アナリストeyes

もはやブームではない古着

2026年7月
株式会社矢野経済研究所
コンシューマー・マーケティングユニット
主席研究員 松井 和之

ファッション業界を長らく調査、研究していると、ブームやトレンドが何年か周期で繰り返されること、またブームの後、あるいは同時期にその反対の価値の需要も高まることがわかる。
例を挙げれば、低価格ブランドが拡大すると、反対の高付加価値の商品の需要が高まり、量的拡大から質的変化が起こる。ユニクロがフリースを引っさげて東京・原宿に初めて出店したのは1998年、ユニクロのフリースは一大ブームとなったが、ほぼ同時期の1999年にセレクトショップのユナイテッドアローズが上場している。現在ではビジネスウェアのカジュアル化が進む中、逆にオーダースーツのようにテーラードの需要が増えるといった具合である。
アパレル企業の戦略はこのようなブームやトレンドにうまく対応するよう舵取りをしなければならない。ブームになれば必ず廃れるから、タイミングを見計らってブームと対になる価値を訴求していく必要がある。
ブームを巡っては2つの戦略がある。一つは、意図的あるいは直接的にブームを起こし、その恩恵を得ると同時にその反転現象を狙う。もう一つはブームにさせないよう戦略的にプロモーション等を控え、安定需要を長期に亘って獲得する。感覚的には前者は価格訴求力を重視するアパレル、後者は高付加価値、感度の高いファッションを提案するアパレル企業に多い。

いま古着がブームである。少し落ち着いた感があるが、若年層にとってファッション購入の選択肢の一つになりつつある。
2000年より前の古着は多くがヴィンテージものであり、ヴィンテージファッションを好む一部の層のものだった。
2000年代前半に「パーグラムマーケット」というヨーロッパの輸入古着を販売する事業者が登場し、ファッションの先端を行くヨーロッパのテイストの古着でありながら低価格で、一部のマニアのものだった古着がマスマーケットに開放されていった。
その少しあとに「ドンドンダウン」という店が登場し、古着はさらにマスマーケットに広がり、古着市場を活性化させた。ドンドンダウンは毎週水曜日に値段がどんどん下がっていくというユニークな販売方法で店舗を急拡大させた。ドンドンダウンは以前の勢いはないもののまだ営業しているが、パーグラムマーケットは市場から姿を消した。 古着もファッション業界のブームと同様に、来ては廃れるというトレンドを繰り返してきたが、昨今の古着ブームはこれまでとは違うようだ。
一つは社会環境が違う。すなわちサステナビリティが求められる社会であることが違う。20年ほど前の2005年、環境省がクールビズを提唱し始めたが、この呼びかけに古着需要が呼応したとはいえない。若年層はサステナビリティを重視する社会を義務教育の段階から認知している。衣類を捨てずにリユース、リサイクルに回すという行動は、身近な環境保全活動と捉えられている。
もう一つは経済環境が違う。あらゆる品目の物価上昇が顕著である中、新品より安価な古着の存在感が高まっている。
さらには情報通信環境も違う。スマホやSNSの浸透により、古着をはじめファッションの情報を入手しやすくなっただけでなく、Eコマースでの買い物が普通になった。古着ではC to Cでの売り買いが容易になっている。
このように古着を取り巻く外部環境は2000年代前半とは大きく異なる。今回の古着ブームは落ち着きを見せているとはいえ、廃れるといった結末は迎えないと思われる。
経済産業省は2024年6月、「繊維製品における資源循環ロードマップ」を公表し、2030年度をターゲットイヤーとして4つのKPIを掲げ、そのうちの一つに「家庭から廃棄される衣類の量の2020年度比25%削減」がある。
これまでゴミとして廃棄されていた古着をリユース、リサイクルをすることで25%削減につなげるとしており、約3万トンのリユース量増加を見込んでいる。

2030年25%削減目標の達成イメージ

出典:環境省 環境再生・資源循環局 資源循環課「サステナブルファッションの推進に向けたアクションプラン~2030年廃棄量25%削減に向けて」(2026年3月)※一部加工(赤枠)/矢野経済研究所

このように国のお墨付きもあり、古着は少なくとも2030年までは増加していくと考えられる。
今の10代はシニア層が感じるような古着への抵抗感を持っていない。新品と同じレベルでファッション選びの選択肢として利用され、これまでのような古着ブームは起こらなくなるだろう。