今週の"ひらめき"視点

相次ぐ豪雨災害、気候変動をどう受けとめるか、キーワードはレジリエンス

7月、日本列島は月初に九州、中部、月末には東北地方と、記録的な豪雨災害に見舞われた。とりわけ、3日から4日にかけて九州南部を襲った「これまでに経験したことのない猛烈な雨」は球磨川流域をはじめ各地に広範かつ甚大な被害をもたらした。
「数十年に一度の」、「50年に一度の」と形容される “大雨特別警報” が導入されたのは2013年8月、以降7年間で、33都道府県に計16回発令された。もはや「数十年に一度」という警告の効力は失われつつある。「次々に発生する線状降水帯」という専門用語も聞き慣れた。

温暖化は確実に進行している。昨年末から2月にかけて日本は全国的に高温だった。平均気温+1.66度は統計開始以降の最高値である。6月も暑かった。全国153の気象台、測候所のうち50地点で過去最高またはタイ記録となった。シベリアのサハ共和国でも38度を記録、これは平年を18度上回る、北極圏における過去最高気温である。
ヨーロッパ西部から北西アフリカにかけて、北米・中米・南米も高温に覆われた。中国、長江流域では7月だけで6回もの豪雨があり、上流域で相次いで洪水が発生した。8月に入ってからは朝鮮半島中部地方でも豪雨が続く。

頑強なダムや堤防も設計基準を越えた水位や流量には耐えられない。経験値を越えた自然災害が多発する中、どこまで備えればよいのか。どこまでコストをかけるべきか。完璧な防災の実現が困難であるとすれば、発想の転換も有効だ。力に力で対抗する従来型の防災に加えて、いかに受け流すか、つまり、減災という視点でリスクを見直す必要があろう。
ヒントは甲州武田氏の “信玄堤”、これは川に平行した一続きの堤防ではなく、ところどころ上流外側に向けて開口部を持つ霞堤である。氾濫水位を越えるとそこから水を逃がし、氾濫が収まると川へ排水される。川中には水の勢いを抑えるために “聖牛” と呼ばれる工作物を置いた。これも一定以上の水流があると自壊し、堤への負担を軽減する仕掛けになっている。無理に抵抗しない、これが信玄堤の真骨頂である。

緑地や農地、遊水地など自然が持っている保水、貯水力を減災に活用する手法は “グリーンインフラ” と呼ばれる。自然の脅威を完全に封じることが出来ないのであれば、脅威との “共生” を地域全体で探るしかない。
球磨川の氾濫で大きな被害があった人吉市、筆者は以前同市の産業政策づくりに関与する機会をいただいたことがある。ご担当者によると地域の未来を担うべく整備した人吉中核工業用地は「災害搬出ゴミの仮置き場となった。復興には3-5年を要する」とのこと、言葉もない。1日も早い復興を祈念するとともに、球磨川を抱いた豊かで安全な町づくりを応援したい。


今週の“ひらめき”視点 8.2 – 8.6
代表取締役社長 水越 孝