アナリストeyes

ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業
<スマート農業>

2026年4月
株式会社矢野経済研究所
フードサイエンスユニット
主席研究員 中川 純一

農業従事者が急速に減少する中、スマート農業を利用した新たな農業生産が必要

全国の農業経営体数は、2013年には 151.4万経営体であったが、2025年の全国の農業経営体数は82.8万経営体となり、この12年間で68.5万経営体が減少した。加えて、基幹的農業従事者は、2010年が205万人であったが、2025年には102.1万人で、この内65歳以上が71万人(構成比69.5%)で、高齢者の割合が著しく高まっている。また、新規就農者数は4万3,500人(2023年)であるが、このうち49歳以下は1万5,900人に過ぎず、労働力不足は深刻さを増している。
農林水産省の調査によると、今後20年間で、基幹的農業従事者は現在の約1/4(約102万人→約30万人)にまで減少すること等が見込まれ、従来の生産方式を前提とした農業生産では、農業の持続的な発展や食糧の安定供給を確保できない。

農業者が急速に減少する中、農地面積や労働時間あたりの収量(生産性)向上の技術が不可欠であり、これに加え単位面積や収量あたりの収益性を拡大(付加価値向上)させ経営の安定化を図ることが重要である。これらの課題を解決することができるのが、「スマート農業技術」である。
農林水産省では、スマート農業とは、「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」と定義している。
スマート農業により、収穫量増加等のための化学肥料の投入や農薬の散布は、土壌や作物の状況に応じて最適に調整することができ、大規模生産のためのトラクター等の農業機械は、自動運転の実用化が期待されている。さらに、センサー等により得たビッグデータを解析することで、熟練生産者が行ってきた技術の再現や、病害虫の発生予測、収穫時期・収穫量の予測も可能となる。

スマート農業を普及する上での課題・問題点

農林水産省は2013年からスマート農業普及のために、ガイドライン策定やデータ連携の構築などを実施してきた。2019年度からは全国217地区でスマート農業実証プロジェクトを実施し、そこでスマート農業を普及する上で浮き彫りとなった主な課題点は、以下の通りである。

スマート農業を普及する上での主な課題・問題点

  1. コストの課題
    →スマート農業機器の多くが高価であるため、減価償却費の増加が経営を圧迫するリスクがあり、導入ができるのは一部の資本力のある大規模農家となっている。
  2. 技術・インフラの課題
    →中山間地域や圃場周辺では光ファイバーや5Gなどの高速通信が届かないエリアが存在し、リアルタイムのデータ伝送やGPS補正に影響する。また、国内農業の多くが小区画、不整形な圃場のため、大型の自動化機械が利用しづらいといった環境にある。
  3. 人材の課題
    →農業現場とITスキルの両方を兼ね備えた人材が不足していることから、生産現場に普及が進まない。

上記のような課題を解決するために、「スマート農業技術活用促進法」が2024年10月に施行された。同法は、スマート農業の単なる技術導入の推進に留まらず、税制優遇や金融支援等をパッケージ化することで、農業経営の近代化とアグリテック企業の市場参入を強力に後押しするものである。同法は主に以下の2つの計画を国が認定し、集中的に支援し、単に機械を買うのを助けるだけでなく、「農業のやり方そのものをスマート農業に合わせる生産方式の革新」を求めている点が最大の特徴である。

「スマート農業技術活用促進法」の主な内容

  1. 生産方式革新実施計画(主に農業者・サービス事業者向け)
    →スマート農業技術の導入と併せて、「その技術を最大限活かせる生産方式」への転換を行う計画
    例:「スマート農業が利用できる圃場でない」という課題に対し、自動収穫機が走りやすいように畝の間隔を広げる等、「高い機械を買ったが使いこなせない」という課題に対し、スマート農機をシェアリングや作業受託サービスを促進、等
  2. 開発供給実施計画(主にメーカー・開発者向け)
    →現場のニーズに即したスマート農業技術の開発と、その成果の普及を行う計画
    例:「技術が現場に合っていない」「メーカー間の互換性がない」という技術的課題に対し、難易度の高い野菜・果樹の収穫ロボットの開発や、異なるメーカー間のデータ連携規格の標準化、等

スマート農業が普及するためには

スマート農業は生産現場のみの領域では小さい市場であるが、スマート農業技術で取得したデータをAIによって分析・加工することで、農業・食品関連業界向けに新たなサービスに発展させることができる可能性があり、大きな市場を創造することができる。スマート農業の可能性は非常に大きく、生産者、農業資材メーカー、農業関連団体(JA・自治体等)、スマート農業参入企業、食品関連事業者等はより一層の連携・協業しながら、その可能性に向けて取組む必要がある。
今後、多様なプレーヤーがスマート農業市場に参画連携することで国内・海外が抱えている食糧課題を解決し、そして急速に拡大する世界の食市場を、日本版スマート農業で取込むことができる。