今週の"ひらめき"視点

2019 / 11 / 08
今週の“ひらめき”視点
RCEP、年内妥結見送り。世界貿易の行方は米中「部分合意」の成否にかかる

5日、上海で第2回中国国際輸入博覧会が始まった。昨年、米中貿易摩擦が深刻化する中、国家の威信を賭けて開催された第1回は世界151カ国・地域から3,617社が出展、来場したバイヤーは40万人を越え、成約見込み額は578億3,000万ドルに達した。1年後、米との対立が続く中での第2回であるが、主催者発表では参加国・地域は昨年を上回り、展示面積も30万平米から36万平米へと拡大、国内外から事前登録したバイヤーは50万人を超えたという。

第2回もきっと成功裏に幕を閉じるのであろう。しかしながら、足元の購買力はやや不透明感が増しつつある。この1-9月期の輸入額は前年を5%下回る。7-9月期のGDP成長率も前年同期比+6%にとどまった。これは1990年代前半以降でもっとも低い水準であり、とりわけ、固定資産投資が低調だった。党指導部としては構造改革を一挙に進め、先端分野への集中投資をはかりたいところだ。しかし、巨大な格差を内包したままの中国において “荒療治” は党への不満を誘発しかねない。不良債権問題とバブル懸念が限界に達しつつある中、施策は中途半端にならざるを得ない。

米国との対立が深まる中、2019年上期の中国からの対米輸出は25%減となった。金額ベースで3兆8千億円規模に達する。そして、その6割が中米、欧州、台湾の対米輸出増に振り代わる。外資はもちろん中国勢も続々と国外へ生産拠点を移す。グローバルサプライチェーンの構造変化はもはや後戻り出来ない段階まで進む。

4日、ASEAN10カ国に日中韓、印、豪、ニュージーランドを加えた16カ国によるRCEP交渉がインドを巡り紛糾、目指してきた年内合意が見送られた。巨額の対中貿易赤字を抱えるインドが最終局面で離脱を表明、インド抜きでの先行合意を主張したASEANとあくまでもインドを加えた自由貿易圏を目指したい日本などが対立した。

世界人口の半分、貿易総額の3割を占めるRCEPは、高度なルールへの適応が求められるTPPと比較すると新興国にも受け入れやすい “自由貿易圏” だった。ゆえに、合意の先送りは中国にとって景気反転に向けての政策オプションが一つ失われたことを意味する。残された突破口は11月中の決着を目指して協議が続く米国との「部分合意」である。ここが対米関係も含めた中国にとっての正念場であり、それはすなわち2020年の世界経済の行方そのものである。

2019 / 11 / 01
今週の“ひらめき”視点
未来のモビリティ社会に向けて、CASEに急き立てられる業界再編

開催中の「第46回東京モーターショー2019」を観た。“ひろげよう。思い描く明日を。” の一行から始まるステートメントのとおり「CASEが実現する未来のモビリティ」のプレゼンテーションに会場は溢れていた。
魔法使いの箒をイメージしたモビリティ「e-broon」やラストワンマイル物流を担う自動走行車「マイクロパレット」がテクノロジーの可能性をこれまで以上に “身近な未来” として感じさせるとともに、市販車を1台も置かなかったトヨタのブースが “脱・クルマ” に対する業界の危機感と可能性を象徴する。

一方、海外勢の不在はやはり寂しい。参加企業はメルセデス、ルノー、アルピナなど4社5ブランド、前回の9社15ブランドから大幅減である。アウディ、ポルシェを擁するVWグループ、BMW、ボルボといった人気ブランドも出展を見送った。ピーク時の6割減まで落ち込んだ来場者数に対する広告効果という視点に立てば合理的な判断とも言えるが、まさにグローバル市場における日本市場のポジションを痛感せざるを得ない。加えて、“未来” の先端をゆく “もう一つの企業群” の不在も残念だ。もちろん、“日本自動車工業会” 主催イベントであれば当然とも言えるが、グーグル、アマゾン、アップル、百度が提案する未来も見てみたい。

30日、日立製作所とホンダは、日立系1社、ホンダ系3社の系列部品会社4社の統合を発表した。統合による新会社の売上規模は1兆7000億円規模、国内ではデンソー、アイシン精機に次ぐ第3位の部品メーカーとなる。
同日、米WSJ紙がFCAとPSAが統合に合意したと報じた。実現すれば伊フィアット、アルファ ロメオ、米クライスラー、仏プジョー、シトロエン、独オペルといったブランドを持つ世界第4位の自動車メーカーが誕生する。

産業の定義そのものが書き換えられる “100年に一度の変革期” は中途半端な覚悟では乗り越えられない。上記2つの統合の狙いが、巨額の研究開発投資が求められるCASEへの対応であることは言うまでもない。それでも部品ではデンソー、ボッシュ、コンチネンタル、完成車ではVWグループ、ダイムラー、トヨタといったトップランナー群に遠く及ばない。
今年6月、FCAはルノー・日産・三菱自グループへの統合提案を日産の反対で取り下げた。その日産は親会社ルノーとの関係について未だ逡巡したままである。ルノーもいつまでもそこに留まっているわけにはゆくまい。統合するFCA、PSAの2社にルノーの研究開発費を加えるとちょうどトヨタと並ぶ。もしもそうなれば置き去りにされた日産・三菱自の選択肢は再び狭まる。未来に先手を打つためにも早急に “ガバナンス改革” を決着させ、前へ踏み出していただきたい。

2019 / 10 / 25
今週の“ひらめき”視点
ソフトバンクG、「ウィーワーク」再建へ金融支援。本物のユニコーンはどこにいる?

ソフトバンクグループは、23日、米「ウィーワーク」の経営再建に向けて最大95億ドルの金融支援を行なうと発表した。ウィーワークは2019年内のIPOを目指していたが、成長性、収益性への懸念に加え、創業者アダム・ニューマン氏のガバナンス上の問題が決定打となり9月30日に上場を断念、予定していたファイナンスが閉ざされ資金不足が懸念されていた。
年初に470億ドルと評価された同社の株式価値は80億ドルに急落、ソフトバンクグループは上場撤回による投資収益の逸失に加え、有利子負債の拡大と数千億円規模の評価損を余儀なくされる。

従来、ソフトバンクグループは経営陣の自主性を尊重し、出資先企業を子会社化しないことを投資方針としてきた。発表された支援スキームにおいても種類株等を活用することで議決権ベースでの連結子会社化を回避している。とは言え、今回については発行済み株式の8割をもつ事実上のオーナー経営者としてウィーワークの再建に踏み込まざるを得ない。事業拠点の再編、人員削減といった構造改革から収益力に軸足を置いたビジネスモデルの再構築まで、ベンチャーキャピタリストとしての “目利き力” とは異なる総合力が試される。

一方、ウィーワークの躓きは、事業拡大を最優先に大量のマネーを繰り返し投下することで企業価値を一挙に高める大型ユニコーンの育成モデルに対する警鐘でもある。
未公開株の評価は投資家サイドの思惑で一方的に決定される。そして、起業家と出資者の一部には早期の“成功”を目指すあまり、短期の出口戦略のみを関心事とする者もいる。成功とキャピタルゲインがGOALであって然り。ただし、“上場” での実現を目指すのであれば事業の継続性を担保する確かな収益力と高い企業統治能力が必須であり、ファンドにはそれを客観的に評価する仕組みと投資家への情報開示が求められる。
本件を契機に起業家はこれまで以上に厳しい選別に晒されることになるだろう。そして、唯一それこそがもう一段の投資を自身に呼び込むための近道でもある。

2019 / 10 / 18
今週の“ひらめき”視点
新卒内定率、前年割れ。企業は人材育成に長期的視点を失うな

15日、日本経済新聞社は「主要企業の大卒内定者が9年ぶりに前年を割った」との調査結果を発表した。業種別にみると銀行、証券が二桁減、自動車・部品、機械、電機もマイナスに転じた。RPA、AI、IoTによる生産性革命の流れがある。銀行は低金利の長期化による収益悪化も一因であろう。製造業では米中貿易摩擦による世界経済の減速も指摘できる。ただ、新卒一括採用の抑制は決して特定業種に固有なものでも一時的なものでもないだろう。業種業態を越えた雇用システムの構造的な変化と理解すべきである。

背景には働き方改革がある。残業時間の罰則付き上限規制、有給休暇の取得義務、勤務時間インターバル制度の努力義務など、長時間労働の是正に関する施策がこの4月から先行適用された。しかし、本命は副業の容認に象徴される多様な働き方と同一労働同一賃金による正規、非正規間の格差是正であろう。
確かにこれらのメリットを享受できる層も一定数はいる。とは言え、副業の容認と同一労働同一賃金は働き手の個人事業主化を促進するということでもある。高度人材確保のためにソニーが導入した「新卒年収730万円」という給与体系も社員のプロ化の一形態といえる。正規と非正規の格差はなくなる。浮き彫りになるのは一定期間における利益創出力の絶対的な能力差であり、そこでは従来型の労働者保護の論理は無効となる。

日本型終身雇用は、国の社会保障制度を補完するセーフティネットとして機能するとともに分厚い中流層の形成に大きな役割を果たしてきた。今、グローバル競争下にある企業にそれを維持する余裕はない。それが働き方改革の一側面である。企業の生産性と高度人材の雇用機会は格段に向上するだろう。しかし、新卒採用の一斉放棄は若者の失業率を欧州並みに高めるとともに、長期的な人材育成を前提とした基礎研究部門の脆弱化を招くリスクがある。島津製作所の田中耕一シニアフェロー、旭化成の吉野彰名誉フェローに続く卓越した企業内研究者を輩出するためにも、採用、雇用、待遇において “横並び” であってはならない。報酬制度の在り方も含めて企業には多様な人材戦略を期待したい。

2019 / 10 / 11
今週の“ひらめき”視点
合意なき離脱に触発される独立の気運、英国は英国を維持できるか

10月5日、英スコットランドの首都エディンバラで英国からの独立を目指すグループ「一つの旗の下に集結(AUOB)」が主催したデモがあった。参加者は20万人規模に達し、ウェールズの独立派もこれに加わったという。
2014年、英国からの独立機運が高まったスコットランドはその是非を問う住民投票を実施する。しかし、結果は55%を獲得した現状維持派に独立派は押さえ込まれた。一方、2016年、EUからの離脱を問う英国民投票ではスコットランド人の62%がEUへの残留を支持した。今、“合意なき離脱も辞さない” とするジョンソン氏の強硬姿勢が再びスコットランド人のナショナリズムを刺激、これが独立への再機運を呼び込む。

北アイルランド情勢も気になる。英国から離脱し、アイルランド共和国との統一を目指す過激派による活動が活発化しつつある。彼らを率いるのはIRAの残党とも言われ、警察や公共機関を狙った爆発物事件が相次ぐ。
アイルランドは、北部6州(北アイルランド)を残して1938年に共和国として独立、1949年、英連邦から離脱する。以後、北アイルランドは統一派と残留派に分断、統一を目指すアイルランド共和国軍(IRA)暫定派と政権側との対立は1970年代にピークを迎える。IRAの停戦宣言は1994年、それから4年後の1998年、ブレア政権のもとようやく和平合意に至る。
EU離脱協議における最大の難題 “アイルランド国境問題” とは、単なる関税や通行の自由の問題ではない。

スコットランドとアイルランドはいずれもイングランドとの間で民族と宗教が複雑に交差した対立の歴史を持つ。とは言え、基本的な構図はイングランドによる支配と植民の歴史である。古くは12世紀、ヘンリー2世によるアイルランドへの軍事侵攻にはじまり、1707年にスコットランドを統合(グレートブリテン王国)、1800年にはアイルランドを加え(グレートブリテンおよびアイルランド連合王国)、1949年、今日に至るグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国となる。そして、2019年、EUからの離脱協議に乗じてスコットランドと北アイルランドの離脱派が勢いづく。
EUからの離脱判断を国民に丸投げしたうえ、EUに対して一方的に合意を迫る現政権に彼らの離脱を止める大義はないだろう。はたして英国はいつまで連合王国であり続けられるか。

2019 / 10 / 04
今週の“ひらめき”視点
関電の金品受領問題、問われているのは経営者の“品質”である

10月2日、関西電力は高浜町元助役からの金品受領問題について2回目の記者会見を開き、税務調査で発覚した地元建設会社「吉田開発」の裏金3億円の使途、すなわち、“2011年から2018年にかけて関電幹部20人が元助役から受領した総額3億2千万円” の内訳を公表した。関電幹部が受領した金品の中身は、現金、外貨、金貨、小判、商品券、、、とまさに娯楽時代劇の “悪代官さま” と利得に塗れた “小物商人たち” の図式そのままである。

元助役は1987年に町役場を退職、以後、30年間にわたり関電子会社「関電プラント」の顧問を務める一方、吉田開発の顧問、原発警備会社「オーイング」の筆頭株主・取締役を兼務する。吉田開発は2015年から2018年にかけて関電やゼネコンから27億円相当の原発工事を受注、オーイング社も2007年に5億円程度であった売上を2018年には51億円へと拡大させている。元助役と関電との “不適切な関係” の説明はこれだけでも十分であるが、こうした歪んだ関係の背景には、同氏が助役時代に推進した高浜3,4号機増設について「当時の状況を暴露する」との関電担当者への恫喝があった、とも言う。

元助役が仄めかした「当時の状況」も含めて “闇” の真偽と深さは不明である。とは言え、国税局が指摘した時期以前から “不適切な関係” が引き継がれてきたであろうことは想像に難くない。
しかし、それはそれとして更に衝撃的であったのは幹部たちの一連の言動である。「金品は一時的に個人の管理下で保管した」と釈明した社長、自らの金品受領の公表後も「引き続き財界活動に貢献したい」と言い続ける会長、事件について問われ「友達だから悪く言えない」と公言する経団連会長、彼らの姿と言葉に底知れぬ人格の劣化、品性の欠落を感じる。彼らに企業倫理や企業統治を語るべき資質はない。第一線からの退出が望ましい。