今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2024 / 04 / 26
今週の“ひらめき”視点
消滅可能性自治体、減少? “奪い合い” を越えた国土の未来を

4月24日、日本製鉄の三村明夫名誉会長が議長を務める人口戦略会議は「全国1729自治体の4割、744自治体が消滅の危機にある」との報告書を発表、人口減少問題にあらためて警鐘を鳴らした。同会議は2020年から2050年までの30年間でこどもを生む中心年齢である20~39歳の女性が半数以下となる自治体を “消滅可能性自治体” と定義、最新の “地域別将来人口推計”(国立社会保障・人口問題研究所)をもとに自治体ごとの消滅可能性を算出した。

10年前の2014年、人口戦略会議の副議長でもある増田寛也氏が座長を務めた日本創生会議は「全自治体の5割、896自治体に消滅可能性がある」とした。一方、今回の “更新版” では239自治体の “消滅可能性” が消滅した。自治体存続に向けての行政施策や地域の地道な取り組みに一定の成果があったことが伺われる。しかしながら、福島第一原発事故の影響が残る福島の33自治体をはじめ99自治体が新たに消滅可能性自治体に認定されており、「少子化基調は変わっていない」というのが報告書の本意である。

実際、総人口の減少は予想を越えるスピードで進行している。2023年の年間出生数は75万8631人と8年連続で過去最低を更新、婚姻数も48万9281組と戦後はじめて50万組を割り込んだ(厚生労働省)。国立社会保障・人口問題研究所の昨年4月時点における予測では “2023年の出生数は76万2000人、その後、緩やかに減少しつつも76万人割れは2035年” とされた。そう、わずか1年で「12年早まった」ということだ。すなわち、“消滅可能性自治体の減少” が意味するところは、人口の移動、言い換えれば、限られたパイの奪い合いということになる。

人口減少は内需の縮小に直結する。加えて、既に顕在化しつつある社会の歪みを加速させる。2018年時点で長期放置された空き家は349万戸(住宅・土地統計調査、総務省)、このペースで増えれば2040年には倍増する。買物困難地域の拡大は食品アクセスにおける物理的な困難者を急増させるだろう。公共インフラなどユニバーサルサービスの品質劣化も心配だ。就業、教育、文化における地域格差も深刻化する。要するにすべての国民に保証されるべき “健康で文化的な最低限度の生活”(憲法25条)が脅かされる。人口戦略会議は “2100年に8000万人で人口を定常化させる” ことを提言する。それをどう実現するか、その時、社会はどうあるべきか、一人ひとりが自分事として考えるとともに社会全体として備える必要がある。

2024 / 04 / 19
今週の“ひらめき”視点
インバウンド活況、業界は内需拡大に向けた構造改革に手を抜くな

3月、単月の訪日外国人旅行者がはじめて300万人を越えた。前年同月比で69.5%増、コロナ前の2019年3月比で11.6%増、インバウンドは完全にコロナ前の勢いを取り戻した。歴史的水準にある円安に加えて「春の桜シーズンにイースター休暇が重なった」(JNTO)ことが要因である。国別にみると上位国の顔ぶれはコロナ前と変わらない。トップグループは韓中台、これに米、香港、タイと続く。ただし、コロナ前トップであった中国は2019年比34.6%減、3位へ転落、代わって1位に韓国、2位に台湾が浮上した。

インバウンドは国内の流通、サービス業の需要を押し上げる。2月、百貨店売上のインバウンド構成比は全売上の1割を越えた。2019年比でも47.5%増を記録、8ヶ月連続でコロナ前を上回った(日本百貨店協会)。宿泊業界も活況だ。インバウンド向け外資系ホテルの進出ラッシュが続く中、宿泊単価が急上昇、平均単価は2~3割、立地のよい地域では5割以上のアップも珍しくない。当社でも社員からの “悲鳴” を受けて23区内で1.5倍、大阪地区で1.4倍強に出張宿泊費を引き上げた。

一方、日本人の出国者数は依然としてコロナ前の水準を回復出来ていない。3月の出国者数は122万人、前年比76%増と拡大基調にあるとは言え、2019年比では36.8%減である。国際線の便数はコロナ前の9%減まで回復してきたが(JNTO)、実需がついて来ない。国内旅行も盛り上がりを欠く。JTBの見通しによると今年のゴールデンウイーク(GW)期間中の旅行者数は2280万人、前年比100.9%、とのことである。昨年のGWが新型コロナの感染症区分の変更前であることを鑑みると、その反動を織り込んでも前年並みということだ。

インバウントの拡大は歓迎だ。とは言え、消費の土台は内需である。観光業界そして観光地は、今こそ観光資源の見直し、人材の育成、インフラの整備など長期的な視点に立った地域づくりを構想していただきたい。“おもてなしは無償ではない” ことを前提とした収益構造改革がその第一歩である。百貨店も同様だ。円安に支えられたインバウンド需要はまさにボーナスであって、それが1割を越えたことは本来喜ぶべきことではあるまい。インバウンド比率の上昇が内需低調の裏返しとならないよう業態そのものの構造改革に取り組み続けていただきたい。

2024 / 04 / 12
今週の“ひらめき”視点
2024年問題、現実に。輸送効率の向上とネットワークの維持を!

「何も対策を講じなければ2024年度の輸送力は14%不足する」とされてきた “2024年問題” が始まって10日が経過した。共同配送、モーダルシフト、リレー運送、宅配便の再配達対策など、物流各社や荷主企業による “対策” が順次発動されつつある。ブルボン、亀田製菓など新潟県内の菓子メーカー6社は「生産地共配」、ファミリーマートとローソンは東北地区で共同配送を、北越コーポレーションは古紙輸送をトラックから鉄道へ切り替える。宅急便各社は「置き配」制度の本格導入を発表、航空各社も貨物輸送の強化に向かう。

4月8日には一般ドライバーが有償で乗客を運ぶ日本版ライドシェアも始まった。地域は東京、神奈川、愛知、京都の特定範囲に限定、運行台数や運行時間帯も地域ごとに指定される。加えて、運行管理をタクシー会社が担う点が海外で一般的なプラットフォーマー型ビジネスモデルと異なる。ここが “日本版” と形容される由縁だ。規制緩和に対する既存業界からの反発は強く、現時点ではドライバー不足解消の決定打とは言い難い。とは言え、課題解決に向けて実証実験が始まったという意味において前進だ。

一方、需要そのものが縮小する中で対応を迫られる路線バス事業者の戦略オプションは限られる。大阪の富田林市で路線バスを運行する金剛自動車は不採算とドライバー不足を理由に昨年末に全路線を廃止した。九州の西鉄バスも全路線の3割で減便を実施、都内や埼玉県で路線バスを運行する国際興業も路線の減便や終バス発車時刻の繰り上げを余儀なくされた。運転手不足、利便性低下、更なる需要減という負のスパイラルが危惧される。

そもそも時間外労働の上限規制がこれほど重大な “問題” として顕在化した要因は、低賃金と過重労働が常態化した運輸業界に社会全体が支えられてきたことによる。トラックドライバーの労働時間は212時間、全産業平均は177時間、バス運転手の年間所得は399万円、全産業平均は497万円だ(2022年、「令和5年版交通政策白書」より)。政府は適正な価格転嫁、商慣行の見直し、DXによる生産性向上、荷主・消費者の行動変容、そして、構造改革を促す。競争条件の変化は新たなビジネスチャンスであり、活性化の起点となり得る。問題はその有効性が及ばない公共交通そして地方であり、ネットワークの空白地帯を作らないためにもこの視点からの問い直しが急務である。

2024 / 04 / 05
今週の“ひらめき”視点
子ども・子育て支援、議論すべき本質は政策の中身と費用対効果である

4月2日、内閣府は第3回経済財政諮問会議の会議資料「中長期的に持続可能な経済社会の検討に向けて②」を公表した。資料は2030年代における生産年齢人口の急速な減少を「国難」と位置付けたうえで、これを克服するためのシナリオを定量的に試算、人口動態の構造変化を乗り越え、財政と社会保障の長期安定性を確保するためには2060年度までの実質成長率を平均で1%以上に引き上げる必要がある、と結論づけた。

試算は、「生産性の向上」、「労働参加の拡大」、「出生率の上昇」を試算条件として3つのシナリオを想定、2025年度から2060年度までの平均実質成長率を、①現状投影シナリオの場合は0.2%程度、②長期安定シナリオで1.2%程度、③成長実現シナリオで1.7%、と予測した。2025年度から2060年度まで、①のケースで推移すると2060年度の一人当たり実質GDPは先進国で最低レベル、②の場合でドイツ並み、③を実現できればアメリカや北欧諸国と肩を並べる。

上記3つの試算条件のうち「生産性の向上」はテクノロジーの進歩とその社会実装が鍵である。本気で取り組めば不可能ではない。2045年までに “5歳の若返り” を目指す「労働参加の拡大」も今の50代が74歳まで健康でポジティブに働き続けられる環境が整えばなんとかなる。問題は「出生率の上昇」である。想定された数値は現状投影シナリオでも1.36、長期安定シナリオでは1.64、成長実現シナリオは1.8だ。翻って2023年の出生数は75万8631人、対前年比▲5.1%の大幅減少となった。したがって、2023年の出生率は過去最低となった2022年の1.26を下回ることが確実だ(発表は6月上旬)。シナリオ実現のハードルは高い。

さて、その出生率であるが、今まさに「子ども・子育て支援法等改正案」が国会審議中だ。議論の焦点は “実質的な負担は生じない” とする政府見解である。しかし、問われるべきは政策の重要性であり、施策の妥当性であって、政府はその対価すなわち負担の議論から逃げるべきではない。一方、この問題は “手当” や “給付” だけでは解決しない。婚姻率の低下こそ問題だ。ジェンダーギャップの排除、若い世代の将来に対する不安の解消は必須である。負担軽減のために社会保障をカットする、ゆえに未来は安心だ、とはならない。出生率の向上には集中的かつ総合的な取り組みが不可欠である。議論すべきは、負担の有り無し、ではなく政策の中身、負担の在り方、そして、費用対効果である。

2024 / 03 / 29
今週の“ひらめき”視点
日産、新経営計画を発表。“最適化”を越えた次元に新たな革新を!

3月25日、日産自動車は2023年度を最終年度とする「Nissan NEXT」と長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」との “架け橋” となる経営計画「The Arc」を発表した。地域ごとの販売台数、EV化率、新車投入、コスト削減等について数値目標を示したうえで、2026年度までに今年度比100万台の販売増、営業利益率6%以上、株主還元率30%以上を達成し、2030年度を目途にモビリティサービス等の新規事業で2.5兆円規模の市場創出を目指す。

「The Arc」で強調されたのは価格競争力の向上とパワートレイン×車種構成の最適化による販売増である。2026年度末までに16車種のEVを含む30車種を新型車に置き換え、2030年度内にEVコストを3割削減する。販売計画と車種構成は各地域市場ごとに提示されている。しかし、資料を見る限り、やや独りよがりの感は否めない。それぞれの市場における「勝ち方」が見えてこないし、「2025年から開始し、10万台を目指す」とする中国からの輸出も「一体、どこへ?」との疑問が残る。

もちろん、市場ごとに別途きめ細かな施策が準備されているはずであろうが、「量より価値」、「選択と集中」を謳っているわりには総花的で、あえて言えばつとめてこれまで通りの “ニッサン” らしいバランス重視のアプローチである。「The Arc」の発表に先立って日産自動車は本田技研工業と電動化と知能化領域における提携を発表した。とは言え、具体化はこれからだ。会見で日産自動車の内田社長は「戦う相手は自動車メーカーだけでない」と危機感を語ったが、であればパートナーは自動車メーカーでよかったのか。

そのホンダは2040年までにエンジン車から撤退、EVとFCVに特化すると宣言済だ。昨年10月にはソニーとの共同出資会社「ソニー・ホンダモビリティ(株)」が新型EV「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプを発表、2026年春の北米でのデリバリーを目指す。グローバル通信プラットフォームのパートナーはKDDIだ。ホンダ本体からはプラグイン機能を搭載し、水素無しでも走行できる新型FCVの市場投入も決定している。もちろん、ホンダはホンダだ。しかしながら、現状の延長線上に描き出された「最適化」に筆者は緩やかな後退を感じざるを得ない。“架け橋” ではなく、2030年のその先の未来を先取りする! そんなニッサンに期待したい。

2024 / 03 / 22
今週の“ひらめき”視点
日銀、異次元緩和の終了を宣言。本物の成長に向けて再スタート!

3月19日、日銀はマイナス金利政策の解除を決定、政策金利をマイナス0.1%から0.1%に引き上げた。同時に長短金利操作(YCC)を撤廃、上場投資信託(ETF)などリスク資産の買入終了を発表した。2013年、「2年間で2%の物価上昇」を目標に黒田前総裁のもとで始まった異次元緩和は結果的に当初目標を果たすことなく終了した。発行残高の5割を抱える国債、膨れ上がった上場投資信託(ETF)の扱いなど後遺症は残るが、日本経済は金利のある正常な金融環境の中で再スタートすることとなる。

昨年(2023年)4月、黒田氏を引き継いだ植田総裁にとって、大規模緩和の解除は最大の課題であったが、長期金利の上限引き上げで政策転換への流れを作ると同時に、徹底して「金融緩和の環境を維持する」旨のメッセージを市場に発信し続けた。こうした周到な地ならしをもって “17年ぶり” に実施された利上げは、経済界はもちろん、政界からも異論はなく、また、市場関係者からも “想定の範囲内” として静かに受け入れられた。利上げにも関わらず円安に振れた為替相場がサプライズなき政策判断の証だ。

会見で植田氏は「金利の急騰を防ぐべく一定規模の国債買入は継続する」と政策の連続性をあらためて示しつつ、「大規模緩和はその役割を終えた。今後は短期金利を主たる政策手段とする」と従来政策の終焉を宣言した。市場と対話しつつ金融政策を模索する植田氏のスタンスゆえに、当面は住宅ローンをはじめとする家計や企業活動への影響はミニマムであろう。しかし、金利のある世界への回帰は、低金利と停滞に安住してきた社会にとって大きな転換点となる。

異次元緩和はかけ声の勇ましさもあって一時的な景気浮揚感をもたらした。その功罪に関する検証は不可欠である。ただ、少なくとも “金利のない世界” という日常が財政規律の緩みと企業や事業の新陳代謝を遅らせたことは確かである。この間、構造改革に踏み出せなかった多くの企業が延命する一方、潤沢に供給されたはずのマネーは投資に回らず、少なからぬ企業で内部留保が膨れ上がった。賃上げの契機となった物価高も “円安” という外圧による。今、私たちは新たなスタートラインに立った。リスクをとって投資を回収する、という当り前の行動原理をもって停滞に甘んじ続けた体質からの脱却を急ぎたい。