アナリストeyes

【情報通信】ネットとテレビの不思議な関係

2015年1月
理事研究員 野間 博美

マスメディア業界とネット業界は競合関係にあり、基本的に仲が悪いというのが、これまでの認識であった。例えば、双方の主要な収益源である広告分野では、市場を奪い合う関係にあり、お互いをライバル視する傾向があった。

かつてフジテレビとライブドアはニッポン放送の経営権をめぐって激しく争った。マスメディア側からすれば、後進であるネット業界が、自分たちの地位をおびやかしてくることに心穏やかでなく、敵対視している印象さえあった。

利用者の側にも、双方向性を持つネットの方が利便性が高く、コミュニケーションにも利用できる優れたツールとの認識が強かったといえる。特に初期のネット利用者は比較的リテラシーの高い層が多かったこともあり、マスメディアは一方通行の古いメディアだと見ていた。

しかし最近はそういった風潮が、大きく変わってきている。

マスメディアとネットの融合で、最初にブームになったのが、テレビCMの「続きはウェブで」というお決まりのフレーズである。

もともとテレビは細かな商品スペックを伝えるには不向きなメディアである。これに対し、ウェブサイトは好きな時に好きなだけ時間を使ってもらい、商品の特徴を詳細に伝えることができる。そこで、イメージ訴求はテレビを使い、商品の理解促進のためにはウェブへ誘導する、という広告業界の流れが構築された。

ネットのショッピングモール最大手・楽天は、大量のテレビCMで自社の期間限定セールを大々的に告知するなどの活用を図るようになった。最近ではネット端末の主役となりつつあるスマートフォンも、販売拡大にはテレビCMが欠かせないようで、盛んにテレビCMを放送している。ネット業界の広告事業者最大手グーグルも、ことあるごとにテレビCMを出稿している。

極め付けの動向として、最近のスマホアプリ事業者の動きを挙げることができる。

知名度の低い新興スマホアプリ事業者は、自社のサービスに可能性を感じてくれる出資者から多額の資金を集め、それをテレビCMなどのマスメディア広告へ一気に投下している。狙いはサービスの知名度向上や無料ダウンロードの働きかけだ。無料ダウンロードで自社のアプリユーザーを大量に確保し、その後の広告表示や課金で投下資金を回収するスキームが出来上がりつつある。

いま最もホットな争いが繰り広げられているのは、スマートニュースやグノシーといった、ニュースアプリ業界だ。ゲームアプリでも、テレビCMに大量の広告料を投下して無料ユーザーをかき集め、その後、利用者に対するアイテム課金や広告表示で何倍もの資金を回収しようと狙っている。

こういったマスメディア事業者とネット事業者の関係は、10年前には見られなかった。手軽に知名度を上げられるというテレビCMの機能が、ネット業界で見直された結果だろう。

一昔前までお互いに敵対視すらしていた二つの業界だが、時代とともに、それぞれの強みを生かして、うまく融合していくものだと感心している。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2014年12月15日号掲載