規模の拡大による企業価値向上戦略の終焉である。言うまでもなく、背景には “100年に一度の大変革” への焦りがある。問われるのはイノベーションの創出力であり、圧倒的なスピード感だ。次世代自動車のテクノロジーはまだまだ転換の渦中にある。巻き返しに期待したい。


今週の“ひらめき”視点 1.29 – 2.2
代表取締役社長 水越 孝