アナリストeyes

日本の結婚式文化 存続のゆくえ

2026年3月
コンシューマー・マーケティングユニット
主任研究員 長谷川 恵美

昨今、昭和歌謡や昭和の出来事・トレンドをふり返る番組が数多く制作されている。
令和の若者世代にはエモいと映るモノやコトをふり返る機会から、日本の挙式披露宴文化と今後の展望について書き連ねてみる。
時代を反映し、様々なトレンドを創出しながら独自の進化を遂げて、洗練され、成熟市場へと移行した日本の挙式披露宴市場には長い歴史がある。
古くは家族や親族のみで自宅で行われ、新婦が新郎宅に「嫁入り」したというのが150年余り遡った明治時代の婚礼である。

下記は、昭和~令和時代の流れを大まかにまとめたものである。

昭和時代
(1926~1989年)
高度経済成長期:神前式が再度活性化し披露宴の規模が拡大
1960~70年代:ホテルウエディングが普及、披露宴の豪華化が進む
1980年代後半:「派手婚」ブーム
平成時代
(1989~2019年)
1990年代後半:ゲストハウスウエディングの市場形成開始
2000年代:多様性重視、個性的で自由な演出が増加
令和時代
(2019年~現在)
2010年代:SNS映え重視、フォトジェニックな演出が流行
パーソナライズ婚:「ふたりらしさ」を最優先し、慣習より本当にしたいことや個性を重視、ゲストと過ごすことを重視

昭和の時代には、高度成長期から1990年代にバブルがはじけるまで、披露宴は一大イベント化し1件あたり単価の高額化が進んだ。1980年代後半には、新郎新婦がゴンドラに乗って披露宴会場に登場し、高さが数メートルもあるウエディングケーキに入刀する演出。衣装を着替えるお色直しを何度もして、中座している時間の方が長く、ゲストが置き去りになる披露宴が少なからずあった。当時は芸能人の挙式披露宴が特別プログラムとしてテレビ中継されたこともあって、一部の一般人にも流行した。
平成に入っては、一軒家の邸宅を貸し切り、60~80名といったゲストを迎えつつも、プライベート感のある空間で行う「ゲストハウス」ウエディングブームが形成された。
令和のコロナ禍では、オンラインウエディングも登場し、リモートで新郎新婦とゲストをつなぎ、料理を個別に配達して、オンライン会食という商品も提案された。

最近では婚姻届の届出数が減少傾向にある。少子化の中で結婚のボリューム層である20~30代の人口が減少してきたこともあるが、多様性や価値観の変化が大きな要因である。
経済的にも、非正規雇用者層が拡大し、実質賃金が上がっていないことに起因する将来不安などから、とても結婚など考えられないという層も一定数存在する。
一例として2時間の披露宴に費用を掛けることへの圧倒的な否定感情や違和感をもつ層は厳しいとして、なんとなく挙式しない、披露宴しないという「なし婚」層の掘り起こしが市場では争点の一つとなっている。
近年10年単位で、挙式披露宴に会社の上司を呼ばなくなっているという事象は、結婚が「公」から「私」のライフイベントへと移行した象徴的なことと言える。

一方で、こども家庭庁が国の事業として実施している「地域少子化対策重点推進交付金」による結婚支援は、少子化を改善するための一歩として、結婚相手を探し、交際から成婚へのプロセスをサポートする事業である。東京都が2024年9月、AIを活用した婚活支援システム「TOKYO縁結び」の提供を開始したことが大きな話題となった。東京都の取り組みは都の予算で実施されており、国の交付金は活用していないが、多くの自治体が交付金を使って結婚支援センターの設置をし、安価な会費や利用料でテクノロジーマッチングや相手探しのサポート事業を実施している。「令和5年度こども家庭庁行政事業レビュー公開プロセス」によると、令和4年度(2022年度)末時点での結婚支援センター設置数:37件、マッチングシステム導入数:43件である。

挙式披露宴プロデュース企業は、迫る市場縮小への対応として、また持続可能な企業活動を目指し、コロナ禍前から、国内の挙式披露宴事業に次ぐ事業の柱を構築する動きが進行、事業領域の拡大に努めてきた。その多くは海外挙式プロデュース事業(日本人対象・ローカル対象)、レストラン事業、ホテル事業、結婚仲介業など親和性の高い事業が中心である。一方で、コロナ禍ではここに掲出したすべての事業が大きく影響を受けた。ブライダル企業にとっては、企業イメージもブランディングとして重要であるため、それを毀損することのない事業であることも想定条件となっている。進捗として、レストラン事業を別法人化して好調に推移している事例や、資本力のある企業ではホテル事業が「参入」から「事業化」に至っている事例も複数見受けられる。
挙式披露宴事業のみを運営する“ブライダル企業”というワードは、新事業への参入・事業の多角化が進行するにつれて、広義に捉えてのみ使用されるようになってゆくことになるであろう。2026年4月には上場企業同士という、業界では初のパターンによる合併がある。連結売上高ベースで最大手企業に次ぐ第2位の企業が誕生する。市場が縮小傾向にある中で、事業者数が変わらないということは現実的ではなく、今後も大なり小なりの再編が予想される。

令和の時代においては、あらゆる場面において選択肢が提示され、個人が選び取ってゆくことが大枠の流れである。結婚してその届出をすることも、事実婚で通すことにも、個人の意思が尊重されることが大前提であり、叶うならばどちらも不利益を被ることなく、完全ではなくとも平等な権利を享受できることが、広義の婚姻減少や少子化改善の一助となるのではないだろうか。意思があっても経済的理由や外部環境が阻害要因になることで、諦める選択肢しかないという現状は変化が求められる。
挙式披露宴も、家族や親族、お世話になった人たちに、新たな門出を報告し感謝を直接伝えるためのセレモニーやイベントとして改めて考えてみると、その意義を見出すことは難しくない。
日本人だけでなく、現在はインバウンドによる結婚式や披露宴の需要も創出され始めており、日本の挙式披露宴文化の灯が絶えることはないものと考えている。