今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2022 / 07 / 15
今週の“ひらめき”視点
KDDI通信障害、緊急時の通信ネットワークの維持に向けて早急に体制づくりを

7月2日未明に発生したKDDIの大規模通信障害は3日半を経て、ようやく全面復旧した。筆者もauのスマートフォンを使っているが筆者の住むエリアではSMS(ショートメッセージサービス)は生きており、また、Wi-Fi環境下ではe-mailやメッセンジャーが使えたので自宅やクルマ内で不便は感じなかった。ただ、Android Auto対応のスマホアプリは、2日午前時点では画面全体がぼやぼやっとした感じでナビとしては全く使えなかった。昼前になるとまず道路の輪郭が、そして、徐々に文字情報がクリアになってきて、なるほど通信制限とはこういうものか、と実感した次第である。

さて、筆者への影響は軽微であったが、UQモバイル、povoなどau回線を使った通信事業者はもちろん、社会全体への影響は甚大であった。ヤマトホールディングスでは配送車との連絡に支障が生じた。トヨタ自動車では「つながるクルマ」サービスに影響が出た。JR貨物ではコンテナの積み下ろしを管理するシステムが影響を受け、運行遅延が発生した。気象庁の観測システム「アメダス」も全体の7割近い観測所のデータが収集できなくなった。また、東京都では自宅療養中の新型コロナウイルス感染者との連絡が一時不通になった。SMSを使った本人認証システムも機能しなかった。そして、警察、消防への緊急通報が長時間にわたって不通となった。

一時的とは言え緊急通報手段が喪失した事態は深刻であり、総務省は「携帯電話会社が緊急時に他社の通信網に乗り入れる “ローミング” について具体的な検討を進める」と声明した。ただ、この問題は東日本大震災の直後、既に検討課題として取り上げられている。2011年11月10日、「第2回首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会」(総務省総合通信基盤局)は “アクションプランにもとづき取組・検討を進める” 事項の一つとして提携事業者間のローミングと通信サービス事業者間でのリソースの融通について言及している。

しかし、この10年間、検討は進んでいない。もちろん、実現には事業所間調整を含め様々な “現実的” な問題がある。しかし、通信ネットワークの社会インフラとしての重要性は10年前とは次元が異なる。いつ起こってもおかしくない大地震に対してもはや一刻の猶予もない。今回、KDDI高橋誠社長に対する通信障害発生の第一報は固定電話で行われたという。個人法人ともに固定電話の契約数は縮小の一途である。緊急時の通信手段をどう確保するか、まさに喫緊の課題である。

2022 / 07 / 08
今週の“ひらめき”視点
持続可能な豊かさを求めて、八ヶ岳山麗を舞台に新たな地域経済循環モデルがスタート!

7月5日、当社「カーボンニュートラルビジネス研究所」(伊藤 愛子所長)は「気候変動と食と地域」をテーマに「ココラデ・プロジェクト」と題したワークショップを長野県茅野市にて開催した。「ココラデ」とは「出来る限りここらへん(ココラ)にある資源で(デ)、環境負荷の少ない暮らしを実現したい!」との意、持続可能な社会の実現に向けての実験プロジェクトである。参加者は9名、決して満員御礼とは言えないが地元の大学教授、大手企業の元CSR担当マネージャー、エネルギーの地産地消に取り組むグループのリーダー、「子ども達により良い未来を」と考える若いお母さんなど、地域経済、環境、食の問題を真剣に考える人が集まった。

ワークショップでは原村の「やじぺんキッチン」が手作り弁当を提供、地元食材に関する解説から環境負荷の小さい調理法やフードロスの問題まで、楽しく、真剣な意見交換がなされた。プロジェクトは、引き続き八ヶ岳山麗をベースに地域経済や環境問題の専門家、生産者、関連事業者、市民を巻き込んで展開してゆく計画である。文字通りの小さな一歩ではあるが、小さい単位としていかに社会活動を機能させるかが地域経済循環モデルの要諦でもある。小さい単位のネットワーク、地域の価値の連鎖が新たな社会基盤となるような挑戦に期待したい。

さて、上記ワークショップ開催の前日、お隣の山梨県、南アルプス市は中部横断自動車道の南アルプスインターチェンジ付近の整備用地にコストコホールセールジャパンが進出すると発表した。出店時期は2024年、店舗面積1万5000㎡、850台分の駐車場を擁する「コストコ南アルプス倉庫店」(仮称)の想定商圏は、県内はもとより長野県、静岡県におよぶ。世界で800店を越える会員制倉庫型チェーンを展開するコストコはグローバル化と効率追求型店舗の象徴であり、雇用創出や広域集客力に対する地元の期待は大きい。当然、八ヶ岳山麗エリアもターゲットだ。

事業のスケールにおいて地産地消型の小さな経済単位など敵ではあるまい。しかし、競争要件は規模と効率性だけでない。社会の持続可能性が問われる中、寡占、集中、画一化のリスクは高まる。「パパラギは行く先々で大いなる心がつくったものを壊してしまう。だから物をたくさんつくる。たくさんの物がなければ暮らしてゆけないのは貧しいからだ」、“パパラギ” とは白人、“大いなる心がつくったもの” は地球環境だ。これは1920年、ドイツの芸術家エーリッヒ・ショイルマンが “はじめて欧州文明を見たサモアの酋長” の名を借りて書いた一節である(「パパラギ」、岡崎 照男訳、立風書房より)。原書の初版から1世紀、今、未来の問い直しが始まりつつある。

2022 / 07 / 01
今週の“ひらめき”視点
米、ウイグル関連製品の輸入を禁止。企業は人権に対する行動指針が求められる

米国は「ウイグル強制労働防止法に基づく輸入禁止措置」の運用を開始した。6月21日以降、この地域で生産された製品はすべて強制労働に関与しているとみなされ、米国への輸入は認められなくなる。また、第3国経由であっても同地域で生産された材料や部品が使われた製品はすべて差し止められるとされ、アパレル、綿・綿製品、ポリシリコンを含むシリカ系製品、トマトおよびその関連製品が法律適用の優先分野として名指しされた。

もちろん、例外もある。それは「強制労働に関与していない説得力のある証拠」を輸入者自身が提示した場合である。しかし、そもそも “強制労働など一切存在しない” と反論する中国国内で、米当局が納得する証拠を民間事業者が収集することなど不可能である。実際、2021年、ユニクロ製品の一部が差し止められたファーストリテイリングの反論は「強制労働と無関係であることを立証できていない」と退けられている。今後の運用手続きについては不明な点も多い。しかし、これまでより基準が緩められることはないだろう。トレーサビリティの強化、サプライチェーンの再構築など、関連企業は対米市場戦略の修正を迫られる。

人権に対する取り組み状況の開示を個別企業に求める動きは欧米が先行する。一方、「遅れている」とされてきた日本も、今夏の発表を目指して企業による人権侵害の防止に向けた指針を準備中だ。経済産業省の検討会がこの4月に発表した「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン骨子案」がベースとなる。対象となる人権の範囲を、強制的な労働や児童労働に服さない自由、居住移転の自由、結社の自由、団体交渉権などであると例示し、サプライチェーン全体における人権侵害の把握と改善への取り組みを促す。

とは言え、今、世界で、個人の権利を取り巻く状況は不安定さを増している。グローバリゼーションによる歪みを背景に強権的な体制への志向が強まる。途上国だけではない。民主主義体制下にあっても反知性主義、権威主義的な声が強まる。地政学上の対立がそれに輪をかける。異なる立場それぞれの「正義」、「事情」、「利害」が複雑に対立する中、人権の定義、範囲、重みに対するギャップも拡大する。であれば、いや、であればこそ企業は自社の理念と価値観を社内外に表明し、自身の行動基準に添って活動すべきである。つまり、そういうことだ。

2022 / 06 / 17
今週の“ひらめき”視点
電力需給ひっ迫、自立分散型ネットワークの構築を急げ

今夏、政府は7年ぶりに企業と家庭に対して節電を要請する。経済産業省の電力需給見通しによると「東北・東京・中部の3エリアにおける電力供給の予備率が3.1%まで低下する」とのことである。安定供給に必要な予備率は3%である。供給はまさに綱渡りだ。エネルギーの安定供給は国民生活、企業活動、そして、安全保障の根幹であり、したがって、需給見通しどおりであれば節電の要請は止むを得ないだろう。しかしながら、毎年のように懸念される電力需給の問題に対して、はたして出来得るすべての対策が講じられてきたであろうか。

東日本大震災直後の2011年7月、国土交通省国土審議会は特定地域の電力不足に備えるためには「電力会社の管轄エリアを越えた地域間での電力融通が重要であり、送電線の容量拡大と周波数変換所の増強が必要」、「遠隔地からのエネルギー供給のリスクを低減するためには自立分散型エネルギーシステムが有効、この実現に向けて各分野を横断する一体的な取り組みが求められる」と提言した。つまり、既存事業者の裁量を越えた取り組みを急げ、ということである。

その日から11年目の6月7日、政府の電力需給に関する検討会は「2022年度の電力需給の総合対策」を発表、電力不足に対する構造的な対策の中に “分散型電源の活用を支援”、“地域間連系線の更なる増強を検討する” と書き込んだ。いや、その通りである。このソリューションに世論の二分はないはずだ。しかし、あれから11年、未だに “検討” なのか。「あの時の提言を、党派を越えた国策として実行した。それゆえに今年の厳しい状況も乗り切ることが出来る」、そんな発表が聞きたかった。

今、世界の新たな分断が、効率最優先のサプライチェーンと巨大システムに一元的に依存した社会のリスクを高める。時代のニーズは集中から分散へ、寡占からネットワークへ、である。
弊社も「カーボンニュートラルビジネス研究所」を立ち上げ、脱炭素と自立分散型経済を先取りした事業開発支援を行っているが、この夏、八ヶ岳山麗エリアを舞台に新たな経済循環モデルづくりをスタートさせる。7月5日、キックオフイベントを兼ねたワークショップを “ワークラボ八ヶ岳”(茅野市)にて開催する。会場受付にて「ひらめき視点を読んだ」と言っていただければ参加費は筆者が持ちます! リラックスした雰囲気の中で分散型経済の未来について意見交換が出来ればと思います。ご来場、お待ちしております。

※「ココラデプロジェクト」スタート、お弁当を食べながらカーボンニュートラルを考える「ココラデ ランチ講座~気候変動と食と私と地域」7/5開催のお知らせ

2022 / 06 / 10
今週の“ひらめき”視点
中学校の部活動、地域へ移行。公教育の維持に向けて制度全体の再設計が必要だ

6月6日、スポーツ庁の有識者会議「運動部活動の地域移行に関する検討会議」は、公立中学校における休日の部活動を地域の民間スポーツ団体等へ移管することを骨子とする提言をまとめた。想定される移行パターンは、地域のスポーツクラブへ移行する、外部指導者に指導を委託する、教員が「兼職兼業」として報酬を得たうえで指導する、の3つとし、2025年度までに全国の公立中学校で実現することを目標とする。まずは休日の移管が対象となるが、平日の移行も奨励される。学校をスポーツ振興の拠点と位置付けてきた体育教育からの大きな転換である。

背景には少子化による生徒数の減少、学校の統廃合がある。今、地方はもちろん都市部であっても部活動の維持は困難であるという。しかし、地域への移行はこれ以外の効用も大きい。多様なスポーツ体験や地域の多世代との交流は子供たちにとって有益だ。また、提言では指導法やハラスメント禁止など専門知識をもった指導者育成の必要性も示された。勝利至上主義のもと看過されてきた人権侵害の根絶は大いに歓迎したい。そして、何よりも最大のメリットは教師の長時間サービス残業からの解放である。現場の “献身” に支えられてきた部活動がようやく正常化に向かうということだ。

そもそも教師は足りていない。文部科学省の調査によると2021年4月の始業日時点、全国の公立小中高校と特別支援学校において、正規教員の定員を臨時教員で補えていない “教員不足” は2558人に達する。絶対数の不足はもちろんであるが、問題は最長1年契約という非正規の臨時教員の多さである。2020年度で教員定数の7.5%に達する。この背景には教員採用の裁量が国から自治体に移管されたことに伴い、人件費における自治体の財政負担が増したことがある。要するに非正規が財政上の調整弁となっているということだ。

標高4800m、ブータンの秘境ルナナに赴任した若い教師と村の子供たちの交流を描いた映画「ブータン 山の教室」(2019年、パオ・チョニン・ドルジ監督)の一場面、教師が子供たちに将来の夢を問う。ある子の答えはこうだ。「ぼくは先生になりたい。先生は未来に触れることが出来るから」。7日、岸田政権が閣議決定した「骨太の方針」は “人への投資” を掲げた。高度人材への投資は急務である。一方、国全体の教育水準の向上も持続的成長の実現に必須である。部活動の地域移行も最終的には費用負担の問題となるだろう。教員採用すらおぼつかない自治体に公的補助の余力は乏しい。国の未来を担うのは子供たちだ。であれば、公教育に対して国はどうコミットするのか、明確なビジョンと責任を打ち出す必要がある。

2022 / 06 / 03
今週の“ひらめき”視点
新しい資本主義、ぼやける。内需の持続的成長に向けての覚悟が欲しい

5月31日、政府は8回目となる「新しい資本主義実現会議」を開催、「市場だけでは解決できない外部性の大きい社会課題をエネルギー源と捉え、官民が課題解決に向けた投資と改革を実行、成長と分配の好循環をはかる」との方針を表明した。しかし、発表された実行計画案は、各方面への目配りが効いた従来型の“総花的”なものであり、「新しい資本主義」の到来を予感させる政治的覚悟は見えてこない。

昨年の総裁選、岸田氏は「新自由主義的政策からの転換」を掲げ、分配重視の政策を訴えた。首相就任前後の会見等で語られた「令和版所得倍増」や「金融所得課税」という言葉に前々政権から続く政策の行き詰まりの打破や中間層の再生に期待を寄せる声も多かったはずだ。しかしながら、発表された計画案を見る限り少なくとも当時の公約からの「後退」感は否めない。

“所得”倍増は “資産所得”倍増に置き換わった。この30年間、多くの国民の収入は頭打ち状態だ。社会保険、税負担率の上昇、加えて、物価高だ。新たに投資商品を購入する余裕はない。優先順位は逆である。もちろん、分配には原資が必要であり、成長の実現は必須である。科学技術・イノベーション力の強化、人材育成、地方活性化、カーボンニュートラルへの投資など、個々の施策の中身に議論の余地は残るものの目指すべき方向に異論はない。

問題は「その先」だ。成長の恩恵が株高、配当、内部留保に偏重するのであれば、量的緩和が現出した好景気が賃金に還元されなかったこれまでと変わらない。内需の自立的回復は見込めないだろう。“倍増” の対象が所得から資産に転じた狙いが、「上場投資信託の残高が時価50兆円を越えるまでに膨張し、身動きがとれなくなった日銀に代わって国民の預貯金で株価を支えるため」であるならまさに本末転倒だ。岸田氏は実行計画案の発表に際して「マルチステークホルダー型の企業社会の実現を推進したい」との考えも述べた。それが氏の本意であるとすれば、投資家、取引先、従業員、地域社会に対する貢献をどうバランスさせるか、ここに対する大胆な政策表明が待たれる。