【少子高齢化】国家存亡の危機

2014年9月
取締役 矢野 元

7月に行われた全国知事会議は、少子高齢化により「日本は死に至る病」にかかっているとの警鐘を鳴らした。
「死に至る」とは穏やかでない。現在われわれは国家存亡の危機にあるということである。
しかし、そうした認識がどれほど共有されているのだろうか?
どうも現状では、「人口力」の減衰に関わる問題は、メディアでの取り上げられ方において、さして目立たないワン・オブ・ゼムに過ぎないように映る。
では、われわれの置かれた状況がどれほどのマグニチュードの話なのか、ここで少し考えてみよう。

国連の推計によれば、2013年から20年の間に、日本の労働人口は約500万人減少する。これだけではピンとこないかもしれないが、日本経済の屋台骨である自動車関連産業の就労人口が550万人であることを思えば、いかに巨大な規模であるか想像がつく。日本でも最大の労働人口を擁するセクターが、たった7~8年で蒸発してしまう速度である。
また、わが国の1人当たりの名目GDPは13年で370万円程度であるが、仮に500万人の労働力が失われ、かつそれが別途(生産性の向上や自動化などで)補填されないと想定すれば、実に18.5兆円もの規模の付加価値創造能力が失われる計算になる。極めて雑ぱくな計算だが、深刻度の見当をつけるには、分かりやすいだろう。
東京都が試算した20年東京オリンピック開催による経済効果が約3兆円であったが、その何倍もの規模の富が失われようとしているのではないだろうか。しかもそれは、遠い未来ではなく、既に足元で相当進行している。

対策のヒントはある。もう何年も前から「奇跡の村」として取り上げられている長野県下條村が有力な一例だ。日本全国で直近1.41程度の合計特殊出生率だが、下條村は過去5年間の平均で1.86を記録しているという。
「奇跡」といえば、字義的には「常識では理解できない出来事」であり、再現や応用ができない事象であろうが、この自治体の取り組んできたことは、奇跡であったのか。
村営の「若者定住促進住宅」や付随する家賃補助、戸建ての建設費の10%補助、高校卒業までの医療費無料化、村営保育所の保育料減額、義務教育の給食費40%補助など、施策そのものが常人に着想不可能ということではないだろう。
むしろ、公的機関の職員を徹底的にスリム化したことや、公共事業においてできるだけ村民が手足を動かし、行政は資材を提供するにとどめる「資材支給事業」を立ち上げるなど、行政コストをとことん最小化して財源を捻出したことが、重要な成功の要因であるといわれている。

つまり、既存の行政のやり方を徹底的に見直したところが、「革新的」であったということだろう。だとすれば、それを「奇跡」と呼ぶのでは、やはりわれわれは実に深刻な「死に至る病」にあると言わざるを得ない。
村で実現してきた「革新的」なことを、国レベルで進めていけるか、そこがわれわれの正念場ではないか。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2014年8月18日号掲載