今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2021 / 08 / 27
今週の“ひらめき”視点
医療ひっ迫の解消に向け、平時から非常時の体制へ。政治は今こそリーダーシップを

新規感染者の急拡大に伴い、医療危機が進行する。病床使用率は、33都府県で国が定める区分で“感染爆発”に相当する「ステージ4」の基準を越えた。感染者数がもっとも多い東京都の自宅療養者すなわち“医療難民”は2万5千人、入院調整中の言わば「難民予備軍」も1万人を越えた。
2日、政府は、“軽症、無症状は宿泊療養、中等症以上は原則入院”としてきた方針を転換、“重症者と重症化リスクの高い患者以外は原則自宅療養”とする旨、閣議決定した。従来方針の事実上の撤回は、予見された変異種への対策が後手に回ったことへの追認と言わざるを得ない。はたして、病状の経過観察体制が整わない中での方針転換は、懸念されたとおりの混乱と不幸を招いている。

こうした状況を受け、厚生労働省と東京都は改正感染症法にもとづき、病床の確保と感染者の受け入れを全医療機関に要請した。正当な理由なく応じない場合は「勧告」、それでも拒否すると病院名が「公表」される。つまり、「増床に協力しない医療機関は悪」というわけである。しかし、そもそも2014年にスタートした「地域医療構想」が維持されたままであることも指摘しておく必要がある。これは2025年時点における機能別の必要病床予測数に合わせるべく医療機関の再編統合を推進する制度で、病床削減に対して補助金が支給される。言わば医療版の“減反”政策であり、昨年度、そして、今年度も予算が計上されている。

この夏、当社でも若い社員が自宅療養を強いられた。容態急変への恐怖に「死を意識した」とのメールも受け取った。
専門家は変異種による第5波の状況を「これまでに経験したことのない災害レベル」と指摘する。そうであれば、非常時の体制が求められる。現状の追認は後退である。国民の命を守ることが国家の使命であれば病床確保こそ最優先事項である。選手村という都内最大規模の病床転用可能施設の活用は間に合わなかった。しかし、9月中旬以降は選択肢になり得る。他に候補施設はないか。少なくとも平時の長期戦略は一端停止し、医療再編予算の全額を臨時病床の増設に回すべきだ。それが医療機関、ひいては国民へのメッセージとなる。

2021 / 08 / 20
今週の“ひらめき”視点
非常事態の解消こそ最優先の政治課題であり、最大の経済対策である

16日、内閣府は2021年4-6月期の国内総生産が2四半期ぶりに前年同期比プラスに転じたと発表した。成長率は実質プラス0.3%、民間企業の設備投資プラス1.7%がこれを牽引した。脱炭素、デジタル化に向けての積極的な投資がこれを押し上げた。
一方、個人消費に勢いはない。確かに家計消費支出も前年同期比0.8%のプラスとなった。しかし、そもそも比較対象が“自粛”にそれなりの効力があった1回目の緊急事態宣言期間であることを鑑みると、“成長” を実感するには心もとない。非耐久財についてはその前年同期に対して0.3%のマイナスである。

背景には、効果と出口が見えない中で長期化する “自粛” による社会の疲弊がある。2021年4-6月期の雇用者報酬は同1-3月期に比べ1.4%のマイナスだ(国民経済計算、内閣府)。事業所規模5人以上の事業所の6月の賃金は前年同月比マイナス0.1%、賞与は同マイナス2.3%、とりわけ、教育、生活サービス、飲食、運輸、建設、医療、福祉業界のマイナス幅が大きい(毎月勤労統計調査、厚生労働省)。4-6月期の失業者は平均233万人、前年同期比109%、うち失業期間が1年を越える失業者は74万人、同135%、失業の長期化が進む(労働力調査、総務省)。

全国の新規感染者、重症者の数が日々「最多更新」される中、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域が拡大され、期間の延長が決定された。
個人消費への影響は避けられない。しかしながら、損失額の推定は困難だ。“自粛” や “協力” は政策への信頼があってはじめて有効となる。果てしない迷走とダブルスタンダードの中、既に信頼は失われた。施策の有効性や実効性が見えなければ試算条件は固まらない。自粛疲れへの反動もあるだろう。実際、緊急事態宣言による経済損失は回を追うごとに小さくなっている。一方、爆発的感染拡大(オーバーシュート)という危機を前に、企業も個人も自衛策を強化する。個人消費は、1回目の緊急事態宣言を越える規模で縮小する可能性もある。

東京都の自宅療養者は2万人を越えた。実質的な医療崩壊だ。それゆえの不幸なニュースもあった。専門家からは「制御不能、災害レベル」との声があがる。一方、24日はパラリンピックの開会式だ。大会期間中は1日あたり500人を越える医療スタッフが配置され、選手と関係者向けに3,800部屋、1万8千床のベッドが用意されるという。
5月11日、宝島社は竹槍を構えた戦時下の女学生の画像を背景に「真面目に対応している一人ひとりが先の見えない不安に押しつぶされそうになり、疲弊するばかりです」、「このままじゃ、政治に殺される」との企業広告を朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞に打った。残念ながらそれが現実のものとなりつつある。パラリンピアンに罪はない。これは政治の問題である。

2021 / 08 / 06
今週の“ひらめき”視点
鉄鋼業界、資源高の功罪と脱炭素社会に向けての課題

鉄鉱石、銅、原油など資源価格の高値が続く。とりわけ、鉄鉱石の急騰が著しい。新型コロナウイルスが世界に拡散した昨春、国際相場は1トンあたり80ドル台まで低下した。しかし、中国経済の回復を受けて夏場以降は反転、次いで米国経済も急回復、米中の旺盛な鋼材需要を背景に今年5月にははじめて同200ドル台に乗せた。資源高は三井物産、三菱商事、丸紅など総合商社の利益を押し上げ、鉄鋼大手3社の業績を急回復させる。日本製鉄の2022年3月期は3期ぶりの最高益を見込む。

一方、建設業界では鋼材製品の値上げが経営問題として顕在化しつつある。輸入に100%依存する鉄鉱石の価格高騰は、鉄鋼生産の1/4を占める鉄スクラップからの再利用鋼材の需給ひっ迫を招く。旺盛な海外需要は鉄スクラップの価格にも連鎖、輸出価格が国内の市場価格を上回る状態が続いている。再利用鋼材の主力販売先は建設業界であり、業界からは木材市場における「ウッドショック」に次ぐ、「アイアンショック」を懸念する声も聞こえてくる。

さて、国際市況に直結し、景気に左右されやすい鉄鋼産業ではあるが、当面は世界的なアフターコロナ需要が期待できる。一方、採算性については楽観できない。最大の資金需要は「脱炭素」投資である。鉄鋼連盟は2050年のCO2排出量を実質ゼロにするとの業界目標を掲げた。各社は鉄鉱石とコークスを使う高炉方式からCO2排出量が少ない鉄スクラップを原料とする電炉方式へのシフトを進める。加えて、コークスの代わりに水素を還元剤として使う水素還元製鉄技術の開発を加速する。しかし、いずれも技術的な課題は多く、投資総額は個社単位で数兆円に達するとの試算もある。

鉄鋼産業のCO2排出量は国内の1割、製造業の4割に達する。政府目標の達成には鉄鋼産業のイノベーションが必須だ。しかし、個社の利益で巨額投資を吸収することは困難であり、一方、個別需要家への価格転嫁にも限界がある。要は社会全体として脱炭素コストをどう考えるかということだ。
脱炭素は今や競争要件だ。国別、業界別、企業別の目標設定は当然である。しかしながら、それが地球環境問題である以上、文字通り、グローバルサプライチェーン全体としての取り組みも不可欠である。2日、コマツは世界有数の鉱山会社Rio Tinto(英)、BHP(豪)、CODELCO(チリ)、Boliden(スウェーデン)と鉱山オペレーションにおける温室効果ガス削減に向けてのアライアンスを発表した。新たな取り組みのカタチのヒントがここにある。

2021 / 07 / 30
今週の“ひらめき”視点
中国、2つの教育改革。ゆとり教育は構造改革の布石となり得るか

24日、中国は教育制度に関する新たな方針を発表、少子化対策の一環として、過度な学歴偏重の是正を目指す。新たな規制は小中学生の宿題の量的制限から学習塾の運営方法まで多岐にわたる。とりわけ、後者については新規開業の禁止、既存学習塾の非営利法人化、株主上場の禁止といった徹底ぶりだ。
狙いは家計における教育負担の軽減、背景には「過酷な受験競争を勝ち抜くための教育費の高騰が “2人目” をためらう主因となっている」との認識がある。

中国の出生数は1979年に始まった「一人っ子政策」を契機に低下、2014年には生産年齢人口が減少に転じる。2015年、当局はこれを廃止するが昨年時点の合計特殊出生率は日本を下回る1.3人、反転の兆しは見えない。同時に高齢化も進展、2050年には総人口の1/3、4億5千万人が高齢者となる予測がされる。こうした中、5月には「1夫婦につき第3子まで」と、もう一段の緩和策を打ち出すなど人口増に向けての取り組みを強化、今回の施策もこの延長線上にある。

一方、労働人口の急速な減少に対応すべく、高校と大学それぞれのレベルに相当する職業訓練校の法律も改正する。具体的には職業訓練校卒を高卒、大卒と同等の学位であると認定し、就職や待遇、都市戸籍の取得などにおける差別を禁じる。エリート志向の学歴至上主義を是正し、労働力不足が深刻化しつつある製造部門へ人材を誘導する。また、民間企業の出資や運営参画も奨励、産官学一体の体制で国内製造業の基盤維持をはかる。

政策の強引さはいかにも中国的であるが、少子化対策としての効果は未知数であるし、一歩間違えば社会のダイナミズムを低下させかねない。中国経済の成長は幼少期からの強烈な上昇志向が原動力となってきたという側面があり、また、製造現場の待遇改善は当然ながらコストアップ要因となる。つまり、今回の改革は既存の競争要件からの転換を意図するとも言え、国内循環を主体としつつ国際競争力を維持する「双循環」戦略の補完施策と解釈することも出来よう。であれば、中国版 “ゆとり教育” の成否は内需を基盤とした生産性の向上、国内の格差是正の実現と一体的に考えられるべきであり、言い換えれば、少子化という一軸からの視点では本質を見失うということである。

2021 / 07 / 16
今週の“ひらめき”視点
繊維産業はサプライチェーン監視の強化を。成長戦略のキーワードはサステナビリティ

12日、経済産業省は「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」報告書を発表、繊維業界に対して人権侵害に関するリスクをサプライチェーンから排除するための指針を急ぎ策定するよう求めた。
製造工程をグローバルサプライチェーンに依存するアパレル産業は、かねてより安全衛生、不当賃金、児童労働、有害化学物質などサプライチェーンに内在する人権侵害や環境リスクに対する責任が問われてきた。今回の報告書もこの文脈の延長線上にあるが、新疆ウイグル自治区の強制労働問題が喫緊の課題として意識されていることは言うまでもない。

一方、報告書は国内の外国人技能実習生や女性就業者に対する不当待遇や不平等の実態も取り上げる。当社発刊の「繊維白書」等を引用しつつ、市場規模が縮小する一方で供給数が増加、過剰在庫と値引き販売が常態化する中でアパレル業界全体が疲弊していったことが問題の背景にあることが示唆される。つまり、“利益がとれない” 業界構造が人権やジェンダーに関するリスクの根底にあると言え、本来であればサプライチェーンの管理者となるべきアパレル企業にそのコストを引き受ける余力がない、ということだ。

要するに問題は構造的な低収益体質にあると言え、すなわち、問われているのは成長戦略である。報告書はサステナビリティ経営の実現に向けて、“大量生産・大量消費を前提とする直線型経済(リニア・エコノミー)から資源価値を最大化し、廃棄量を最小化する循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が求められている” としたうえで、デジタル技術を活用した産業構造改革の必要性を訴える。

異論はないし、個々の企業ベースでみれば既に取り組みも始まっている。ただ、産業全体における資源生産性の劇的な向上は、すなわち生産部門から販売部門に至る業界全体のダウンサイジングを意味する。実現すれば国内の雇用はもちろん途上国経済への影響は不可避だ。
とは言え、だからと言って目の前で起こっている不正義を放置する理由にはならない。新たな価値の連鎖を構築し、健全な成長を実現することが問題の本質だとすれば、サプライチェーンの不健全さの解消はまさにその第一歩であるのだから。

2021 / 07 / 09
今週の“ひらめき”視点
輸入木材、高騰。国産材への回帰トレンドは林業再生のチャンス

2日、三井ホームは木造マンションブランド「MOCXION(モクシオン)」の立ち上げを発表した。コンセプトは “サステナブル”、構造材に木を用いることで建設時のCO2の大幅削減をはかるとともに高い断熱性、耐震性、耐火性、遮音性を実現する。
政府による「2050年カーボンニュートラル」宣言を受けて各産業界の脱炭素化が加速する。とりわけ、CO2排出量が全産業の1/3に達する建築関連業界では、住宅建築時の排出量がRC造の約半分と試算される木材の利用促進が期待される。

一方、今年に入って住宅用木材価格の急騰が続く。新型コロナウイルスを早期に克服した中国と米国の需要回復、加えて、コロナ禍による世界的な物流の停滞が木材流通の不安定化を招いている。需給ひっ迫とロジスティクス機能の低下が世界的な木材不足と価格高騰の原因だ。こうした中、国産木材の利用促進が改めて課題として浮上する。

日本は国土の7割を森林が占める一方、木材資源の7割を輸入に依存する。結果、植林地の荒廃が進む。危機感は行政サイドも共有しており、2019年7月には全国知事会が「国産木材需要拡大宣言」を発表、公共建築物の整備や備品等の購入に際して率先して国産木材の利用に努める。政府も先月15日、「2030年には建築向けの国産木材の使用量を4割増やす」ことなどを目標とする「森林・林業基本計画」を閣議決定している。

木材の輸入依存の背景には戦後の復興需要から今日に至るまでの構造問題があると言え、林業を再び「儲かるビジネス」として再生させるためには生産から加工、販売に至る流通システムにおけるイノベーションが不可欠である。人材の確保、育成も喫緊の課題であり、長期的な需給予測にもとづく生産計画と短中期的な需要変動に対応できる在庫管理システムも必須であろう。それでも国際市場との競合を鑑みると産業再生は容易ではない。

林業の復興はまさに地方創生と同義である。したがって、林業を単なる建設資材の供給ビジネスとして捉えるのではなく、地域社会全体の経済システムに組み入れることで新たな価値の体系を構想すべきであろう。住宅やマンションの建設需要だけではない。木質バイオマスによるエネルギー資源としての価値はもちろん、地球環境、生物多様性、水源涵養、景観、レクリエーション、土砂災害防止といった多面的な機能の経済価値を見落としてはならない。森林は循環型経済を構成する中核資源であり、その視点から林業を再定義することで、持続可能な産業としての未来が開けるはずだ。