ZEBの国内市場規模は2035年度に8.9兆円を予測
~建築物の脱炭素化は、現在、ZEB化の推進を通じた「オペレーショナルカーボン削減」のフェーズ。最終形態として目指すべき姿は「ホールライフカーボン・ゼロ」~
1.市場概況
建築物の脱炭素化を目指す場合、建設から解体までのライフサイクル全体で発生する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas、以下GHG)の削減を検討していく必要がある。建築物のライフサイクルは、「①資材製造・施工・資材の使用段階」「②建物の使用段階」「③解体段階」に大別される。①と③で発生するGHGは「エンボディドカーボン(EC:Embodied Carbon、以下EC)」、②で発生するGHGは「オペレーショナルカーボン(OC:Operational Carbon、以下OC)」と呼ばれる。
国内の非住宅建築市場では、年間の一次エネルギー消費量を正味ゼロ以下とすることを目指した「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:Net Zero Energy Building)」の普及が推進されている。建築物のZEB化は、建築物のライフサイクルの中でも「②建物の使用段階」で発生するGHG排出量の削減に寄与する。つまり、現在、建築物の脱炭素化は「OC削減」の段階にある。
公共建築物については、官庁施設の環境保全性基準の改定にともない、2022年4月以降に新築される建築物は原則として「ZEB Oriented※相当以上」となった。民間の非住宅建築物においても、環境への貢献や対外的なアピールを目的にZEB化を求める建築主が増えつつある。これらの状況を踏まえ、2024年度のZEB国内市場規模(建築物用途「工場・作業場」「倉庫」を除くZEB建築物の工事費ベース)を約1.2兆円と推計した。
※ZEB Oriented:一次エネルギー消費量を30%(ホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等)または40%(事務所等、学校等、工場等)以上削減し、かつエネルギー消費量計算の評価対象外の省エネ技術(未評価技術)を導入した、延床面積1万㎡以上の非住宅建築物。
2.注目トピック
ZEBの普及拡大に向け、ゼネコン・サブコン・設計事務所では設計支援ツールの整備が進む
ZEBの普及拡大に向け、ゼネコン・サブコン・設計事務所では設計支援ツールを整備するなど、ZEB化への対応力強化を進めている。ZEBの設計にあたっては、エネルギー消費性能計算プログラム(WEBPRO)に建築仕様や設備仕様(空調・換気・照明・給湯など)といった設計情報を入力し、省エネ性能を計算するのが一般的である。
ただ、設計初期段階では建築や設備の仕様が確定しておらず、省エネ性能の評価が難しい。また、WEBPROは入力に時間と手間が掛かることから、ZEBの実績拡大に向けては計算作業の省力化が課題とされてきた。
そこで、一部のゼネコン・サブコン・設計事務所では、過去のZEB設計データとBIM(Building Information Modeling)※を活用し、エネルギー消費性能計算結果が迅速に反映される設計支援システムの開発を進めている。こうした設計支援システムでは、意匠図などから建物の外皮・各部屋の面積などの建物情報を抽出し、ZEB化に適した外皮や設備仕様の選択が自動で行われる。こうすることで、設計初期段階でもZEB化に必要な仕様・コストが概ね把握できるほか、設計変更に対応しやすくなるなどのメリットがある。
※BIM:建築物の設計情報を統合し、三次元モデル化されたシステム。
3.将来展望
政府の第7次エネルギー基本計画において、2030年度までに新築非住宅建築物の100%をZEB水準とする目標が掲げられていることから、当面は引き続きZEBの拡大が焦点となる。
また、政府は2050年に既存建築物平均でのZEB水準達成を目指している。この目標の達成に向けては既築建築物の改修によるZEB化の実績を拡大させる必要がある。これらを踏まえ、今後のZEB市場規模(建築物用途「工場・作業場」「倉庫」を除くZEB建築物の工事費ベース)は、2030年度に約8.6兆円、2035年度には約8.9兆円になると予測する。
現在、建築物の脱炭素化は、ZEB化の推進を通じた「OC削減」のフェーズにあるが、最終的にはECとOCを合わせた建築物のライフサイクル全体で発生するGHG、すなわち「ホールライフカーボン(WLC:Whole Life Carbon、以下WLC)」を正味ゼロとすることが求められる。
2028年度には、WLCの算定・開示を義務化するとした「建築物LCA制度」の開始が予定されている。非住宅建築市場では今後、資材製造時のGHG排出量を抑えた低炭素建材の活用や建物の継続利用を通じて、「①資材製造・施工・資材の使用段階」や「③解体段階」における「EC削減」にも注力していくことが求められる。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】Aパターン
ZEB Ready、ZEB Orietedの概要と市場規模
調査要綱
2.調査対象: ZEBの設計・施工実績を有するゼネコン、サブコン、設計事務所
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
<ZEB市場とは>
経済産業省資源エネルギー庁「ZEBロードマップ検討委員会」によると、ZEB(Net Zero Energy Building)は、「先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制や、パッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物」とされている。
本調査におけるZEB市場とは、ZEBプランナー(建築物のZEB達成実現のため、建築設計・設備設計などを行う事業者)が設計した、ZEB水準(『ZEB』、Nearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Oriented)を満たす非住宅建築物とし、ZEB建築物の工事費ベースで算出した。
なお、2023年調査時と異なり、対象となる建築物用途は国土交通省「建築着工統計」における区分上の「事務所」「店舗」「学校の校舎」「病院・診療所」「その他」とし、「工場・作業場」「倉庫」は除外している。
「工場・作業場」「倉庫」は、建屋内の一部エリア(事務所エリア)のみでZEB達成の判定がなされ、ZEB市場規模に与える影響が他の建築物用途に比べ小さいことから、今回の調査では対象に含めなかった。
<市場に含まれる商品・サービス>
ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:Net Zero Energy Building)
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