2026年、世界と未来への信頼をつなぐために

新年おめでとうございます。
年頭にあたり謹んでご挨拶を申し上げます。

株式会社矢野経済研究所
代表取締役社長 水越 孝

トランプ2.0の最初の1年が終わった。不法移民を排除し、脱炭素を嘲り、多様性を拒否し、世界を相互関税で恫喝する。パリ協定、世界保健機構(WHO)、国連人権理事会、ユニセフからの脱退を表明し、米国の対外援助を担ってきた米開発局(USAID)を解体した。
国内では民主党の支持率が高い主要都市に対して「治安の悪化」を理由に軍を投入、政権に批判的な言論を展開する大学やメディアを「国家安全保障上の脅威」として排斥する。
トランプ氏の王様ぶり、政権の強権化は、恐らく多くの米国人が共感した“MAGA”(米国を再び偉大に)の政策理念とは別の次元にある。もはや自国第一主義の一線を越えており、米国の民主主義そのものが“フェイク”の危機に瀕しているということだ。

米中対立の中、リスクを抱合しつつ成長するASEANとの連携強化を

世界で分断が深まる中、多国間主義への信頼が揺らぐ。企業を取り巻く外部環境はますます不安定になると同時に事業活動における地政学的な制約が強まる。

自由貿易の理念が遠のく中、皮肉にも中国がその擁護者として名乗りをあげる。昨年10月末、APEC首脳会議に出席した習近平氏は、米国を念頭に保護主義への懸念を表明するとともに多国間貿易の重要性を訴えた。
実際、2025年1月-11月における中国の貿易黒字は1兆758億ドル、▲18.9%と大幅減となった米国向けの輸出額をASEAN、EU、アフリカへ分散させ、補った。伸長率はそれぞれ+13.7%、+8.1%、+26.3%、貿易黒字は2年連続で過去最高を更新する勢いである。
もちろん、最大の輸出先である対米輸出マイナスの損失は大きい。しかしながら、トランプ氏が仕掛けた関税戦争は結果的に中国に新たな成長機会を与えたとも言えよう。一方、米国もまた中国依存の低減をはかる。輸入元の切り替え先はやはりアジアである。

とは言え、アジアと中国、アジアと米国との関係はいずれもウインウインとは言い難い。安価な中国製品の大量流入は成長途上にある国内産業にとっての脅威であり、一方、対米輸出の拡大は米国にとって貿易収支の悪化を意味する。2025年1月-7月、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアに対する米の貿易赤字は前期比1.5倍に拡大している。“赤字”はトランプ氏の嫌うところであり突然の追加関税といった制裁措置への警戒も高まる。
一方、日本企業にとっても米中が最大のリスク要件である。米国の対外政策は依然として安定しないし、中国との関係にも亀裂が入った。とは言え、コロナ禍を契機に大手企業の危機対応力は強化されており、多くの企業で事業ポートフォリオの再構築が進んでいる。一定の時間を要するとしても克服は可能であり、中立的で安定的なパートナーシップを前提にアジアが抱える構造問題の中に新たな事業機会を見出してゆきたい。

成長への希望と成果の共有に向けて、大企業は旧来の取引構造の見直しを

昨年末、日銀は物価の安定と賃上げの継続的な実施を促すべく政策金利を0.75%へ引き上げた。しかし、実勢金利と比較すると依然として緩和的な水準であり、成長型経済の実現のためには賃金水準の持続的な引き上げが不可欠である。政府の掛け声もあり、産業界の賃上げ機運は高い。
しかしながら、労働分配率は依然として低く、2024年末、企業の内部留保の総額が636兆円と過去最高を更新する一方、労働分配率は53.9%、1973年以来の低水準にとどまる。すなわち、マクロ的には賃上げのポテンシャルは十分にあるということだ。問題は中小企業、彼らに財務的な余裕はない。
日本商工会議所によると、7割を越える中小企業が賃上げを予定しているものの、うち6割は業績改善がみられない中での“防衛的賃上げ”であったという(調査期間:2024年4月-5月)。そもそも多くの中小企業は大企業を頂点とする連鎖的な下請構造の中にあって公正な利益配分の埒外にある。否、そればかりか、依然として下請法における指導件数が年間8千件を超えるなど(令和6年度)、優越的な立場にある大企業と下請企業の取引構造は本質的に変わっていない。2026年3月期も上場企業の多くが好決算を見込む。異次元緩和の後遺症から日本経済を脱却させるためにも、大企業には是非ともサプライチェーン全体利益の底上げを実現していただきたい。

米オープンAI社がChatGPTをリリースして3年、世界の景色は一変した。ディープフェイク、知的財産権、セキュリティ、ガバナンスなど、もろもろの課題を抱え込みつつも、もはや後戻りはない。未来が突如として手元に引き寄せられた感がある一方、その先の未来への確信は遠のく。今、漠とした不安とイノベーションへの期待が交差する。そして、前者に現実の格差と閉塞感が重なる時、日本もまたトランプ的なポピュリズムに覆われかねない。
未来への信頼をつなぐために私たちはどう行動すべきか。フェイクを排し、事実を根拠とした多様な言論空間を維持し、多国間主義への信頼を回復すること、ここが私たちの自由で、豊かな活動をつなぎとめる起点であり、また、前提条件である。

本年もご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。