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中小企業等のマッチング支援で、高い成果を実現している背景

2022年6月
事業創造コンサルティング
理事研究員 石井 利彦

矢野経済研究所では、これまでに公的機関から依頼をうけて、ベンチャー・中小企業が開発した新技術のマーケティング支援を行ってきている。具体的には、ベンチャー・中小企業(支援対象企業)等が開発した新技術のPRの方法などに関して助言・指導を行う他、当該企業が開発した技術に関心を示す相手先企業(ターゲット企業)を探索し、関心を示す企業とのマッチングをサポートするという業務を数多く手掛けてきている。

これまでに弊社が支援を行ったベンチャー・中小企業は、累計で100社以上になるが、その中で「成約」に至る企業の割合(成約率)は、25%程度となっている。
なお、このようなマッチングを支援する業務の場合、「成約」をどのように定義するのかがポイントになる。ここでNDAの締結を「成約」に含めているケースもよく見られるが、NDA (Non-Disclosure Agreement)を締結しても、検討した結果、取引には至らないというケースは多々あるので、それでは本質的な意味での「成約」とは言えない。よって、弊社では、NDAの締結はそこに含めず、何らかの形で売上があがったものを「成約」とみなすと定義している。
このように弊社では、マッチング支援の成果指標として、売上ベースの成約率を使っているが、この数値がこれまでの累計で25%程度となっているのは、数値としてはそれなりに高い方になると思われる。

このような高い数値を実現できている背景としては、次のような点に留意しながら中小企業等の支援を行っているからではないかと考えている。

技術内容にマッチした適切なターゲットを設定する

技術内容にマッチした適切な相手先企業(ターゲット先)を設定できるかどうかは、成約率を上げるために非常に重要なポイントになる。
まず、ターゲット先を検討するに際して、支援対象企業の考え方や希望先を初期段階で確認するようにしている。
その方向性が適切かどうか検討し、問題がない場合はその方向性でアプローチの準備を始める。一方、その方向性が適切ではないと感じられた場合や、それ以外にターゲット先として適切と思われる業界等がある場合は、別途ターゲット分野等を提案するようにしている。
その提案が適切で成約に至るというケースも多々あるので、成約率を上げるためには、技術内容にマッチした適切なターゲット先を設定することが非常に大切であると考えている。
以下では、弊社からの提案が適切だったことで、マッチングが成約に至ったケースを事例としていくつか挙げている。

①プラズマの分布状態等を簡易的に評価する技術を開発した企業(A社)

A社は、プラズマの分布状態等を簡易的に評価する技術を開発した企業になる。
この技術のターゲット先として、A社が当初考えていたのはプラズマ照射装置を導入している企業(川下側)だった。しかし、当該装置を導入しているのか否かは個別にアプローチをしてみないとわからないので、動き方としては効率が良くなく、外れとなる可能性も高くなる。
このため、弊社からは、川下側の企業にアプローチするのではなく、川上側のプラズマ装置メーカーにアプローチをした方がよいのではないか、という提案を行った。
その結果、A社は4社と取引が成約するに至っている。

②微粒子コーティング装置を開発した企業(B社)

B社はもともと(a)業界をターゲット先として想定してこの装置の開発を進めてきた。しかし、(a)業界以外にも用途分野はあると思われるが、他にどのような業界で使えるのか、わからない、というのが支援初期段階での話だった。
この技術の場合は、微粒子のコーティングという部分がキーとなるので、(a)業界と同じような粒子径を扱う業界はどこかという観点でリサーチを行った。
調査の結果、(b)、(c)、(d)業界といった分野がそれに該当すると見られたので、これら業界の企業に対してもアプローチを行った。
その結果、(b)業界、(c)業界の企業が関心を示し、結果としてB社は2社と取引が成約するに至っている。

③再エネの余剰電力の活用モデルを開発した企業(C社)

C社は、従来、捨てられていた再生可能エネルギーの余剰電力を、データセンター等、電力消費が多い施設で使えるようにし、再エネを最大限に活用できるようにするという事業モデルを開発した企業になる。
当初、C社は、ターゲット先の方向性として「データセンター事業者」や「電力会社」を挙げていたが、技術内容から鑑みると、電力会社と需要者の間に立って、電力の需給バランスを調整する役割を担う「アグリゲーター」もターゲットになると考えたことから、弊社からは「アグリゲーター」もターゲット先に含めてはどうかと提案した。
その結果、「アグリゲーター」としてアプローチした企業の内、1社が関心を示し、C社と取引が成約するに至っている。

以上のような提案は、業界の知見や調査ノウハウがないとなかなかできないと思われるが、弊社はもともと市場調査を長年やってきていることから、これまでに蓄積してきた業界知見やノウハウ等を背景に、このような提案が可能になる。
これがベンチャー・中小企業等のマッチング支援で、矢野経済研究所が比較的高い成約率を実現する背景になっていると考えている。