プレスリリース
No.3929
2025/10/29
ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場に関する調査を実施(2025年)

BEVなど環境対応車の成長鈍化や殺菌需要縮小など顧客の方針転換で材料成長への影響が発生
~ウエハーサプライヤーでは予定された需要に向け、開発・量産準備が進む~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、2025年のワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場を調査し、各材料別の市場規模、製品・開発・技術・市場・プレーヤーの動向について、明らかにした。

ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場規模推移・予測
ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場規模推移・予測

1.市場概況

2025年のワイドバンドギャプ半導体単結晶(SiC、GaN、Ga2O3、ダイヤモンドの合計)世界市場は、メーカー出荷金額ベースで2,869億円の見込みである。
ワイドバンドギャップ半導体単結晶はパワー半導体を中心に採用が進んでおり、BEV(Battery Electric Vehicle)や鉄道車両、産業機器、再生可能エネルギーやデータセンター等の関連機器への搭載が進んでいる。既に最終製品(アプリケーション)にデバイスが搭載されているSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に対し、Ga2O3(酸化ガリウム)、ダイヤモンドは研究・開発段階にとどまり、材料によって開発フェーズは様々である。

材料別の現況は下記の通りである。
SiCは市場を先行しており、車載用途を中心に普及拡大している。2030年に向けて、ウエハーサプライヤー各社が増産計画を進めているものの、BEVなど環境対応車の成長は鈍化している。
GaNはSiCに次ぐポジションになっており、LEDやLDなどの照明用途が中心であるが、高周波用途やパワーデバイスとしての実装化に向け、ウエハー大口径化の準備が進められており、4インチサイズの量産開始は間近である。
次に期待されているGa2O3は急成長の兆候がある。ウエハーサプライヤーが増え、2026年には6インチサイズの量産も始まる予定である。また、日本国内ではコンソーシアムも形成される模様で、Ga2O3の標準化やデバイスの普及拡大を目標としている。
究極の半導体材料であるダイヤモンドでも急成長の兆しがある。ウエハーサプライヤーやデバイスメーカーの数が増加しており、特に大学発ベンチャーの動きが目覚ましい。ダイヤモンドは世界的に日本がけん引している材料でもある。

また、市場規模には含まないAlN(窒化アルミニウム)であるが、コロナ禍を経てLED用単結晶による殺菌需要が縮小した。しかし、レーザーや高周波デバイス用途としてヘテロAlNデバイス(他の半導体材料とのヘテロ接合で高い性能を実現するデバイス)の開発も進んでいる。
GeO2(酸化ゲルマニウム)は他の材料と比較して圧倒的な高性能が期待され、コストメリットが大きい。理論的にp型とn型両方の制御が可能であることから、近年、注目のパワーデバイス向け新材料となっている。

2.注目トピック

溶液法によるSiCウエハー製造増加、市場参入見通し

SiCの単結晶ウエハーは粉末SiCを原料として、ウエハーサプライヤー各社が様々な方法で製造している。SiCは原料から液相や気相を経て結晶成長によりインゴット/ブールとなり、スライス、研磨処理を施されSiCウエハーとなる。

製造方法は各社により異なるが、昇華法と溶液法が主流となっている。これまで多くの企業が昇華法を選択してきたが、ここ数年、溶液法でウエハーを製造する企業が増えている。昇華法は従来からのSiC単結晶の成長方法であり、現在、販売されているSiC単結晶ウエハーの多くは昇華法で生産されている。固体(粉末)から加熱し昇華させていることから、結晶中の温度勾配制御に不具合が起こると熱歪みが生じる。熱歪みはウエハー大口径化の足かせとなり、同時に欠陥の原因となる。

一方、溶液法は結晶中に温度勾配を形成しないため、熱歪みが小さい。熱歪みが小さいため、原理的には大口径化が容易である。また、熱歪みが小さいため欠陥も少なくなる。さらに、溶液法の方が高速で長尺適性が高いため、低コスト化にも有利である。ただ、溶液法はこれまで多くの企業がチャレンジし、撤退してきた手法である。その理由としては結晶成長時におけるパラメーターが多く管理が難しいため、最適な成長条件を見つけることが出来なかったことなどがある。
現在、こうしたハードルを越えて複数のウエハーメーカーが溶液法を採用し、市場投入の準備を進めている。国内ではセントラル硝子とオキサイドパワークリスタルが取り組んでおり、中国でも複数企業による溶液法の検討が進められている模様である。欧米においては大学や研究所における取り組みは確認できたが、企業においては溶液法による取り組みは確認できなかった。

溶液法によって得られたSiCウエハーはp型半導体向けに対応でき、昇華法ではn型と半絶縁型しか対応出来なかったため、半導体デバイスとしての新規構造にも使用できる。SiCパワーデバイスの進化に大きく寄与することが出来ることから、難易度が高い領域であるが、チャレンジする企業は今後増えてくると考える。

3.将来展望

今後、ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場では、需要が研究開発用途で高まったのちに、最終製品(アプリケーション)への採用と搭載増加が進む見込みである。成長率は材料により幅があるが、2035年のワイドバンドギャプ半導体単結晶(SiC、GaN、Ga2O3、ダイヤモンドの合計)世界市場は8,298億円になると予測する。

先行するSiC単結晶ウエハーは6インチサイズが市場のほとんどを占め、8インチサイズのウエハーが徐々に増えつつある。中国企業のサプライヤーが生産能力を増強しており、市場で強い存在感を示している。今後のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場では、Si(シリコン)代替だけでなく、単結晶材料同士での市場競合も発生することになり、新規材料の将来は性能やコストの競争の結果で決まることとなる。

オリジナル情報が掲載された ショートレポート を1,980円のお買い得価格でご利用いただけます。

【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】
Aパターン
  • 注目セグメントの動向
  •  【SiC】存在感増す中国のSiCウエハーサプライヤーは高品質な8インチ品を大量供給、12インチもサンプル配布中
  • 注目トピックの追加情報
  •  【SiC】6インチ品の欠陥は無害化されつつある 今後、8インチ品が定期・大量に生産、納品されるときに出る差がサプライヤーの実力値
  • 将来展望の追加情報

  • 以下の 利用方法を確認する ボタン↓から詳細をご確認ください

    調査要綱

    1.調査期間: 2025年6月~9月
    2.調査対象: ワイドバンドギャップ半導体単結晶メーカー、デバイスメーカー、その他関連企業・研究機関等
    3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)

    <ワイドバンドギャップ半導体単結晶市場とは>

    ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは、シリコン(Si)より大きなバンドギャップを持つ半導体(化合物半導体)単結晶を指し、​炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、 酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ゲルマニウム (GeO2)などの材料が挙げられる。

    本調査におけるワイドバンドギャップ半導体単結晶市場は、SiC、GaN、Ga2O3、ダイヤモンドを対象とし、メーカー出荷金額ベースで算出した。但し、SiCにはLED用の単結晶は含まず、ダイヤモンドには単結晶だけでなく半導体用途である多結晶も含む。

    <市場に含まれる商品・サービス>

    ワイドバンドギャップ半導体単結晶(SiC、GaN、 Ga2O3、ダイヤモンド、AlN、GeO2)

    出典資料について

    資料名
    発刊日
    2025年09月12日
    体裁
    A4 134ページ
    価格(税込)
    220,000円 (本体価格 200,000円)

    お問い合わせ先

    部署
    マーケティング本部 広報チーム
    住所
    〒164-8620 東京都中野区本町2-46-2
    電話番号
    03-5371-6912
    メールアドレス
    press@yano.co.jp
    ©2025 Yano Research Institute Ltd. All Rights Reserved.
      本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
      報道目的以外での引用・転載については上記広報チームまでお問い合わせください。
      利用目的によっては事前に文章内容を確認させていただく場合がございます。