今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2026 / 09 / 11
今週の“ひらめき”視点
新宿区、民泊規制強化。需要構造変化を見据え、地域と共生への道を

9月8日、新宿区の吉住区長は、民泊営業の規制を強化する改正条例案を来年の定例区議会に提出する旨、発表した。具体的には営業日数の上限を年間180日から120日に引き下げるとともに住宅地および学校周辺における民泊の営業を禁止する。騒音やごみ問題など住環境の悪化が背景にある。この7月、観光庁は自治体判断による民泊営業の規制強化を容認する通知を出しており、同様の問題が顕在化している少なからぬ自治体が新宿に追随する可能性がある。

所謂“民宿”ではなく、“民泊”と位置付けられるビジネスモデルは2007年創業の米スタートアップ“Airbnb”のオンライン仲介プラットフォームに始まる。日本では国策としてのインバウンド拡大戦略と規制緩和の流れの中で国家戦略特区法改正(2016年)、民泊新法(2018年)を整備、空き家・空き室の有効活用ニーズとも相まって急速に拡大した。当初から住環境への影響は懸念された。しかし、急増する宿泊需要への対応と新市場育成の視点から利用者側の利便性、快適性の確保が優先された。

深刻化する住環境問題に加え、需要構造も変わった。日本人の利用者が急増し、コロナ前の2019年4-5月期の90,089人から2026年4-5月期には2.6倍の235,591人へ、利用率も26.9%から37.6%へ拡大した。円安を背景にインバウンド市場も変わりつつある。メインターゲットは富裕層、IHG、ハイアット、ヒルトン、マリオットなど外資系ホテルグループのラグジュアリーブランドの開業ラッシュが続く。リピーターの増加は観光目的も変えつつある。東京~富士山~京都~大阪といった“ゴールデンルート”から地方へと広がり、体験型・参加型のコト消費へのニーズが高まる。

2026年7月15日時点で稼働中の民泊は全国で42,070件、うち東京23区が40%を占め、これに札幌、名古屋、京都、大阪を加えると58%が都市部に集中する。全国的には前年比125%と拡大基調にあるが、一方、廃業率は全国平均で36%、とりわけ都市部で高く、東京23区と地方・郊外の主要自治体(保健所設置市)を合わせた対象地域の廃業率は44%に達する。今、民泊市場は大きな転換期にある。まずは供給サイドの意識改革が必要だ。宿泊サービス業は単なる“遊休不動産の利活用ビジネス”ではない。宿泊事業者としての経営ビジョン、マーケティング戦略、ガバナンスを確立することが健全かつ持続的な成長への条件である。

※民泊に関するデータは“民泊制度ポータルサイト”(国土交通省)より

2026 / 09 / 04
今週の“ひらめき”視点
2025年の出生率、過去最低。人口減少を前提とした国土の再構築を

8月28日、厚生労働省は人口動態統計速報を発表、2026年1-6月期の出生数は342,068人、前年同期比+0.8%、上半期としては11年ぶりに前年を上回った。出生率はコロナ禍による婚姻数減の影響を受けて2022年から2024年にかけて前年比▲5%台の減少が続いてきたが、2025年は▲2.2%と下げ止まった。2024年以降、婚姻数が持ち直したことが背景にある。

とは言え、出生率1.14は過去最低、前年比マイナスは10年連続だ。2023年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来推計人口の中位推計は2025年の出生率を1.25に置いていた。悲観シナリオとされた低位推計は1.10、現実はむしろこちらに近く、出生数の減少トレンドは中位推計に対して15年程度先行している。出生数と死亡数の差である自然増減は19年連続でマイナス、2025年は2年連続で▲90万人を超えた。人口減少に歯止めはかかっていない。

こども家庭庁はこの5月から8月にかけて15歳から39歳までの男女を対象に「若者10万人の総合調査」を実施、8月31日、その途中経過を公表した。設問は生活満足度や社会参画意識など広範に及ぶが、結婚に関する集計結果には驚かされた。未婚者のうち「結婚するつもりはない」との回答者は35.1%に達する。“収入への不安”や“自由時間の減少”が結婚に対するハードルの上位にあがるが、そもそも「結婚したいと思わない」との回答がそれらを上回り、「結婚するつもりはない」人の53.1%、未婚者全体の18.6%に達している。既に若者人口が減っている現状にあってこれでは出生率は上がるまい。

2021年、国土交通省は「国土の長期展望」の最終とりまとめを発表、2050年には居住地域の約5割が少子高齢化地域となり、全市区町村の約3割が人口半数未満となること、全人口の7割が災害リスクの高い地域に居住していることを前提とし、「コンパクト+ネットワーク」による持続可能な地域づくりの必要性を訴える。人口減少を所与の条件と受け止め、そのうえで地域の豊かさを実現する必要があるということだ。首都の優位性、東京の経済力、TOKYOの先進性の取り込み競争(副首都構想)では解決しない。優先すべきは“多様な豊かさ、多彩な個性をもった新たな地域生活圏の形成”と“自然災害と人口減少に応じた国土の適正管理”である。

※出生率(合計特殊出生率)とは、1年間における15歳から49歳までの女性の各年齢別の出生率を合計した数値で一人の女性が一生に産む子どもの数の平均値。人口を維持するためには2.07が必要となる。

2026 / 08 / 28
今週の“ひらめき”視点
8月29日は文化財保護法記念日、クールジャパン機構の蹉跌に思う

2013年、第2次安倍政権のもとでスタートした海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)がいよいよ存続の岐路にある。2026年3月末時点における累積投資額は1,588億円、EXIT済案件の損失55億円(投資額599億円)、投資中案件の減損計上258億円(投資額989億円)、これにファンドの運営経費を加えた累積損失は540億円、2022年に策定した“最低達成すべき投資計画”(累積損失426億円)は未達、政府は令和9年度の財政投融資要求を行わない方針を固めた。

失敗の要因は複合的でありクールジャパン機構の蹉跌に今更驚きはない。所管官庁である経産省はあたかもこれを見越したかのごとく2024年には“エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会”を新たに立ち上げ、昨年6月には「コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた5ヵ年アクションプラン」を策定、8月20日、“クールジャパン機構、廃止へ”との報道が流れる中、「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」を発表した。

政策目標は「2033年に海外売上高20兆円」を達成する、そのために官民の叡智を結集、予算執行の一元化をはかり、大規模・長期・戦略的な官民投資を実現する。また、事業の執行に際しては「不断に政策の効果検証を継続するとともに、責任を持って成果が出るまでやり抜く」との覚悟も表明、クールジャパン機構“敗戦”へのリベンジの色合いも滲む。IP(知財)の価値を最大化、民間の売上3倍・投資3倍、分野やバリューチェーンを横断した予算配分の全体最適化、高付加価値な海外需要の取り込み、クリエイターへの対価還元、、、散りばめられた威勢の良いポジティブワードそれ自体に異論はない。

とは言え、映画監督の是枝裕和氏が指摘したとおり※1、そもそも創作の動機はビジネスとしての「勝ち筋」だけではないし、世界的にも見劣りする文化・芸術関連予算とのバランスの悪さは否めない。政府予算に占める文化支出額の比率は0.1%、フランスは同0.9%、韓国は同1.2%※2である。数字は2020年のものであるが趨勢は変わらない※3。文化財、芸術、芸能の保全、保護、継承のための財政基盤は極めて脆弱だ。経産省の言葉どおり“創造力で稼ぐ国”を目指すのであれば省庁の枠を越えた次元において“持続可能な文化のバリューチェーン”戦略こそが求められる。それにつけてもまずはクールジャパン機構の総括である。

※1:2026年4月2日、第2回コンテンツ産業官民協議会、資料10より
※2:令和2年度「文化行政調査研究」諸外国における文化政策等の比較調査研究事業より
※3:2026年度の文化支出(予算)は文化庁予算1,073億円に国際観光旅客税から文化庁に配分される224億円の計1,297億円、政府予算(一般会計)に対する文化支出の割合は0.1%

2026 / 08 / 21
今週の“ひらめき”視点
GDP4-6月期、3四半期連続のプラス。個人消費の底上げが課題

8月17日、内閣府は4-6月期の国内総生産(速報値)を発表した。実質成長率は前期比+0.3%、年率+1.1%、名目成長率は同+1.2%、年率+4.8%、金額換算では実質598兆円、名目688兆円となる。政府は「引き続き中東情勢の影響を注視する必要がある」と前置きしつつも、3四半期連続でのプラス成長について「景気は緩やかながら回復基調にある」との認識を示した。

ただ、内訳をみると必ずしも楽観できない。内需は▲0.2%、民間需要、公的需要いずれもマイナス、これを外需が補った。輸出から輸入を差し引いた外需は+0.5%、中東情勢の悪化に伴う原油輸入の減少と財貨・サービス輸出の伸びが外需を押し上げた。一方、民間最終消費支出(個人消費)は▲0.02%と冴えない。とりわけ、持ち家の帰属家賃を除いた家計最終消費支出は▲0.1%と低調だ。

この春、大手・中小ともに賃上げ率は高水準だった。実際、毎月勤労統計調査(6月速報)の現金給与総額は前年比+3.4%、家計調査でも勤労者世帯の実収入(二人以上世帯、6月分)は名目+3.9%、実質+2.0%となった。ところが、消費支出は名目▲1.5%、実質▲3.3%、実質ベースでの前年割れは7か月連続だ。物価高、社会保険料の増加、住宅ローン金利の上昇、“現役世代”の負担感は高まる。加えて、年金に依存する彼らの“親世代”の購買力もマクロ経済スライドにより実質的に目減りする。全世代で消費が「抑制的」になって然りである。

一方、日経平均株価は最高値を更新、公示地価は5年連続で上昇、経団連が集計した大企業の夏季賞与の平均妥結額は初めて100万円を超えた(従業員500人以上、22業種163社)。まさに好景気だ。では、低迷する個人消費は一体どこに? この夏、筆者はシティバンクのトップトレーダー“ギャリー”の壮絶な半生を回顧した「トレーディング・ゲーム」(ギャリー・スティーヴンソン著、千葉敏生訳、早川書房)を読んだ。そこにこんな一節がある。「平凡で勤勉なふつうの家庭の冨が、金持ちにわたる」「中流階級や政府が貧しくなるほど、金持ちは豊かになる」「答えは格差だ」「それは一時的なものでなく末期症状だ。経済の死だ。癌だ」。“ギャリー”はそこに賭け、大儲けする。

2026 / 08 / 07
今週の“ひらめき”視点
急成長するヒト型ロボット市場、世界は“進歩”の行方を制御できるか

三菱自動車工業と東京大学発スタートアップ企業「Highlanders」は、「人とロボットが共に働く新しい産業基盤の実現」に向けて基本合意書(MOU)を締結した(7月9日)。両社は三菱自の自社工場でヒューマノイドロボット(ヒト型ロボット)を活用、運用ノウハウとテクニカルデータを蓄積するとともに、三菱自の量産設計、生産管理技術を活用しHighlandersが開発するヒト型ロボットの量産化を目指す。

当社調査※によると2025年のヒト型ロボット世界市場はメーカー出荷ベースで16,580台、前年比647.9%、うち中国が84.8%と圧倒、欧州、米州が7.4%、5.9%とこれに続く。日本はわずかに0.5%だ。中国は当局による強力な財政支援のもといち早く量産技術を確立、既に200社を超える新興企業が参入、低価格製品による家庭用、個人向け市場も立ち上がりつつある。産業向け高スペック市場と民生用低価格市場を合わせた2035年の世界市場は718万台、この間の年平均成長率は83.5%、文字通り驚異的な成長が見込まれる。

労働力不足の解消、生産性の向上、危険業務からの解放を実現する自律型のヒト型ロボットの需要分野は製造業からサービス業に至るまで多岐にわたる。究極は軍事領域だ。今年2月、米国の新興企業「Foundation」はウクライナで物資輸送や偵察任務の実証実験を行った。同社は武装した二足歩行ロボットの実験にも意欲をみせる。ウクライナでは既にAIが敵を識別し、攻撃する自律型無人機が実戦投入されている。やがてフィジカルAIを搭載したヒト型ロボット部隊が人々を追い立てる悪夢が現実になるかもしれない。

ところで、“ロボット”という単語は1920年にカレル・チャペック(チェコ)が発表した戯曲「RUR」から生まれたことをご存じであろうか。作品は無限の労働力“ロボット”の製造工場の描写からはじまる。あらゆる労働から解放された人間は幸福になるはずだった。しかし、やがて世界中で子供が生まれなくなる。そこへロボットが反乱を起こし、、、これ以上は“ネタバレ”になるので興味のある方は是非ご一読を。阿部賢一氏による新訳版「ロボット RUR」(中公文庫)には著者による「機械の支配」と題された寄稿文も収録されている(「現代」6号、1929年)。曰く「人間と機械の関係は、人間が人間に対してどのような関係を築くかにかかっている」。1世紀前、彼は見事に未来を言い当てている。

※「
2026年版 世界ヒューマノイドロボット市場の現状と将来展望」(矢野経済研究所、2026年3月30日発刊)より

2026 / 07 / 31
今週の“ひらめき”視点
令和8年熊本地震、地域社会の早期復旧と日常の回復を願う

写真:2025年、復旧途上の熊本城(撮影:筆者)

7月28日、熊本を震度7の地震が襲った。10年前、平成28年の激震から立ち直りつつあった熊本が再び被災した。失われた命、壊れた生活基盤、余震への不安、酷暑の中での避難に言葉もない。心よりお見舞い申し上げます。

地域の防災拠点でもあったイオンモール熊本(嘉島町)の事故は衝撃的だ。大型商業施設と防災協定を結ぶ自治体は少なくない。自治体、施設運営会社は一体となって防災機能と緊急時のマニュアルを再点検いただきたい。日本経済への影響も大きい。熊本はTSMC、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサスエレクトロニクス、東京エレクトロン、三菱電機、ホンダ、アイシンなど半導体、電子部材、自動車関連企業の主力工場の集積地である。被災工場の早期復旧とBCP戦略の再点検が急がれる。

政府の地震調査委員会は今回の地震の原因について「10年前の割れ残り」の可能性を示唆した。日本は世界有数の自然災害大国であり、それはいつ、どこで起こってもおかしくない。国土地理院(国交省)が公開している“自然災害伝承碑”を是非ご覧いただきたい。地域として、企業として、個人として、どう備えるか。あらためて問い直したい。
参考:
地理院地図(国土地理院)

熊本県八代市は室町時代から続く“い草”の産地だ。当社は地場産業の活性化と日本文化の象徴でもある畳の伝統を次世代へつなぐべく、長年にわたり業界を支援させていただいてきた。再びの被災に心が痛む。昨年、筆者は復旧途上にある熊本城を訪れた。完全復旧は2052年度と伺った。残念ながらその日は遠のくであろう。まずは失われた日常の復旧、復興だ。そのうえで“熊本の誇り”を未来へ継承いただきたく願う。