建設業の脱炭素化はサプライチェーン全体を巻き込む段階へ
1.調査結果概要
日本政府は、2020年10月に2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという目標である「2050年カーボンニュートラル宣言」を示した。これにより国内のあらゆる産業はカーボンニュートラルや脱炭素を事業活動の基軸に据えており、建設業においてもこうした取り組みが進められている。
近年では、環境配慮型建材の登場や、建設現場で排出された建設資材の廃材を回収しリサイクルを行うメソッドの確立など、具体的な施策が顕在化し、本格的な実用化に向けた動きが進展している。
GHG(温室効果ガス)排出量を開示しているゼネコン、ハウスメーカー、デベロッパーにおける2023年度の排出量実績では、いずれの事業者も総排出の概ね90%超をScope3が占めるという構造が明確になった。
Scope1(企業活動における直接排出)は建設現場で使用する重機等の燃料から排出されるGHGが中心であり、電動建機の活用やバイオディーゼル、GTL(Gas to Liquids、天然ガスから作られるクリーンな燃料)など代替燃料の導入、省燃費運転が進む一方、水素建機などの革新技術の実用化等は中長期的なテーマである。
Scope2(購入電力による間接排出)は非化石証書付き電力、J-クレジット(温室効果ガス削減量の取引制度)、グリーン電力証書(再生可能エネルギー由来電力の環境価値証書)、自社再エネ(再生可能エネルギー)発電の導入が広がり、ハウスメーカーでは住宅オーナー(所有者)の余剰・卒FIT電力(固定価格買取(FIT)終了後の余剰電力)を活用するスキームによりカーボンニュートラルを達成した事例も出ている。
Scope3(バリューチェーン由来の間接排出)では、中でもカテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ11(販売した製品の使用)の寄与が極めて高く、製品やサービスを提供するサプライヤー間における連携が不可欠となる。
2.注目トピック
Scope3(サプライチェーン全体の間接排出)の削減に向けた今後の動向
建設業におけるScope3は事業者のサプライチェーン起因の間接排出を指し、総排出の9割超を占める。特にカテゴリ1(購入品)とカテゴリ11(販売した製品の使用)の排出量が大きい。排出量削減に向けては、LCA(ライフサイクル評価。原材料採取から廃棄までの環境影響を評価する手法)に基づき、資材毎のGHG(温室効果ガス)排出量の可視化や環境負荷低減の資材・素材への転換が中核となる。
サプライヤーにおいては、企業活動におけるGHG排出削減に向けて、SBT認証(科学的根拠に基づく企業の排出削減目標)の取得が推奨される。また資材においては、低炭素コンクリートやグリーン鋼材(製造時CO2排出を大幅削減した鋼材)、木材利用、リサイクル材の活用など環境負荷低減に繋がる資材が調達要件として重要視され、環境負荷低減の証明としてEPD認証(環境製品宣言。LCAに基づく製品の環境情報を第三者が認証して開示する仕組み)の取得が求められていくこととなる。
Scope3の削減に向けては、建材等のサプライヤーは低炭素型の建材の提供や、その証明としてEPD認証の取得は重要視されるものと考える。
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ハウスメーカーの取組
デベロッパーの取組
調査要綱
2.調査対象: ゼネコン 、ハウスメーカー、デベロッパー、建材メーカー
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング調査および文献調査併用
<建設業におけるカーボンニュートラル施策とは>
本調査では、 ゼネコン、ハウスメーカー、デベロッパー、建材メーカーなどの事業者ごとの観点から建設業におけるカーボンニュートラル施策について、企業活動におけるGHG(温室効果ガス)の直接排出であるScope1、購入・使用した電力、熱、蒸気などのエネルギー起源の間接排出であるScope2、製品調達・物流・使用・廃棄などのバリューチェーン由来の間接排出であるScope3といった事業者ごとのサプライチェーンのGHG排出削減の取り組みを調査・整理し、現況や今後の展望、課題を分析した。
サプライチェーン排出量の定義は下記に準じている。
Scope 1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope 2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope 3 : Scope 1、Scope 2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
参照:環境省ホームページ https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
<市場に含まれる商品・サービス>
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