【観光産業】インバウンド需要

2014年10月
理事研究員 池内 伸

少子高齢化が進む日本経済の中で、大きなポテンシャルを秘めるとクローズアップされているのが観光産業だ。日本は世界でトップクラスの経済力や市場を持ちながら、ビジネス以外で訪れる外国人が少ないといわれていた。データを見ても観光大国のフランスや米国はもちろん、シンガポールや韓国といったアジア諸国との比較でも海外からの観光客の少なさが歴然としていた。

日本政府は観光立国を目標に掲げ、2007年1月に観光立国推進基本法を施行し、観光ビザ発行の条件緩和などをはじめとした海外からの観光誘致策を拡大した。

ここ数年は09年のリーマンショック、11年の東日本大震災、尖閣諸島をめぐる日中対立など大きなアクシデントが続き、観光客数は大きな増減を繰り返していたが、13年に初めて1千万人の大台を突破した。14年に入ってもそれをはるかに上回るペースで多くの外国人観光客が日本を訪れている。

最近の傾向として韓国、中国、香港など東アジアだけでなく、欧米やASEAN諸国からの観光客も目立つようになった。東京、大阪など大都市や北海道、沖縄といった有力観光地は国際都市、国際観光地と呼べる雰囲気が出てきた。

これに伴い期待が高まっているのが、訪日観光客の消費であるインバウンド需要だ。中心は中国人観光客で、他国の観光客と比べて購買力は群を抜く。中でも東京の銀座や新宿、大阪の心斎橋といった地域での購買力はさらに高い。特に高額品の需要が目を引く。現在銀座には多くの有力ブランドが路面店を出店しているが、売り上げ全体の30%、高いところでは50%程度がインバウンド需要となっている。銀座の百貨店でも全館の売り上げの10~15%程度を占めている。

矢野経済研究所の推計で、ファッション商品(アパレル製品・かばん・靴・服飾雑貨)のインバウンド市場規模は、13年に始めて1千億円の大台に乗ったとみられる。市場全体の10%弱にまでシェアを高めている。

中国人観光客の特徴として、高額なものを好んで購入するほか、お土産需要の高さがある。同じものを十数個まとめて買う傾向があり、これが結構な金額となる。海外旅行に行く際には、会社の同僚などに知らせるため、必ずお土産が必要となる。化粧品や日用雑貨が人気で、ドラッグストアなどは大きな恩恵を受けている。一つのスーツケースに収まらなくなり、日本でもう一つスーツケースを買う人もいる。当初は買い物ばかりにお金をかけ、宿泊や食事にはさほどかけないとされていたが、リピーターが増えるにつれ、徐々にそうした需要にもお金が回り始めている。

東京五輪が控える20年までは順調に訪日観光客が増加し、13年の2倍となる2千万人が見込まれているが、今後大きなアクシデントがなければ、それを上回る可能性が高い。インバウンド需要も、今の倍以上の規模となる。各社とも、伸びしろが大きいこのターゲットに照準を当てた戦略を取ってくることが確実である。日本の国内市場は、これまで経験したことがない、海外の消費者頼みといった構造になりつつある。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2014年9月15日号掲載