リサイクル炭素繊維は「いかに取り出すか」から「いかに活用するか」へステージが進む
~不連続繊維であるrCFを「使う」ための技術開発と用途の探索が課題に~
1.市場概況
炭素繊維とプラスチックのコンポジット材料である炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)は、航空機や風力発電、圧力容器、自動車、スポーツ・レジャー用品など幅広い分野で使用されている。そのワールドワイドのCFRP市場規模は2024年で168,800t(当社推計値)にのぼる。このうち工程内で排出される端材は全体の14%を占める23,600tであったと推計する。この工程内端材と、市中に出ているCFRP最終製品のうち耐用年数を過ぎて2024年に廃棄された量を合算した2024年のCFRP廃棄物の量は64,070tにのぼると推計した。CFRP市場の拡大と共に、この量は増え続ける見込みである。
一方、2024年に排出されたCFRP端材・廃材64,070tのうち、リサイクルに回る量は約7%と極めて少数にとどまる。さらに、リサイクルに回ったCFRP端材・廃材からマトリクス(母材)樹脂を分解して取り出されたリサイクル炭素繊維(以下、rCF)回収量を2,440tと推計する。rCF回収量をPAN系炭素繊維(vCF:バージン炭素繊維)生産量(当社推計値)規模と比較すると、PAN系vCF生産量の2%強程度に相当する。CFRP市場の拡大に伴い、rCF回収量も増えてくる見込みで、2040年のrCF回収量は7,700tになるものと予測する。
CFRP端材・廃材のリサイクル技術開発が進む一方で、実際のリサイクル量が少量にとどまっている。この背景として、不連続繊維であるrCFは連続繊維であるバージン炭素繊維(vCF)の加工方法が適用できないことが挙げられる。樹脂との複合化、成形のいずれのプロセスにおいてもvCFとは異なる技術が必要となるため、直接のユーザーであるモルダーがrCFを使いこなすことができていない。リサイクラー各社でも、これまで高品質なrCFを「取り出す」ことに集中し、rCFを「使う(活用する)」ための技術開発が十分とは言えず、rCFが出口となる用途まで行きつかないという状況であった。CFRP端材・廃材からrCFを取り出すリサイクラーには、rCFを「いかに取り出すか」だけでなく、取り出したrCFを「いかに活用するか」という視点での技術開発が求められる。
2.注目トピック
vCFを超える新たな機能材としてのrCF開発へ リサイクラーから材料メーカーへのポジションシフトが求められる
rCFが単に「バージン材に近い(あるいはバージン材並みの)物性を持つリサイクル材」というだけでは開発の幅も限られる。従来品と同様のハンドリングができないrCFを、ユーザーが成形プロセスを変更してまで採用するという動きにはつながりにくい。rCFの採用を増やし、出口となる用途を拡大していくためには、rCFに環境対応やバージン材と同等であること以上の価値を持たせる必要がある。その価値をユーザーに示していくことが求められる。
rCFに限らず、リサイクル材は温室効果ガス(GHG)排出の少ないサステナブルな素材と位置付けられ、国を挙げて幅広い産業分野で採用拡大に向けた取り組みが進められている。しかし、ユーザーの立場では単にサステナブルな材料というだけでは採用にはなかなか踏み切れない。rCFの用途を広げ、採用実績を増やしていくためには、rCF展開企業が「リサイクル材」ではなく「高付加価値材料」として展開していかなければならない。rCFで展開する企業には、資源回収(リサイクラー)という立場を超え、vCFを超える性能・付加価値を持つ材料を開発・生産・提案する「材料メーカー」へと進化していくことが求められている。
3.将来展望
日本のリサイクラーはこれまで「良い材料(vCFと同等品質のrCF)を作り、提案・供給する」ことに力を注いできた。しかし、ユーザーが「良い材料」であると評価するのは、単に材料そのものの性能・品質が優れているだけではない。既存の材料に無い新たな性能を持ち、尚且つ使いやすく、コストダウンにつながるものである。つまり、材料やプロセスを変更してでも採用する価値が得られるものである。エンドユーザーが価値を感じるような提案ができなければ、リサイクラーが「良い材料」として提案しても採用にはつながらない。rCFを「いかに取り出すか」から「いかに活用するか」へと進み、出口を拡大、さらには自ら創出していくことが重要である。これは単にrCFの市場を広げるというよりも、日本が力を持っている炭素繊維とその複合材の使い方や市場を広げ、日本の強さを維持することにつながる。vCFで高いシェアを確保している立場からも、今後日本が世界の炭素繊維リサイクルを牽引していくことが期待される。
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【ショートレポートに掲載されているオリジナル情報】Aパターン
rCFの活用状況:採用に伴うプロセスコストやカーボンプライシングまで考慮したメリットの訴求が鍵に
rCFの採用動向: 気候変動対策・環境対応がブランド力につながるB to C業界でrCFの採用が進展
調査要綱
2.調査対象: 炭素繊維メーカー、炭素繊維リサイクラー、リサイクル炭素繊維加工メーカー、研究機関等
3.調査方法: 当社専門調査員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
リサイクル炭素繊維とは
本調査におけるリサイクル炭素繊維(rCF:Recycled Carbon Fiber)とは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)のプリプレグ、工程内端材、使用済製品(廃材)からマトリクス(母材)樹脂を分解して取り出された炭素繊維(マテリアルリサイクル品)を指す。
<市場に含まれる商品・サービス>
rCF(リサイクル炭素繊維)、vCF(バージン炭素繊維)、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)
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