プレスリリース
No.3905
2025/10/24
賞味期限延長がもたらすサプライチェーン変革に関する調査を実施(2025年)

国内チルド食品の賞味期限を従来比1.5倍に延長した場合の廃棄損失削減効果を予測
~チルド食品は約235億円相当の廃棄削減効果が生まれると試算~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の加工食品市場における賞味期限延長がもたらすサプライチェーン変化を調査し、賞味期限延長や年月表示への切り替えによる効果、「2分の1ルール」採用による変化、食品流通における将来展望を明らかにした。
​ここでは、チルド食品の賞味期限を従来比1.5倍に延長した場合の廃棄損失削減効果について、公表する。

チルド食品市場における賞味期限延長の廃棄損失削減効果 (試算)
チルド食品市場における賞味期限延長の廃棄損失削減効果 (試算)
チルド食品の賞味期限延長による廃棄損失削減額
チルド食品の賞味期限延長による廃棄損失削減額

1.市場概況

本調査では、国内においてチルド食品の賞味期限を従来比1.5倍に延長した場合の廃棄損失削減効果を試算した。

まず、国内加工食品市場規模31兆1,416億円※1(2023年度見込値)を基に、2023年度のチルド食品市場規模を2兆9,811億円(メーカー出荷金額ベース、8分野20品目)と推計した。本調査におけるチルド食品は、賞味期限が10日から60日の商品とし、日配品(毎日店頭に配送される加工食品)は含んでいない。

現状(賞味期限延長前)におけるチルド食品の廃棄率※2を、賞味期限10日から60日までの51日間別に算出し、各日数分の廃棄率をチルド食品全体の市場規模に乗じて平均し、廃棄損失額を509億円と算出した。
次に、チルド食品の賞味期限を従来比1.5倍に延長した場合(賞味期限15日から同90日の商品まで)の廃棄率を51日間別に算出し、同様に廃棄損失額を274億円と算出した。
今回の試算では、チルド食品(賞味期限が10日から60日の商品、日配品を除く)の賞味期限を従来比1.5倍にすることで、廃棄損失額は235億円相当削減する効果があるという結果になった。

※1 「国内加工食品市場に関する調査を実施(2024年)」(2024年10月29日発表)
15分野188品目の市販(家庭用)加工食品を対象として、メーカー出荷金額ベースで市場規模を算出した。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3625
※2  廃棄率は、商品が販売されずに、生産メーカーや卸へ返品されたり、小売店舗で廃棄されるケース、さらにはフードバンク等への寄付に回るケースも含む、最終的な未販売品の割合を指す。

2.注目トピック

賞味期限延長による変化

食品業界の「3分の1ルール」※3などの慣習は、食品ロスの一因とされており、見直しや緩和の動きが、複数の食品メーカーや食品卸で広がっている。
賞味期限を延長した品は返品や欠品が少ない商品として評価が高まり、新規の卸業者や小売業者への導入が進んでいる。その結果、既存の取引が拡充したり、新たな販路を獲得したりする動きが共通して見られる。小売店での取り扱いが増え、出荷数量の増加につながる事例も確認された。
また、卸業者にとって、賞味期限の延長は取引価格や仕入れ条件に大きな変化をもたらすことはなく、従来通りの取引条件で販路を拡大できている。

​物流面では、賞味期限が長くなることで出荷ロット(一回当たりの出荷量)を大きく組めるため、倉庫保管や輸送の効率化が進んでいる。製造後の在庫保管が容易になり、転送や再納品に関する業務が簡素化される事例がみられる。
また、出荷タイミングの調整余地が広がり、配送計画の柔軟性が向上したことで、物流負荷の軽減にもつながっている。
​賞味期限延長後の卸業者における在庫管理の対応は企業ごとに異なり、安全在庫の基準を高く設定して欠品を防ぐ方向で対応する企業がある一方で、在庫回転を重視し、従来通りのオペレーションを維持する企業もある。

※3 「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までの期間を3分割し、最初の3分の1の期間内に小売店に納品するという慣習である。ルールに則するとその期間を過ぎた商品は廃棄される可能性が高くなるため、「2分の1ルール」に緩和するなどの取り組みが研究会等で行われている。 

3.将来展望

本調査の結果から、賞味期限の延長は食品業界のサプライチェーン全体に多面的な影響を及ぼす可能性があると考える。

食品メーカーの製造面では、製品の長期保存が可能になることで、製造ロット(一回当たりの製造量)を大型化できる。これにより、段取り替えや洗浄作業の頻度を抑え、製造ラインの稼働効率を向上させることができる。結果として、労務費やエネルギー使用量の削減につながると考えられる。
物流・卸業者の領域においては、返品による廃棄リスクが縮小し、在庫管理や配送の柔軟性が向上する。返品率の低下は食品ロスの削減と環境負荷の低減につながる。
小売業者では、店頭での見切り販売や値引き販売が減少することで、作業工数や人件費が抑制されると同時に、廃棄に伴うコストを削減できる。

さらに、全体として賞味期限延長は、フードロスの削減、資源使用量の削減、環境負荷の低減といった社会的価値の創出にもつながっている。そのため、ESGへの取り組み姿勢を明確にする企業にとっては、中長期的なブランド価値の向上にも寄与する重要な施策であると位置づけられる。
​このように、賞味期限の延長は単なる日付の調整にとどまらず、食品サプライチェーン全体の効率性と持続可能性を高める鍵となり得る取り組みである。すべての工程に「余裕」と「合理性」が生まれることで無駄が減り、経営効率と環境性能の両方が改善される。

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    調査要綱

    1.調査期間: 2025年4月~7月
    2.調査対象: 賞味期限延長または年月表示への切り替え実績がある食品メーカー、食品卸、研究会等
    3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、アンケート調査、ならびに文献調査併用

    <チルド食品の廃棄率、廃棄損失額とは>

    本調査では、国内においてチルド食品の賞味期限を従来比1.5倍に延長した場合の廃棄損失削減効果を試算した。

    国内加工食品の市場規模31兆1,416億円※1(2023年度見込値)を基に、2023年度のチルド食品市場規模を2兆9,811億円(メーカー出荷金額ベース、8分野20品目)と推計した。本調査におけるチルド食品は、賞味期限が10日から60日の商品とし、日配品(毎日店頭に配送される加工食品)は含んでいない。
    チルド食品の廃棄率※2は、賞味期限10日から同60日の商品まで51日間別に廃棄率を算出し、各日数分の廃棄率をチルド食品全体の市場規模に乗じて平均し、廃棄損失額を算出した。

    ※1 「国内加工食品市場に関する調査を実施(2024年)」(2024年10月29日発表)
    15分野188品目の市販(家庭用)加工食品を対象として、メーカー出荷金額ベースで市場規模を算出した。
    https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3625
    ※2  廃棄率は、商品が販売されずに、生産メーカーや卸へ返品されたり、小売店舗で廃棄されるケース、さらにはフードバンク等への寄付に回るケースも含む、最終的な未販売品の割合を指す。

    <市場に含まれる商品・サービス>

    チルド食品

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