福島の原状回復に向けて、官民の枠を越えた長期的な研究体制の構築を


筆者は一昨年、岐阜県多治見の窯業原料メーカー㈱ヤマセとともに、タイルの製造工程で廃棄される黒雲母を「除染の現場で活用して欲しい」と日本原子力産業協会を介して働きかけた。黒雲母は放射性セシウムの吸着力が高く、溶出させないという物理的特性を持つ。残念ながらその時点で除染工程は終盤期にあり、採用は見送られた。そして、2018年3月、“汚染状況重点調査地域”に指定された36市町村の面的除染はすべて終了した。
とは言え、除染の完了は放射性物質の消滅を意味しない。住民の生活圏にあった放射性物質を“集め”、生活圏外へ“移動”させただけである。

黒雲母のセシウム吸着について学術的な研究を行なってきた東京大学大学院地球惑星科学の小暮博士は、「長期間にわたってセシウムを固定させる黒雲母は中間貯蔵施設からの2次流出を防ぐうえで効果的かもしれない。溜池や湖沼に堆積した放射性物質を固定化させることも出来るだろう」と語る。東大では農学部でも植物への放射性物質の吸収抑制に関する研究が進む。

福島第1原発事故から7年、復興のステージは「復興・創生期」(2016-2020度)の半ばにさしかかる。インフラ復旧は確実に進展しつつある。昨年4月には避難指示地域も大幅に緩和された。
一方、セシウム137の半減期は30年、毒性が1/8になるまで90年を擁する。原子力災害は人間の一生に収まるものではなく、ましてや復興を進める行政の時間軸で解決できる問題ではない。最終処分まで視野に入れると膨大な時間を要する。
今、私たちはそうした時間軸に立って復興の意味と範囲を再定義し、そのうえで、様々な機関が行っている実験や観測データを科学的に統合、体系化してゆく必要がある。そして、それを世界に発信し、未来に伝えてゆく責任が日本にはある。原子力災害に関する研究はまだ始まったばかりである。

今週の”ひらめき”視点 4.22 – 4.26

代表取締役社長 水越 孝

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