今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2019 / 08 / 02
今週の”ひらめき”視点
消費増税まで2ヶ月、転嫁拒否行為の新たな発生を防げるか

10月1日の消費増税までいよいよ2ヶ月となった。「再々延期論」も燻るものの実施は既に秒読み段階である。しかし、事業者側の準備は進んでいない。とりわけ、中小事業者の軽減税率対策の遅れは深刻だ。政府は複数税率に対応するレジや受発注システムの導入補助対象事業者を約30万社と想定し1,000億円を予算計上した。しかし、6月末時点での申請件数は約11万件にとどまる。一方、需要喚起策の目玉である「キャッシュレス決済のポイント還元」も目標の「100万店以上」に対して7月末時点の申請はわずかに24万件という状況だ。

準備の遅れも問題であるが、そもそも軽減税率という“ややこしさ”が事業者に与える影響は小さくない。東京商工リサーチがこの6月に行った消費増税に関する事業者調査によると、「売上の減少」に次いで「仕入先からの値上げ要請」、「会計システム変更による負担増」が懸念事項として指摘された。実際、複数税率が適用される今回の増税は品目ごとの税率仕分けなど事務作業の工数が増えるとともに、事業者間取引における転嫁拒否行為も発生し易い。

外食チェーン各社が軽減税率への方針を発表し始めた。対応は “本体価格を揃える” と “税込み価格を揃える” の二択である。後者は、つまり “本体価格の値引き” である。この場合、値引き原資のすべてを自社で吸収するのであれば問題はない。しかし、ここに “協力” という名の圧力が納入業者にかかる可能性は小さくない。
経産省の調査によると現状であっても事業者の12%が消費税を価格に転嫁できていない。理由の上位は「取引先を奪われる恐れがあるから」、「取引先に価格アップを受け入れる余裕がないと考えられるから」、そして、「立場が弱いから」である。多くの場合、明確な強要はない。そう、まさに “忖度” である。

キャッシュレス還元も問題を孕む。政府が負担する5%のポイント還元は中小事業者が対象であり、大手チェーン傘下のFC店はこれが2%となる。もちろん、チェーン本社の直営店は対象外である。しかし、これでは同一チェーン内でポイント還元率が異なることになる。よって大手チェーンは本部負担で還元率を揃える。
一方、ポイント還元の対象外である大手スーパーなどもコンビニや中小事業者との対抗上、自社負担によるポイント還元や販促キャンペーンを展開するはずだ。となると、ここでも納入業者による “自主的な営業協力”、すなわち “忖度” が発生し易い。

逆進性の緩和を目指した軽減税率や景気の腰折れ対策としてのポイント還元が原価率の不当な低下や消費税の転嫁拒否という形で事業者経営を圧迫するのであれば、結果的に本末転倒と言わざるを得ない。
経産省はこれまでも下請法の遵守、消費税の適正な価格転嫁を呼びかけ続けてきた。しかし、転嫁拒否に関する調査の着手件数は11,397件、指導・勧告件数は4,946件に達する。うち4,410件が “買い叩き” である(平成25年10月~令和元年5月末)。そして、この数字の背後には業種を問わず多くの “忖度” があるはずだ。小売や外食だけの問題ではない。消費増税が正当な価格体系、取引構造、税制度を歪めることになるとすれば、結果、成長もプライマリーバランスの黒字化もいずれも遠のく。税率、軽減税の適用範囲、加えて、益税や毎年発生する3,600億円を越える滞納の問題もある。課題は多い。法人税、所得税、そして、年金等の将来支出の問題も含め、抜本的に財政の在り方を問い直すべきであろう。現下の経済情勢はそのための立止りを促している。

2019 / 07 / 26
今週の”ひらめき”視点
対立深まる日韓関係、トップの器量に期待する

23-24日、世界貿易機関(WTO)の一般理事会がジュネーブで開催された。韓国は日本の対韓輸出規制について「多国間貿易の秩序に甚大な影響を与える」と主張、2国間協議の必要性を各国に訴えた。これに対して日本側は「今回の措置はあくまでも安全保障のための管理体制の見直しであり、輸出を規制するものではない」と反論、議論は平行線を辿った。

そもそもWTOの一般理事会は加盟する164の国・地域に共通の通商課題を討議する場であり、特定の2国間紛争を調停する場ではない。出席した各国代表からは「われわれは関与しない」「議案として相応しくない」「理解に苦しむ」といった冷めた声が大勢を占めたという。日韓のあまりのヒートアップぶりに “関わりたくない” といったところだろう。
一方、日韓はそれぞれの拳を更に高く振り上げる。日本は8月中にも輸出管理上の信頼関係が崩れたことを理由に「ホワイト国」から韓国を除外する方針を固め、韓国もWTOへの提訴手続きに向けて具体的な作業に入った。

一連の経緯を鑑みれば通商上の対立の根本が「政治」にあることは明白だ。ゆえに「WTO協定」という表面上の議論において “すれ違う” のは当たり前である。議論(=感情?)の起点を “1910年” に置き続ける限り、併合した側と主権を失った側の溝は永遠に埋まらないだろう。であれば、それを向けとめ、そのうえでその克服を目指すのが大人の政治だ。
2018年、日本から韓国への輸出額は546億ドル、韓国から日本への輸入は305億ドル、渡韓した日本人は295万人、訪日韓国人は754万人、グローバルサプライチェーンにおける日韓連合の強さは言うまでもない。今更、“民” を一致するはずのない政治のレベルまで引き戻すことなど、是非とも勘弁願いたい。

瓜二つの双子の兄妹を巡るシェイクスピアの恋愛喜劇「十二夜」、書棚で埃をかぶっていた本のページを久しぶりにめくった。両国のトップに以下のセリフを贈りたい。

オリヴィア:「あなたの激しやすい感情によってではなく、あなたの深い英知によって受け止め、心を鎮めてください」(白水社、小田島雄志訳)

この場面のセリフはこう締め括られる。

オリヴィア:「今度のことも笑ってすませていただけるでしょう」(同上)。

2019 / 07 / 19
今週の”ひらめき”視点
仮想通貨「リブラ」、新たなデジタル通貨圏の可能性とリスク

米フェイスブックの仮想通貨「リブラ(Libra)」に対する各国当局からの警戒感が高まる。
16日は米上院銀行委員会、翌17日にはG7財務省・中央銀行総裁会議で「リブラ」の脅威について議論が交わされた。いずれの会議でも個人情報の不正利用やデータ流出が相次いだフェイスブックの管理体制が問題視されたうえで、「マネーロンダリング、個人情報保護、利用者の資産保全に対する懸念が解消されない」との認識で一致、「重大な問題があり、早急な対策を要する」と総括された。

こうした懸念や批判に対してフェイスブックは「リブラは、VISAやマスターカード、PayPal、eBay、Uberなど28社が加盟する “リブラ協会” が運営する。フェイスブックは支配的な立場にない」、「拠点はスイスに置き、スイス金融当局の監督下に入る」、「サービスの開始に際しては各国の規制に従う」、「国家や通貨当局とは競合しない」など、ガバナンスの健全性と既存の金融システムとは対立しないことを強調する。

とは言え、「リブラ」が法定通貨と連動していること、そして既に世界27億人もの潜在ユーザーを抱えていることのインパクトは大きい。IMFも既存の法定通貨圏とは異なる “超国家的なデジタル通貨圏” が生まれる可能性について警告する。将来、「リブラ」口座が決裁や送金において一定のシェアを占めてくれば自ずとEC上のモノの価値はダイレクトに「リブラ」で表現されることとなるだろう。また、リブラ協会本部は「リブラ」と交換された法定通貨を直接運用することも可能だ。結果、既存の銀行が持つ信用創造機能は低下、中央銀行の金融政策機能の適用範囲も狭まる。

米FRBパウエル議長は「リブラには最高水準の規制を」と呼びかける。テロ資金への悪用も指摘される。サイバーセキュリティにおける課題も大きい。テクノロジーの進歩とビジネスモデルの革新が一定の社会的リスクを伴うことに異論はない。ただ、旧来のシステムや現在の体制への盲信、随順はいかがであろうか。「リブラ」のリスクや規制の在り方を突き詰める必要はあろう。しかし、と同時に現在の延長線上にない通貨の未来についてもっともっと深く考えてみたい。現状にしてもたいして上手くやれているわけではないのだから。

2019 / 07 / 12
今週の”ひらめき”視点
かんぽ生命、販売不正の背景にある構造問題。郵便事業のコストは誰が負担すべきか

10日、かんぽ生命と日本郵便は保険商品の不適切販売についてトップが謝罪、親会社の日本郵政とともに第3者委員会を設置し、実態解明をはかると発表した。一方、金融庁も不適切販売の件数が2万3,900件と膨大であること、一連の行為が保険業法に抵触する恐れもあることから行政処分の検討に入った。

従来、かんぽ生命は養老保険など貯蓄性保険を主力としてきたが、低金利による運用悪化を受け販売は低迷、2017年10月には医療特約を投入するなど商品政策の転換を本格化させる。以降、金融窓口における営業力強化、“貯蓄から資産形成へ”の促進、新規契約・新規顧客の拡大を軸に収益力の強化をはかってきた。
そうした中、販売の最前線を担う郵便局員による不正の横行が露呈した。発覚した問題の内容は、「新旧契約の重複加入による保険料の二重徴収」、「旧保険から新保険への移行に際して意図的に設けられた無保険期間」といったもの。前者は旧保険の契約期間の引き伸ばし、後者は解約から契約まで一定の間を開けると社内ルール上 “新規” 扱いとなることを利用したノルマの達成が目的である。目標未達者に対するパワハラ紛いの営業指導も日常茶飯事だったとの報道もある。過度な成果主義と過酷な販売ノルマに追い詰められた現場の疲弊が伺える。

しかし、問題の本質はユニバーサル・サービスの維持を義務付けられた低成長、低収益の郵便事業をゆうちょ銀行とかんぽ生命が支えるグループの収益構造にある。2019年3月末時点で営業中の郵便局は約2万4千局、うち、銀行代理業務は3,850局、生保募集は559局が委託契約を締結している。つまり、これらの職員たちが金融商品の販売手数料を稼ぎ出しているわけであり、言い換えれば彼らが全国郵便事業の一端を支えているということだ。職員による年賀状や “かもめーる” の自腹購入問題も記憶に新しい。現場は既に限界である。

現在、日本郵政はゆうちょ銀行株の89%、かんぽ生命株の64%を保有しているが、これをそれぞれ50%未満まで段階的に売却してゆく方針である(2019年3月期、有価証券報告書より)。保有率が 1/2を下回ると新規業務への規制が認可制から届出制に緩和される。結果、金融2社と日本郵便との関係性も自ずと変わってくるだろう。郵便事業の地域ネットワークをどう維持するのか、少なくとも日本郵便の現場が負いきれるものではない。郵政民営化から12年、日本郵便の全株式を保有する親会社日本郵政、その57%の筆頭株主である“国”の株主責任は軽くない。

2019 / 07 / 04
今週の”ひらめき”視点
農産品の多様性維持と競争力強化に向けて、あらためて種子管理制度の在り方を問う

6月28日、鳥取県議会は「鳥取県農作物種子条例案」を可決した。昨年4月1日、「主要農作物種子法(種子法)」が廃止となって以降、これに代わる独自の条例を制定、施行した都道府県は11都道府県におよぶ。9月には宮城県、栃木県の県議会が条例案の審議入りを決めており、岩手県議会も条例制定に関する請願を採択済みだ。

種子法の制定は1952年に遡る。国は米、麦、大豆の増産を目的に、種子の計画的な生産と新品種開発を都道府県に義務付けた。農家は安価に、安定的に種子を入手することが可能となり、これが戦後の食糧生産を支えた。
しかし、供給不足は既に解消しており、需要構造も変わった。内需の成長に限界が見え、生産者の高齢化も進む。TPPなど市場開放圧力も強まる。こうした中、2017年から2018年にかけて農業の競争力強化に軸足を置いた法改正が一挙に進む。種子法の廃止はその一つであり、種子ビジネスへの民間参入を促すことが狙いである。
とは言え、種子ビジネスへの民間参入は1986年の種子法改正で可能となっており、大手肥料メーカーや商社が既に市場参入している。では、もう一段の規制緩和の意味はどこにあるのか。目指されているのはゲノム編集やRNA干渉法など最先端のバイオテクノロジーとIoT、AI(アグリインフォマティクス)によって最適化されるスマート農業、そして、知財戦略の強化による国際競争力の向上と言えよう。

こうした流れは従来、都道府県の管理下にあった、言わば“公共財”としての種子の性格を “資本財” へと変える。日本は今、交渉中のRCEP協議において「品種開発者の権利保護を定めたUPOV(ユポフ)条約の批准を加盟条件とすべき」との主張を展開している。広域経済連携協定における知的財産(=育成者権)の保護強化は必然であり、育成者権が認められた品種の自家採取を禁止する種苗法の改正もその延長にある。
一方、育成者権を特定できない在来種や固定種の扱いは従来どおりであり、自家採取も流通も規制されない。つまり、品種の“流出リスク”が高いまま取り残されるということであり、結果、ブランドとしての商品価値を維持できなくなった品種は “市場” に飲み込まれかねない。

種子法が廃止されたその当日、「埼玉県主要農産物種子条例」を施行した埼玉県は種子法にはなかった「在来種の生産と維持を県が支援」する規定を条例に盛り込んだ。
冒頭に記したとおり種子法の代替条例を施行する動きは全国的なものとなりつつある。しかし、単なる旧法の “原状回復” では農業の未来は見えてこない。農業の国際競争力と地域社会の担い手としての農家をどうバランスさせるか。地域が育ててきた固有のブランドをどう守るのか。生産者の所得向上や産業としての農業振興はもちろん、食の安全、種の多様性、地域社会や地球環境など多面的で複合的な視点からあらためて種子管理制度の在り方を考えてゆきたい。

2019 / 06 / 28
今週の”ひらめき”視点
LIXIL、対立を乗り越え、新たなガバナンス・モデルの確立を

トステム創業家の潮田洋一郎氏と瀬戸欣哉前CEOとの経営権を巡る対立が、25日、定時株主総会で決着した。
混乱の発端は昨年10月31日、LIXILは突然、瀬戸氏のCEO退任と潮田氏の会長兼CEO就任を発表する。背景には潮田氏と瀬戸氏の海外戦略に対する路線対立があったとされるが、不透明な解任手続きに社内外から批判が起こる。会社側は西村あさひ法律事務所に内部検証を委嘱、2月25日付けで「重要事項の決定に疑義が生じたことは反省すべきであるが、取締役会決議に違法性はない」と結論づけた。しかし、海外の機関投資家を中心に潮田体制下のガバナンスへの不信は収まらず、4月5日、こうした流れに押される形で瀬戸氏は独自の役員候補と潮田氏の退任を株主総会に提案すると発表する。これを受けて潮田氏は総会前に自ら取締役を退くと表明、その一方で自身の影響下にある役員候補を会社提案としてまとめ、瀬戸氏に対抗する。

結果は瀬戸氏がCEOに復帰、14人の取締役のうち8人が株主提案から選任された。しかし、うち2名は会社提案と重複しており、また、瀬戸氏自身の賛成率も53.7%にとどまるなど取締役会における瀬戸氏の立場は磐石とは言い難い。
当面の課題は2011年に潮田氏が買収し、2017年に瀬戸氏が中国企業への売却を決定、しかし米当局の承認を得られず売却を断念した赤字のイタリアの建材子会社の扱いだ。また、内需の構造的な縮小を鑑みると、収益性の高い事業の海外シフトを早急に進める必要もあるだろう。経営の正常化と成長軌道を確かなものにするための瀬戸氏の責任は重い。

さて、今回の1件はそのドタバタぶりに注目すると創業家の威光を勘違いした二代目経営者の「お家騒動」と映る。しかし、米国の資産運用会社の日本株担当者は今回の事案を「日本の企業統治改革の分岐点」と受け止めた。確かに総会では海外勢のみならず日本の機関投資家の一部も株主提案の指示に回った。また、14人で構成される取締役会はプロ経営者5人に元最高裁判事や元アメリカ国務次官補を加えた社外取締役9人が占める。この布陣において社外取締役は単なるお飾りでは済むまい。もはや会社側、株主側などと争っていては経営が立ち行かなくなるということだ。

日本版スチュワードシップ・コードが導入されて5年、議決権行使の個別開示等を通じて運用会社、アセットオーナー、そして、投資先である企業との関係は日本においても緊張感が増しつつある。利益相反、情報開示制度、運用会社の負担増等の問題はある。しかし、市場の健全かつ持続的な成長を促すためにも3者間における「目的をもった対話」(エンゲージメント)の更なる拡充を望む。