アナリストeyes

アジア新興国のボリュームゾーン市場の可能性

2017年1月
主席研究員 浅井 潤司

アジア新興国の個人消費が拡大するなかで、中間所得者層の拡大が注目されている。日本貿易振興機構の資料によれば、アジア新興国における中間所得者層は、2000年の2.2億人から2010年には9.4億人に拡大、2020年には20億人に拡大することが見込まれている。

このように、これから経済が発展していくアジア新興国の多くはボリュームゾーンと呼ばれる中間所得者層、もしくは次の中間所得者層となりうる低所得者層であるが、多くの日系企業は富裕層しか攻め切れていないのが現状である。多くの日系企業は現地において、「現地での知名度の低さ」「先進国と違う流通網」「ローカルメーカーとの圧倒的な価格差」「日本より厳しい競争環境」「日本と異なる消費者ニーズ」など、多くの課題に直面している。

これらの状況を打破し、日系企業にとってこれからの市場拡大が見込め、より多くの人々の生活向上につながるボリュームゾーン向けの事業を展開していくには、都市部の富裕層向け事業とは異なるノウハウが必要となっている。

流通パートナーの活用

アジア新興国は地域や国によってビジネス習慣、消費嗜好、流通構造も全く異なる。また、近代小売業が少なく、流通網が日本と違うケースも多い。自らの経営資源で現地市場を攻略する手法もあるが、時間的・資金的に投入できる資源が限られている場合に頼りになるのが現地の流通パートナーである。彼らは現地のビジネス習慣に精通し、人脈も持つ現地の名士的存在であり、地方で販売したい場合は、流通パートナー経由で販売する方法が最も早く効率的である。

所得層別にあわせた商品戦略

アジア新興国市場を開拓するにあたって問題となるのが価格面である。日系企業の商品の優秀さを疑う消費者は居ない。しかしながら、その商品は富裕層にとっては魅力的であっても、中間所得者層や低所得者層に対しては通用しない可能性が高い。日本と生活習慣が違い、収入も低く、製品経験も少ない中間所得者層・低所得者層の消費者にとっては、基本的性能だけで満足する場合も多く、求めているものが違う場合が殆どである。日系企業としては、市場ニーズにあった価格帯の商品を開発していくことが求められており、所得層別の商品展開を行う必要がある。具体的には、以下の施策が考えられる。

①富裕層(世帯可処分所得 35,000 ドル超)
・日本で販売する中価格帯・高価格帯商品の横展開
②中間所得者層(世帯可処分所得5,000ドル~35,000ドル未満)
・日本で販売する低価格帯商品の横展開
・アジア戦略製品の開発
③低所得者層(世帯可処分所得5,000ドル未満)
・サイズバリエーションによる対応

BOP層へのアプローチ

BOPは「Bottom of the Pyramid」もしくは「Base of the Pyramid」の略で、低所得層の中でも、経済ピラミッドの底辺にいる年間所得3,000ドル未満で生活している40億人を顧客として捉えた概念である。BOP層の40億人の総収入は5兆ドルになり、これは日本の実質国内総生産に匹敵するという巨大なマーケットとなっている。また、経済成長を続けるアジアのBOP層は中間層予備軍、つまり中間所得者層をターゲットにしたミドル市場の前哨戦であることから、BOP層へのアプローチを強化する必要がある。BOPビジネスのポイントとしては、以下の3つがあげられる。

①CSRとマーケティングの融合
②安価な小分け商品のラインアップ
③BOP層へアプローチ可能な販売体制の構築

アジア新興国では、急速に拡大する中間層が市場を牽引する形で市場は拡大基調で推移し、主役は富裕層から中間層になるといわれており、今後のアジア新興国の主戦場は、中間層をターゲットにした市場となる。しかしながら、BOP層は中間層予備軍であることに加えて巨大なマーケットでもある。これらのことから、アジア新興国開拓にあたっては、中間所得者層へのアプローチはもちろん、その予備軍であるBOP層へのアプローチも視野に入れる必要がある。

アジア新興国における日系企業は、‘意思決定の遅さ’‘ブランディング力’といった点に弱みがあるものの、‘粘り強さ’‘現地市場への貢献性’‘継続性’‘製品安全性・機能性’などの強みも多く、アジア新興国市場におけるポテンシャルは高い。

今後の日系企業は、アジア新興国市場においてボリュームゾーンである中間所得者層、もしくは次の中間所得者層となりうる低所得者層に向けた事業展開を行うことによってアジア新興国のボリュームゾーン需要の取り込みを図り、更なる成長を求めていくべきである。

※本稿のアジア新興国とは、中国、香港、台湾、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピンのことを指す。