今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2020 / 06 / 26
今週の“ひらめき”視点
ソフトバンクグループ、再建と信用回復のためにも情報開示を

25日、ソフトバンクグループの定時株主総会が開催された。孫氏は、前期は9,600億円を越える当期損失となったものの財務改善のための資金調達が順調であること、保有株式の株式価値は新型コロナウイルス感染拡大前の水準より増えたことを強調、経営再建に自信を見せた。
実際、先月までにアリババ株1兆2,300億円、通信子会社ソフトバンク株3,102億円を売却、2日前の23日にはTモバイルUSへの出資分24%のうち16%を親会社ドイツテレコムに2兆2,000億円で売却することを発表済だ。

2013年、ソフトバンクは米通信3位のスプリントを買収、米通信市場に参入する。当時、「世界最大のモバイルインターネットカンパニー」を目指すと標榜した孫氏は、既にこの時点で4位のTモバイルUSとスプリントを合併させ、首位のベライゾン、2位のAT&Tに対抗する第3極構想を持っていた。
孫氏のプランは米当局の厳しい規制に阻まれ頓挫する。また、水面下の交渉においても合併後の経営権を巡ってドイツテレコムとの厳しい対立があったという。

ところが、2017年に交渉を再開すると孫氏は経営権の放棄を受け入れ、翌年には合意に達する。ビジョンファンドの設立が2017年であったことを鑑みると、もはや孫氏の関心は通信事業会社の経営にはなく、投資家として保有資産の最大化をはかることに移っていたのだろう。その意味でスプリントへの投資は結果的に正しく現在のソフトバンクグループに貢献したと言える。

しかしながら、ビジョンファンドの前期収支は1兆3,646億円の赤字、苦境は続く。5月18日の決算説明会で孫氏は「ビジョンファンドの投資先88社のうち15社程度は倒産する可能性がある」と表明、あわせてファンドの人員削減にも言及した。一方、「15社は大きく成長、10年後にはファンドが出資した企業価値の90%をこの15社が占める」とも語った。
ファンドである以上、リスクがあって当然である。とは言え、ソフトバンクグループの一般株主にとって、同社の株価を左右するファンドの中身に関する情報があまりに少なすぎる。

株主総会の冒頭、孫氏は「危機は新しい日常を生む」と力強くメッセージした。19世紀のコレラは下水道整備を促すことで安全な水をもたらした。1920年代の世界恐慌は公共事業が克服、結果、ダムと道路を整備することで電気と自動車のインフラをつくった。そして、2020年、人と人の接触を制限する新型コロナウイルス危機がデジタルシフトを加速する、と。
異論はない。投資会社としての投資方針も明確である。しかし、それゆえにもう一段の透明性に期待したい。足元では不正会計が露呈し経営破綻に至った独フィンテック大手「ワイヤーカード」とソフトバンクグループ関連会社との関係も取り沙汰される。孫氏、そして、ソフトバンクグループの信用回復のためにも、「ここまでやるか」と唸らせるほどの情報開示に期待したい。

2020 / 06 / 19
今週の “ひらめき” 視点
影響が深刻化する航空関連業界、質的変化に対応した戦略の再構築を

国際航空運送協会(IATA)は4月の世界の航空需要が前年同月比94.3%の減少となったと発表した。
今、世界の航空各社は重大な経営危機の最中にある。国際民間航空機関(ICAO)は「2020年1-9月期の旅客需要は前年同期比12億人減、27兆円が失われる」と試算、IATAも「世界の旅客需要が2019年の水準を回復するのは国際線が2024年、国内線は2022年」との長期予測を発表している。

影響は航空会社に止まらない。航空各社の急激な経営悪化は航空機製造業界を直撃する。三菱重工は “スペースジェット”(旧MRJ)の製造部門「三菱航空機」の開発体制を半減させるとともに欧米の営業拠点を閉鎖する。東レもボーイング社向け炭素繊維の生産能力の削減を決定、米国内事業所の従業員25%を解雇する。
地方空港の機能停止が地域経済に与える影響も深刻化しつつある。そもそも国が管理する国内25空港の航空系事業の営業収支の合計は197億円の赤字、黒字は東京国際、新千歳、小松の3港のみであり(H30年度、国交省)、運航の休止、減便の長期化はその存続を危うくする。

終息時期は未だ見えない。しかし、6月に入って以降、政府は経済再開に向けて舵を切る。人の移動を押さえ込んできた県外移動に対する自粛要請は19日に全面解除となる。また、出入国制限の緩和に向けてベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドと協議を開始、6月下旬を目途にベトナムへのビジネス渡航が再開される。
こうした動きは欧州が先行する。EUは15日以降、域内の移動制限の段階的な解除に踏み切った。スペインは7月1日から域外の観光客も受け入れると発表、エールフランスは8月までに東京、関西を含む150都市への運航を再開するという。

2018年、日本航空機開発協会は世界の航空旅客需要は「2037年までに2017年比2.4倍に拡大する」と試算した。もちろん、パンデミックは予測条件に入っていない。よって短中期的な修正は必要であろう。しかし、長期的な視点に立てば量的拡大トレンドにあることは間違いなく、むしろ、注目すべきは質的変化の行方である。
コロナ以前であれは「市場はLCCが牽引、主力機種は単通路の中型機」との見通しが業界の共通理解であった。しかし、ウイズコロナ時代における “新しい生活様式” やテレワークの常態化は航空市場の需要構造をより多様化させるはずである。
一方、地方も “移動” の質的変化を想定しておくべきだ。コロナ以前であっても「空港」は本業ベースで採算が取れていないわけであり、空港の必要性、活かし方、非航空系事業の運営方針など、未来の地域経済、地域交通(MaaS)との関係性の中でもう一度その戦略を問い直すべきであろう。

2020 / 06 / 12
今週の“ひらめき”視点
企業評価の基準が変わる。問われるのは持続性と社会的価値

日本取引所グループ(JPX)によると3月期決算の上場企業の株主総会の集中日は6月26日、特定日への集中割合は昨年を2.3ポイント上回る33.2%、第4週への集中割合は82.4%、同12.4ポイント増となった。日程が例年以上に後ろ倒しになったことについて、JPXは「新型コロナウイルスによる影響を踏まえ、決算作業や監査手続など事務日程を出来るだけ確保しておきたい」との会社側の事情があったと説明する。実際、決算事務は国内外で遅れており、基準日を変更し開催時期を7月以降とする企業や計算書類承認議案のみを別日程で審議(継続会)または臨時株主総会で対応する企業もある。

一方、運営面のみならず、“中身” もこれまでとは様相が異なる。米の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は取締役選任議案におけるROE基準の適用を猶予するとともに、本来であれば計算書類をもって判断すべき剰余金処分等の議案についても「継続会」であれば “棄権” を推奨、つまり、反対助言をしないことを表明した。
短期的な利益還元要求は影を潜め、投資家は企業の持続可能性に注目する。中長期成長戦略の蓋然性はもちろん、社外取締役の独立性と比率、上場子会社取締役会の親会社からの独立、取締役会のダイバーシティの確保(女性役員比率)など、ガバナンスの在り方そのものが問われる。同時にESGやSDGsなど非財務KPIに対する取り組みの重みがこれまで以上に増す。

昨年8月19日、JPモルガン・チェース、アップル、アマゾンなど米国のトップ企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は株主第一主義を見直し、従業員、取引先、顧客、地域社会などすべての利害関係者を重視する行動原則を発表した。そして今、新型コロナウイルスによる想定外の “パンデミック” がこの流れを決定づけ、加速させ、世界中で多くの投資家、経営者がこれに共鳴する。

4月20日、日本経済新聞一面に日本電産の永守重信会長のインタビュー記事が載った。氏は自身の経営について「自分の経営手法は間違っていた」と振り返り、これからは「利益至上主義を改め、自然との共存をはかる」、「収益が一時的に落ちても社員の幸福、働き易さを優先する」と述べた。4月~5月にかけて当社が実施したアフターコロナの経済環境を問うビジネスパーソンを対象としたアンケートでも、「社会貢献活動への関心が高まる」との回答率が4年前の2倍になった(
「新型コロナ収束後の世界と企業経営」調査結果速報より)。
パンデミックが企業の社会的価値の本質を浮き彫りにする。そうであれば総会で経営陣が説明すべきは、その価値の確からしさとそれを高め続ける自身の意志と能力の有無、ということである。

2020 / 06 / 05
今週の“ひらめき”視点
米中、国内に分断を抱えた両国の対立が世界のリスクを高める

5月31日、新型コロナウイルスの感染者数が世界で600万人を越えた。米ジョンズ・ホプキンス大によるとこの10日間で新たに100万人が感染、南米、ロシア、中東、インドで急増しているという。とりわけ、ブラジルの感染者は1ヵ月で5倍に拡大しており、冬を迎えてもう一段の感染拡大が懸念される。
日本はようやく落ち着きを取り戻しつつある。とは言え、第2波、第3波のリスクが燻る中、正常化への道は手探り状態である。
こうした中、米国と中国、それぞれの振る舞いと対立が世界の危機と不透明さを助長する。

米国の感染者は180万人、死者は10万人、失業者は4,000万人を越える。大統領選を控えたトランプ氏は、非難の矛先を中国に向ける。「ウイルスの発生源は中国であり、当局の初動対応の失敗がパンデミックを招いた」と。
もちろん、中国はこれに反発、WTOを “親中国” 機関と決めつけ、そこからの離脱を表明した米国を「国際協調主義に反する」と批判する。
しかし、中国もまた国際社会への挑発を続ける。4月、中国は周辺国との領有権問題が残る南シナ海に新たな行政区を一方的に設置、実効支配の強化をはかる。5月には「国家安全法制」の香港への適用を決定、英中合意にもとづく「一国二制度」を有名無実化、民主派から “高度な自治” の可能性を奪う。

米国はこれに直ちに反応、制裁措置の発動を表明する。特例として香港に認めてきた関税や査証における優遇措置を取り消す。
一方、その米国も社会の深層に根付く差別と分断が露わになる。白人警察官による黒人への暴行死を契機としたデモは、やがて騒乱となり、暴動を呼び込み、40都市以上で夜間外出が禁止された。トランプ氏は暴力の制圧に向けて “連邦軍の投入も辞さない” と警告する。

2018年3月、米国が表明した対中貿易赤字の是正措置に端を発した両国の対立は、知的財産権、安全保障問題を巻き込み、新型コロナウイルスで増幅され、収束の見通しはまったく立たない。
米中2大大国の対立に翻弄されてきたこの2年間、世界が見てきたのは両国の指導者に共通した覇権主義的、非民主的、強権的な資質である。つまり、いずれも世界の希望とはなり得ない、ということだ。奇しくも今日は6月4日、何事もないことを祈る。

2020 / 05 / 29
今週の“ひらめき”視点
“コロナ後の世界”への提案はあるか、今、企業の真価が問われている

26日、三陽商会の株主総会は、米RMBキャピタルが求めた取締役刷新議案を否決、中山雅之社長の取締役再任を含む会社提案を可決した。
4月14日、総会に先んじて発表された “再生プラン” は業績低迷の原因を「マーケティング改革の遅れ、裏付けのないストレッチプラン、構造改革の不徹底」と断じたうえで、ブランドバリューの向上と基礎収益力の回復をはかるとした。今後、副社長から社長に昇格した、三井物産出身でゴールドウィンの再生に尽力した大江伸治氏と社長から副社長に転じた中山氏をトップとする新体制で再建を進める。 

新体制は、短期決戦型の組織、全ブランドの一元管理、仕入れの許可制、販路統制、ブランディング戦略、、、これらをそれぞれ「強化」、「徹底」、「断行」することで構造改革を推進すると表明した。
しかし、こうした強く、勇ましい文言にも関わらず成長戦略に手ごたえは感じられない。“再生プラン”にはこの先のトレンドや消費行動変化についての言及がまったくない。ゆえに顧客の顔もファッションへのビジョンも見えて来ない。投資家向け資料であることを差し引いても、三陽商会が企業として存在することの顧客や社会にとっての価値に対する提案が希薄であること、ここが物足りなさの所以だ。

そもそもの問題は15兆3千億円から9兆2千億円に縮小したアパレル市場、9兆7千億円から5兆7千億円へとピークから4兆円もの需要を失った百貨店市場の凋落、それらが同時に進行したこの30年間、消費構造変化と流通構造変化への先見性と対応力が欠落していたことにある。問題の本質は “バーバリー” ではないし、暖冬でも、消費増税でも、ましてやインバウンドでもない。つまり、これは三陽商会に固有の問題ではなく、オンワード、ワールド、そして、三越伊勢丹や高島屋にも共通する問題である。すなわち、失われた4兆円の残像の中に未来はない、ということだ。

15日、「レナウン」が民事再生手続きに入った。26日には「中合福島」が8月末をもって閉店すると発表した。同日、「青森国際ホテル」が自己破産を申請した。
アパレル、百貨店、地方、、、棚上げされてきた構造問題の猶予期間を新型コロナウイルスが一挙に奪い去った。
当面、私たちは新型コロナウイルスとともにある。であれば、この期間を未来に向けてのチャンスに置き換える責任がある。そうでなければ犠牲の大きさに報いることは出来ない。「すべてが終わった後、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか」(「コロナの時代の僕ら」、パオロ・ジョルダーノ著、飯田亮介訳より)、つまり、そう言うことである。

2020 / 05 / 22
今週の“ひらめき”視点
“自粛”が拓いた地方自治の可能性、今、地域の在り方を見つめ直すチャンス

改正新型インフルエンザ等対策特別措置法は「緊急事態宣言」の発出、解除を国の権限としたうえで、感染防止策の実行を都道府県に委ねた。結果、地方自治体の首長たちの存在感が高まる。
社会活動、経済活動における自粛や休業要請の対象業種、範囲を決定するのは都道府県の首長たちである。私権の制限と経済損失を伴う「要請」は知事の名で発せられ、同時に独自の補償や支援策が発表、実行される。
新型コロナウイルスは人口の過度な集中がもたらす社会的リスクの大きさとともに、国民生活における地方自治の役割と機能を国全体で見直す契機となったと言えよう。

19日、政府の地方制度調査会(地制調)は将来の人口減に対応した地方自治の在り方に関する答申案をまとめた。焦点となったのは「圏域構想」の扱いだ。これは「個々の市町村は行政のフルセット主義から脱却、一定規模を持った中枢都市とその周辺の市町村を一つの生活圏、経済圏を形成する新たなマネジメント単位とし、行政機能のコンパクト化とネットワーク化をはかる」ことを狙いとする。
ベースとなったのは総務省の有識者会議が提唱した「自治体戦略2040年構想」、国もこれを後押しする。しかし、全国知事会、全国市長会など地方6団体はこれを現行市区町村制度の解体を目指すものとして反発、「自治体間連携はテーマごとに進めるべき」との主張で一致する。地制調はそうした立場に配慮、広域連携の必要性を強調しつつも「圏域構想」に関する具体的な言及を見送った。

20日、全国知事会は「緊急事態宣言」の解除を見据え、政府への提言をとりまとめた。提言では、臨時交付金の積み増し、ワクチンの早期実用化、検査体制の確立、観光振興に向けての支援などを要望するとともに、宣言の解除に際しては「圏域の一体性への配慮」を求めた。
ウイルスにとって行政区分など何の意味もなさない。その押さえ込みには多くの人々にとっての日常的な移動範囲、つまり、「圏域」単位における対策が必要ということである。

そう、現実の生活に根差した地域の範囲を考える時、また、人口の絶対縮小が避けられない地方の将来を考える時、「圏域」という単位は極めてリアルであり、行政単位としてのメリットは小さくない。
もちろん、“町” は経済と行政における合理性だけで括られるべき “区画” ではない。歴史、文化、ことば、自然、そして、それを継承してきた人々の精神性が重要な構成要素である。とは言え、経済、教育、医療、交通、防災、治安、上下水道など社会インフラの維持は人々の暮らしの前提でもある。その意味において国と地方、地方における地域と地域の関係性についてあらためて問い直す必要があるだろう。“圏” の効率性と “町” の独自性をどう両立させるか。圏の重複、圏からの漏れによる非効率への最適解はあるか。新型コロナウイルスがもたらした “非日常” は未来に先手を打つための戦略をじっくり考える絶好の機会である。