アナリストeyes

パチンコという一大文化産業の成長戦略

2010年8月
主任研究員 石川 誠

今年(2010年)は、行政に認可された初のパチンコ店が誕生してから80年、パチンコ機の業界団体・日本遊技機工業組合が誕生してから50年、パチスロ機(※スロットマシンを日本仕様にアレンジしたもの)の業界団体・日本電動式遊技機工業協同組合が誕生してから30年を迎えるなど、パチンコ産業にとって記念すべきメモリアルイヤーとなっている。しかし時代の波に押され、パチンコ産業がこれまでにない苦境に立たされているのも事実だ。そこで記念すべき2010年を、2030年に迎えるパチンコ産業100年史へのターニングポイントと捉え、勤勉な風土を持つ日本において巨大なゲーミングビジネスに成長したパチンコ産業の影響力を改めて振り返り、「日本発祥のエンターテインメント産業」という視点から、次代に向けた戦略について、私案を述べたい。

パチンコ・パチスロは世界に類を見ない巨大な文化産業

パチンコ業は、その特異性ゆえに「ギャンブル」の一言で片付けられてしまい、産業的視点から分析されることはあまりない。また、在日韓国人の方々が数多く経営に携わってきたこともあり、日本で醸成された文化であるという議論がなされることもさほどない。だが、パチンコ機やパチスロ機が、当たりか外れかの結果を知らせる機能だけではなく、プレイヤーに飽きが来ないよう、様々な技術的改善・工夫を加えることで、「遊技機」として進化を遂げていったのは、まさに日本の強みである「ものづくり」の伝統文化を反映していると言っても良いだろう。しかも、高度経済成長期の1970年代には成人男性のほとんどがパチンコを趣味とし、参加人口がおよそ4,000万人程度存在したことを考えると、日本という勤勉な国で醸成された娯楽産業「パチンコ」は、世界でも類を見ないほど成功したゲーミングビジネスであることが分かる。そして市場規模も桁違いに大きく、経済的影響力は中堅国のGDPにも匹敵する勢いだ。
パチンコホールにおける貸玉料基準の売上規模は、最盛期の1990年代後半には30兆円を超えていた。ただ昨今は、財団法人日本生産性本部「レジャー白書」によるとほぼ20兆円水準にまで減少。マーケットサイズはピーク時に比べて3分の2になってしまい、パチンコ参加人口も最盛期の半分以下に落ち込んでいる。このように市場全体は縮小均衡になっているわけだが、その反面、パチンコ機やパチスロ機の新台出荷額は、当社調べによると1兆円を超える水準にまで拡大している。1990年代半ばには6,000億円程度の規模でしかなかったわけであるから、出荷数が増え、価格が上がり、製品としての高度化が一気に進んだことが窺える。では、どのように高度化が進展したかというと、液晶を初めとした数多くの電子部品が搭載されて映像と音響で迫力を出すことが可能になり、また、こうしたハードウェアの進化に連動して、著名なアニメ・コミック・芸能人・映画・ゲームソフトとのタイアップ作品が増え、「役物」と呼ばれるフィギュア・プラスチック加工物が「造形美」を演出し、作品の世界観をリアルに再現させられるようになったのである。
また、パチンコ営業所は現在、12,000店舗以上存在するが、企業としての大型化も進んでおり、2兆円の売上を誇る企業すら出現している。産業全体の雇用者数は30万人規模に達しており、こうしたことから、パチンコ・パチスロ産業は文化的視点・経済的視点の双方において、日本経済に大きな足跡を残していると言っても過言ではない。

パチンコ産業の次なる成長戦略

その昔、パチンコ機は手打ち式だった。私自身、幼少の頃、日曜日の夕暮れ時に手打ち式のパチンコでお菓子を取った、郷愁に満ちた想い出がある。「日本の昭和」を象徴する、古き良きアナログ時代のエピソードだ。しかしテクノロジーが進化し、デジタル時代となった現在、パチンコ・パチスロ機はアニメーションやCG映像を訴求する「映像メディア」になりつつある。そのため、この10年の間に若年層のファンは増えていったが、高齢者向けとは言いがたくなり、日本自体が高齢化社会へと移行するなか、大きなギャップが生じつつある。
その一方でパチンコ・パチスロ産業は、ゲーム産業、映像産業、キャラクタービジネス産業、モバイルコンテンツ産業、半導体産業、玩具製造業との融合が進み、ハードとソフト、リアルとバーチャルが一体となった新たなコンテンツ産業へと変貌しつつある。日本のアニメやコミック、ゲーム、アイドル、フィギュア・模型、特撮映像などのオタク文化は、アジア各国や欧米諸国で人気を博し、政府も輸出産業として強化しようとしている。日本国内の市場が縮小均衡するなか、そうした「潜在能力」を引き出すためにも、産業領域をグローバル対応へと拡張させる時期に来たかもしれない。日本発のゲーミング・エンターテインメント産業として、アジアにおけるカジノリゾートの普及と歩調を合わせながら、近隣諸国への拡大を皮切りに、世界の”Pachinko&Pachi-slo”へと名を馳せることも夢ではないだろう。

パチンコ・パチスロ産業の成長シナリオ

パチンコ・パチスロ産業の成長シナリオ

研究員紹介

石川 誠(主任研究員)

株式会社矢野経済研究所にて1995年から15年間、パチンコ・パチスロ産業の調査・分析に携わる。レポート執筆のほか、産業戦略の立案、遊技機メーカーのマーケティング支援業務や上場支援、パチンコホールの新規出店戦略の立案と商圏調査や各種コンサルティング活動、講演活動などを行う。