2024年の国内インポートブランド小売市場は前年比19.7%増と更なる拡大、継続する円安を背景にインバウンド需要の拡大が寄与
~2025年は一転してインバウンド需要の失速による縮小を予測~
1.市場概況
2024年の国内インポートブランド(主要15アイテム分野)の小売市場規模は、前年比19.7%増の4兆4,994億円と推計した。2024年の市場拡大の要因としては、株高を背景とした国内富裕層の消費拡大に加え、円安によるインバウンド(訪日外国人客)需要の増加が大きく寄与したと考える。
JNTO(日本政府観光局)の統計発表によると、2024年の訪日外客数(インバウンド)は前年比47.1%増の3,687万人となり過去最高を更新した。当社で算出した2024年のインポートブランドにおけるインバウンドマーケットの小売市場規模は、2023年比181.9%増と推計している。コロナ禍以降、インバウンドにとっては、急激な円安を背景に日本でのショッピングが主な目的となっている傾向が見られ、人数比以上に消費額が大きく伸びている状況である。2024年のインバウンド消費額が拡大した要因としては、中国人インバウンドの人数増加が影響していると考える。中国人インバウンドの購買力の高さについては、観光庁が発表した「外国人消費動向調査」においても、1人あたりの買物代が他国籍を大きく上回っていることに表れており、ブランド各社へのヒアリングでも同様の傾向が確認できた。コロナ禍以降、回復が遅れていた中国人インバウンド人数が、2024年は前年比287.9%(出典:JNTO)と急増したことが、当該マーケット規模の拡大に大きく寄与したと考える。
一方で、インバウンド需要の急拡大は、市場に様々な影響をもたらした。インバウンドの急増により、都心の人気ブティックには連日長蛇の列ができ、常に入店制限がかかるような混雑した店内での買い物を敬遠する日本人顧客も増加した。また、在庫が十分に用意できず機会損失を起こすブランド、繁忙によりスタッフが疲弊するブランドが出てくるなど、オペレーション面の課題も表面化した。こうした状況を受け、各ブランドでは在庫管理体制の強化や人員配置の見直しなど、対応策を講じる動きが見られた。
2.注目トピック
継続した商品価格の値上げが、中間層と若年層消費の冷え込みに直結
コロナ禍以降の原材料や人件費、輸送コストの高騰に加え、急激に進んだ円安の影響による商品値上げは2024年も継続した。
当社が集計対象にしているブランド群の値上げ状況を見ると、2024年の値上げは平均10%強となり、ブランドにより5%~20%の範囲でかなりの差があった。総じてジュエラーは値上げ率が高く、また例外もあるが、人気ブランドほどその上げ幅は高い傾向にあった。なお、いずれのブランドも値上げ幅については2022年や2023年の方が大きかったが、2021年から続く継続的な値上げにより、商品価格はコロナ禍前(2019年)の1.5倍以上の水準となっている。
「リセールバリュー」があるという理由から、若年層や中間層に好んで購入されていた人気ブランドであっても、購入が困難な価格帯となったと認識されたと見られ、2024年上期(1~6月)までは好調な売れ行きを示していたブランドが、下期(7~12月)には売上が鈍化する傾向が広がった。
3.将来展望
2025年に入り、インバウンドの消費動向に変化が生じている。日本を訪れるインバウンド人数自体は引き続き増加している(出典:JNTO)にもかかわらず、ラグジュアリーブランドの消費は減速している状況である。
インバウンド需要減速の要因はいくつかあるが、最も大きいのは為替レートが円高基調に転じたことと考える。2025年の年明けに誕生した米・トランプ政権による関税政策により、株式市場の変動と円高基調への転換が起こった。さらに、景気低迷が続く中国経済の悪化懸念から、中国人インバウンドのラグジュアリー品の消費額が大幅に減少している。
また、もう一つの要因として挙げられるのが、商品価格の値上がりである。ここ数年の値上がりにより商品の内外価格差が縮小したことで、為替の変動によっては日本市場の価格優位性が薄れている。
2025年は、インバウンド需要の減速により、多くのブランドが2024年の業績を下回る見込みとなっている。インバウンド需要の恩恵がより大きかった有力ラグジュアリーブランドほど、そのマイナス影響が大きい状況である。さらに、商品価格の値上げにより一般消費者の需要は鈍化しているほか、マーケットを支える富裕層についても、モノの消費には一巡感が出ている。資産価値のあるアイテムを除くと、消費に選別の動きが見られる状況である。富裕層の消費動向に影響の大きい株価は2025年夏以降上向いているが、世界経済の先行きの不透明さは解消されていないことも懸念材料として挙げられる。
以上のことから、2025年の国内インポートブランド(主要15アイテム分野)の小売市場規模は前年比6.7%減の4兆1,979億円と予測する。急激な円安を背景に拡大を続けたインポートマーケットは、2025年以降は調整局面に入るものと予測される。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】Aパターン
インポートウォッチマーケット
インポートジュエリーマーケット
調査要綱
2.調査対象: 欧州、米国の衣料品・服飾雑貨、ウォッチ、ジュエリー、クリスタル製品・陶磁器、アイウェア、筆記具ブランドを輸入販売する商社、メーカー、小売事業者、また各インポートブランドの日本法人等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用
<インポートブランド市場とは>
本調査におけるインポートブランド市場とは、従来から算出していたインポートブランド市場規模(主要10アイテム分野)に5アイテムを追加し、主要15アイテム分野とした。
主要15アイテム分野とは、①「レディスウェア」、②「メンズウェア」、③「ベビーウェア」、④「バッグ・革小物」、⑤「シューズ」、⑥「ネクタイ」、⑦「スカーフ・ショール・ハンカチ類」、⑧「レザーウェア」、⑨「ベルト」、⑩「手袋」、⑪「ウォッチ」、⑫「ジュエリー」、⑬「クリスタル製品・陶磁器類」、⑭「アイウェア」、⑮「筆記具」である。尚、いずれも欧州、及び米国からの輸入品を対象とする。
<市場に含まれる商品・サービス>
レディスウェア、メンズウェア、ベビーウェア、バッグ・革小物、シューズ、ネクタイ、スカーフ・ショール・ハンカチ類、レザーウェア、ベルト、手袋、ウォッチ、ジュエリー、クリスタル製品・陶磁器類、アイウェア、筆記具
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