量子技術の世界市場規模は2035年に約12兆円、2050年には55兆円超を予測
～革新的な応用で切り拓かれる量子技術～
1.市場概況
量子技術は我々の身近な製品と関連するデバイスあるいは制御などの技術として活躍し、実際の製品となって登場し始めており、今後も増加することが期待されている。2025年時点でも一部市場が形成されつつあるが、本格的な市場形成は2030年以降になることが想定される。そのため、2030年以降に向けた各技術分野の現況について言及する。
【量子センシング】
量子センシングは、情報通信技術（ICT）が進む現在の社会の重要な要素技術であり、量子自体が外界からのノイズに作用されやすいという不安定性を逆手にとって活用する技術でもあり、量子技術の中において、比較的早い時期での実用化が期待されている。量子センシングはエレクトロニクス、医学・バイオ、光学などの分野で活用され、2030年の世界市場規模は1兆670億円を予測する。
【量子フォトニクス】
量子フォトニクスは、光子（フォトン）の量子状態を利用して通信・計算・センシングなどの技術を発展させるため注目されている。量子フォトニクスは量子ドット、光イメージング、光センサなどの分野で活用され、2030年の世界市場規模は6,830億円を予測する。
【量子暗号・通信】
量子暗号・通信は、将来的に量子コンピュータ同士のネットワークや、量子インターネットの構築に寄与する可能性があり、技術が進展するにつれて実用化され、日常生活やビジネスに大きな影響を与えることが期待される。量子暗号・通信は通信、放送、検索、コンテンツ配信などの分野で活用され、2030年の世界市場規模は5,880億円を予測する。
【量子生命科学】
量子生命科学は、量子物理学と生命科学の交差点に位置する先進的な研究領域であり、生物学的現象の深い理解と新たな技術革新を目指している。量子生命科学は生体ナノ量子センサと超高感度核磁気共鳴（NMR）、量子光イメージングなどの分野で活用され、2030年の世界市場規模は2,570億円を予測する。
【量子物性・材料】
量子物性・材料は、すでに量産化している材料も少なからず存在するが、今後、実用化を迎える材料も多く控えており、これからの新材料においては、量子技術と関連ある材料がますます増えていくことになるとみられる。量子物性・材料はエレクトロニクス、スピントロニクス、磁性、トポロジカル物質などの分野で活用され、2030年の世界市場規模は3兆1,540億円を予測する。
2.注目トピック
量子物性・材料は量子力学的な現象が主役を演じる領域
量子物性は、現代の物理学とテクノロジーの最前線で、量子力学的な現象が主役を演じる領域である。トポロジカル物性、高温超伝導、量子ホール効果、スピントロニクス、量子臨界現象、量子カオス、量子もつれなど、多くの興味深いトピックスが存在し、それぞれが新しい技術革新や科学的理解の深化に寄与している。これらの研究は、次世代のエレクトロニクス、情報処理、エネルギー技術において重要な役割を果たすと期待されている。
3.将来展望
本調査では、量子技術の世界市場規模を2030年、2035年、2040年、2045年、2050年で予測し、量子技術における現状と目指すべき方向などについて各技術分野ごとに考察する。
【量子センシング】
量子センシングは、量子力学の原理を応用して高精度な計測やセンシングを実現する技術である。量子センシングは、次世代技術の中でも、特に幅広い応用可能性を持ち、多様な課題を解決する可能性を秘めている。そのためには、材料科学、デバイス工学、ソフトウェア開発などが一体となった取り組みが求められている。
【量子フォトニクス】
量子フォトニクスは、量子技術の中でも特に多くの可能性を秘めた分野であり、技術の進展とともに、新しい応用領域が次々と開拓されていくとみられている。量子フォトニクスにおいては、量子インターネットの実現、大規模な量子コンピューティングの実現、次世代のセンサ技術、新しい通信技術の開発、産業応用と商業化の促進などが期待されている。
【量子暗号・通信】
量子暗号・通信は、情報セキュリティの未来を担う技術であり、次世代のインフラを形成する可能性がある。その実現には、現在直面している技術的課題（現在の手法は将来的な計算能力向上により解読される可能性がある等）を克服し、商業化に向けた具体的なロードマップを描くことが不可欠である。こうした課題を克服し、新たな技術革新とともに、情報社会の安全性と信頼性が大幅に向上することが期待される。
【量子生命科学】
量子生命科学は、量子力学の原理を生命科学に応用し、生命現象の理解を深める新しい学際的分野である。量子生命科学は、量子物理学と生命科学が交差する科学の先進的な研究分野であり、量子効果が生命活動にどのように関与しているのかを解明することで、科学の基礎から応用まで幅広く影響を与える可能性が期待される。
【量子物性・材料】
量子物性・材料は、量子力学の原理に基づいて設計・制御される新しい材料群を指し、その特異な物性はエレクトロニクス、スピントロニクス、超伝導、量子コンピューティングなど、様々な技術分野で応用される可能性を秘めている。これらの材料の研究は、科学技術のフロンティア（未開拓領域）を切り開く重要な分野だが、層状構造電子材料は単電子層の剥離や取り扱いが難しいことなど、各々の分野においていくつかの課題が存在し、それらを克服することで新たな展望が広がると考える。
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調査要綱
2.調査対象： 量子センシング、量子フォトニクス、量子暗号・通信、量子生命科学、量子物性・材料に関連した技術・サービスに取り組んでいる企業、大学、研究機関
3.調査方法： 当社専門研究員による直接面談（オンライン含む）および文献調査併用
＜量子技術の世界市場とは＞
本調査における量子技術とは、近年急速に実用化が進む先端領域であり、単一技術というとらえ方ではなく、材料・センシング・通信・医療応用など多分野にまたがる広義の量子技術群としている。本調査における量子技術市場とは、①量子センシング、②量子フォトニクス、③量子暗号・通信、④量子生命科学、⑤量子物性・材料の5分野に関連した技術・サービスを対象とする。世界市場規模は、量子技術関連装置・機器の出荷金額および関連サービス事業者の売上高ベースで算出している。各分野の詳細は以下参照。
①量子センシング：量子センシングは、量子力学の原理を利用して、従来のセンシング技術では達成できない高い感度と精度を実現するセンシング技術である。主に、量子ビット、量子もつれ、量子コヒーレンスなどの量子現象を活用している。
②量子フォトニクス：量子フォトニクスとは、光子（フォトン）の量子特性を利用して情報の伝達や処理を行なう技術分野である。従来のフォトニクスが光の波動や粒子性を利用するのに対し、量子フォトニクスでは、光子の量子もつれや量子重ね合わせといった量子力学的性質を活用する。
③量子暗号・通信：量子暗号・通信は、量子力学の原理を利用して、従来の暗号化技術に比べて、より高度なセキュリティを提供する技術である。これらの技術は、量子状態がもたらす物理的特性に依存しており、情報の秘匿性や通信の安全性を強化するものとなっている。
④量子生命科学：量子生命科学は、量子物理学の原理や現象を生命科学の分野に応用・統合する学際的な研究領域である。この分野は、従来の古典物理学では説明しきれない生物学的プロセスや現象を理解するために、量子力学的な視点や技術を活用する点に特色がある。具体的には、生命の基本単位である細胞の代謝・継承・進化に関わる生体分子を、量子レベル特有の性質を持つ粒子の集合体として扱い、その集合体としての生命システム全体を、統計学的手法によって探求する学問ということができる。
⑤量子物性・材料：量子物性・材料とは、物質の量子力学的性質を利用して、従来の材料では得られない新しい物理現象や機能を発現する材料のことを指す。これらの材料は、電子、スピン、光子、フォノンなどの量子力学的自由度が特有の挙動を示すため、次世代のテクノロジーを支える重要な基盤になると考えられている。
＜市場に含まれる商品・サービス＞
量子センシング、量子フォトニクス、量子暗号・通信、量子生命科学、量子物性・材料に関連した各技術における関連装置・機器および関連サービス
出典資料について
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