人手不足と働き方改革、もう一段のコスト増に向き合う中小企業


13日、内閣府は2012年12月から始まった景気拡大が高度成長期の「いざなぎ」を越え、戦後2番目の長さになったと発表した。しかし、中小企業の経営に余裕はない。要因の一つが人手不足だ。外食、小売、介護はもちろん製造業でも深刻さは増す。商工中金が実施した調査(※1)によると中小製造業の64.2%が人手不足の状況にあるという。省力化・省人化、待遇改善など手は打ってきた。それでも問題が解消しないのは対策が十分でないということであり、換言すれば、投資を継続する原資に限界があるということだ。同じ商工中金の調査によると、コストの上昇を価格に転嫁できた企業はわずか11.5%に止まる。メディアは経団連発表のボーナス額を好景気の証として報じた。しかし、夏季賞与で比較すると経団連調査の平均が953千円(前年比+8.6%)であるのに対して、厚生省データによる全産業平均は384千円(同+4.7%)、従業員5人から29人の企業は264千円(同▲0.9%)に止まる。経費増が売上増につながらない中小企業の現実が数字として表れる。
※1.「中小企業の人手不足に対する意識調査」(2018年7月、株式会社商工組合中央金庫)より

中小企業にとってもう一つの懸念材料は「働き方改革法」である。もちろん、残業の上限規制や有給休暇の取得義務は労働環境改善に向けての取組みとして肯定的に受け止めるべきだ。しかし、来年4月の実施を控え「取引における一方の側の改革が、もう一方の側に負担を強いる」ことが差し迫ったリスクとして懸念される。公正取引委員会も「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当行為」について注意を喚起しているが、下請法違反の指導件数が一向に減らない現状を鑑みると心もとない。加えて、中小企業自身も法令への対応が要請されるわけであり、経営負担のもう一段のアップは避けられない。

今、世界では“持続可能な社会づくり”という観点から、「サプライチェーン全体の環境対策や労働環境に対して大企業は一定の責任を果たすべき」という考え方が広まりつつある。重要な視点であり、賛同する。しかし、間接取引先を含むすべての取引先の責任を担うことになれば、当然ながら大企業は自身が引き受けるコストやリスクの低減をはかるだろう。つまり、より規制がゆるく、より賃金水準が低い地域に拠点を移すはずだ。残念ながらこれは如何ともし難い。いずれにせよまず取り組むべきは、下請け事業者に対する買い叩き、支払い遅延、不当な減額、極端な短納期、発注内容の一方的な変更、協賛金や役務提供の強制を全廃することであり、相手方の付加価値を公正に認め、適正な対価を支払うことである。そうあってはじめて“働き方改革”を実現するための条件が、取引における双方の側に整う。

今週の”ひらめき”視点 12.16 – 12.20

代表取締役社長 水越 孝

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