六次産業化と国産食品の需要拡大

2014年4月
理事研究員 加藤 肇

第一次産業の高付加価値化と六次産業化法

2010年11月、農林漁業と製造業や小売・サービス業との総合的かつ一体的な事業推進と、農村や漁村の地域資源を活用して新たな付加価値を生み出すことを目的に、『地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び農林水産物の利用促進に関する法律』(六次産業化法)が成立した。

農林水産省では、六次産業化法に基づき農村や漁村で雇用と所得を確保し、若者や子供も集落に定住できる社会を構築するために、農畜産物や水産物の生産(第一次産業)だけではなく、食品加工(第二次産業)や流通・販売(第三次産業)にも農業者や漁業者が主体的、総合的に関わることで、加工賃や流通マージンなど、これまで第二次産業や第三次産業の事業者が得ていた付加価値を農業者や漁業者が獲得し、儲かる農林水産業を実現することを目指している。

食糧自給率は依然40%割れ

日本の食糧自給率(カロリーベース)は先進国で最低水準にある。数値が比較できる2009年を見ると、最も自給率の高いカナダが223%、次がオーストラリアの187%、3位がフランスの121%であり、日本と同じ島国のイギリスでも65%あり、韓国の50%と比べても10%も低い40%(日本の最新データは2012年度の39%)の値でしかない。(農林水産省データ)

米を主食としてきた日本人ではあるが、近年は米の消費量が急速に減少しており、国民1人あたりの年間消費量(精米ベース)は60㎏を割り込んでおり、この50年で半分程度に落ち込んでいる。一方、生産国での天候不順や新興国での需要拡大で小麦価格は大きく変動しており、高値安定傾向が続いている。

国産米の消費拡大に米粉が貢献

矢野経済研究所の調査では、国内のパン市場(メーカー出荷金額ベース)は1兆3,810億円(2011年度)で、市場は微増、微減を繰り返しており、小麦の使用量も横ばい推移している。パン業界では、食料自給率の向上や地産地消の推進が叫ばれ、一時期は内麦(国産小麦)に注目が集まったが、内麦は製パン性に優れない点とコストの高さがネックとなり、未だに普及が進んでいない。

このような背景から、政府は主食用米の過剰生産を補う目的で、米粉の利用促進を図っているが、小麦粉の代替としてパン・麺用に用いるには価格面や加工技術面の課題が残されている。なお、米粉はパンや麺などの加工向けとして国内で年間36,842トン(2011年産)生産されており、農林水産省としては「2020年度には50万トンまで拡大したい」(消費流通課)としている。

前述の六次産業化の取り組みにおいても、自家栽培した米を委託製粉し、地産地消で米粉パンを製造販売する事例など、地方の中小零細事業者で取組みが活発化している。米粉パンを学校給食で導入した学校は、2010年度で16,166校となり、給食実施校の53%に達している。大手のホールセールメーカーやベーカリーにおいても、米粉入り食パンや食卓ロールを全国販売する企業が見られる。また、米粉でパンが作れる家庭用ベーカリーマシンが爆発的なヒットを飛ばし、米粉パンの家庭需要を掘り起こした。

政府は食料自給率の向上を目指して米粉の普及支援を積極化しており、米粉需要は更なる拡大が予想される。

食育と地産地消の取り組み

朝食の欠食やダイエットなど、青少年の食生活の乱れや肥満の問題が言われて久しい。子どもが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けられるよう、“食事の正しい在り方を体得させるとともに、食事を通して好ましい人間関係を育成し、児童の心身の健全な発達に資すること”を「食育」と言う。食育の拠点である学校給食に地産地消を取り入れる自治体が増えている。地元の農業・漁業・商業者と取り組み、青果卸売市場や農地を見学させ、自分で収穫した野菜を取り入れたりと、「地産地消、食農教育」を組み込んだ取組みが盛んになりつつある。

学校給食の食材は都道府県か市町村の学校給食会が調達し地場での仕入も多い。これを拡大し農家から減農薬野菜を仕入れたり、トレーサビリティを採り入れた取組みが行なわれている。学校給食ではその購買力で安値の調達を行ってきたが、世界的な食糧価格の高騰はこのバイイングパワーも萎えさせており市場での強みを失っている。そのため、給食食材の仕入担当者は市場調達ではなく、地元農家や地元漁業者との直接契約による価格安定を目指しており、期せずして地産地消へシフトしている。

21世紀における食品産業のキーファクター

国内ではTPPにいつどの様な形で参加するかが耳目を集めているが、国内における六次産業化への取り組みは、農村や漁村の産業振興と雇用拡大に貢献し、地方経済の活性化効果も期待される。

食品業界で頻発する食の安全・安心に関わる問題は、国民の大きな関心事であり、国産食品における高い安全性への期待は大きい。

このように、六次産業化は国産食品の需要拡大を推し進め、21世紀における日本の食品産業のキーファクターとして期待される。

研究員紹介

理事研究員 加藤 肇

矢野経済研究所に入社以来、食品産業、ヘルスケア産業、農業園芸産業、外食サービス産業、化粧品・トイレタリー産業など、主に消費財分野を担当し、現在は生活者に密着した食品産業、ヘルスケアフード産業、アグリ産業、医療サービス産業、医薬品・医療機器産業を統括する。新規事業の事業化調査、販路開拓調査、中小企業支援、外資系企業の国内参入調査、各国大使館の日本市場開拓支援等、様々な調査・研究活動に携わる。また、中小企業育成支援事業、知的クラスター事業、経済産業省の特定産業支援事業(食文化産業の振興を通じた関西の活性化事業、フードサービス産業におけるスキル標準の策定と能力評価制度構築事業)等の公的研究テーマにも多数の実績がある。