アナリストeyes

【ブランディング】高級ブランドと盆栽

2015年5月
理事研究員 池内 伸

昨年後半から仕事で「盆栽」に関わる機会があった。それまでは恥ずかしながら、さいたま市の大宮に「大宮盆栽」という世界的な文化があることも知らなかった。

盆栽は既に世界に広がり、世界各地で独自の「盆栽文化(BONSAI)」が存在している。米国、スペイン、フランスなどでは数万部を発行する「BONSAI」の雑誌があり、イタリアでは「BONSAI」の学校や美術館も存在している。

もともと「盆栽」の発祥は中国とされる。唐の時代の文化だった「山水」を二次元化したものが「山水画」、三次元化したものが「盆景」といわれる。

その「盆景」を平安時代末期に中国の貿易商が日本へ持ち込み、鉢に植えるスタイルが「盆栽」として知られるようになった。現在の盆栽は日本から世界に広まったが、日本の盆栽文化は世界の盆栽文化の頂点にはなりえていない。

私が通常、仕事で関わる機会が多い「文化」の一つとして、ヨーロッパの高級ブランドがある。ヨーロッパの高級ブランドは、ファッションという文化の中で、まさに世界の頂点にある。

昨年末にヨーロッパを訪れた際、イタリアのフィレンチェ郊外(トスカーナ地区)にある「フェラガモ村(イル・ボッロ)」を訪問した。フェラガモ家が地域一体をそのまま買い取った村であり、東京都の世田谷区より少し広いレベルの面積を誇る。

一帯に独特の雰囲気があり、ブランドというよりも、イタリア・トスカーナの中世イメージがそのまま表現されている光景が広がっていた。

ヨーロッパの高級ブランドと日本の盆栽は、共に世界に誇れる文化として共通している。だが、それぞれの文化での位置付けが異なっている。盆栽はクールジャパンの一つにもなり得るが、日本を代表する文化にはなりえていない。

その高級ブランドと盆栽のもう一つの共通点として、富裕層というユーザーの存在がある。また今年2~4月初旬までの期間限定ではあるが、渋谷の東急ハンズに「盆栽カフェ」が登場し人気になった。このように、盆栽は若年層にも受け入れられる可能性を持っている。高級ブランドと盆栽は富裕層と若年層という共通のユーザーを抱えており、ビジネスという視点でも興味深い組み合わせである。

盆栽は世界大会も開催されており、2017年には世界盆栽大会が日本で開催される予定である。世界大会は4年に1回、世界各地で開催されており、その第1回はさいたま市の大宮だった。それ以降、米国・ニューオーリンズ(第2回)、韓国・ソウル(第3回)、ドイツ・ミュンヘン(第4回)、米国・ワシントンDC(第5回)、プエルトリコ・サンフアン(第6回)、中国・金壇市(第7回)、そして第8回が再び日本で開催される運びとなった。

その場で実現するかどうかはわからないが、日本の盆栽と世界の高級ブランドの融合(タイアップ)ができれば、年齢を問わず、世界レベルで関心を引くことになる。これを新たなきっかけとして、「大宮盆栽」が世界の「BONSAI」文化の頂点として、認知されてほしいと願っている。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2015年4月20日号掲載