今週の"ひらめき"視点

2020 / 08 / 07
今週の“ひらめき”視点
相次ぐ豪雨災害、気候変動をどう受けとめるか、キーワードはレジリエンス

7月、日本列島は月初に九州、中部、月末には東北地方と、記録的な豪雨災害に見舞われた。とりわけ、3日から4日にかけて九州南部を襲った「これまでに経験したことのない猛烈な雨」は球磨川流域をはじめ各地に広範かつ甚大な被害をもたらした。
「数十年に一度の」、「50年に一度の」と形容される “大雨特別警報” が導入されたのは2013年8月、以降7年間で、33都道府県に計16回発令された。もはや「数十年に一度」という警告の効力は失われつつある。「次々に発生する線状降水帯」という専門用語も聞き慣れた。

温暖化は確実に進行している。昨年末から2月にかけて日本は全国的に高温だった。平均気温+1.66度は統計開始以降の最高値である。6月も暑かった。全国153の気象台、測候所のうち50地点で過去最高またはタイ記録となった。シベリアのサハ共和国でも38度を記録、これは平年を18度上回る、北極圏における過去最高気温である。
ヨーロッパ西部から北西アフリカにかけて、北米・中米・南米も高温に覆われた。中国、長江流域では7月だけで6回もの豪雨があり、上流域で相次いで洪水が発生した。8月に入ってからは朝鮮半島中部地方でも豪雨が続く。

頑強なダムや堤防も設計基準を越えた水位や流量には耐えられない。経験値を越えた自然災害が多発する中、どこまで備えればよいのか。どこまでコストをかけるべきか。完璧な防災の実現が困難であるとすれば、発想の転換も有効だ。力に力で対抗する従来型の防災に加えて、いかに受け流すか、つまり、減災という視点でリスクを見直す必要があろう。
ヒントは甲州武田氏の “信玄堤”、これは川に平行した一続きの堤防ではなく、ところどころ上流外側に向けて開口部を持つ霞堤である。氾濫水位を越えるとそこから水を逃がし、氾濫が収まると川へ排水される。川中には水の勢いを抑えるために “聖牛” と呼ばれる工作物を置いた。これも一定以上の水流があると自壊し、堤への負担を軽減する仕掛けになっている。無理に抵抗しない、これが信玄堤の真骨頂である。

緑地や農地、遊水地など自然が持っている保水、貯水力を減災に活用する手法は “グリーンインフラ” と呼ばれる。自然の脅威を完全に封じることが出来ないのであれば、脅威との “共生” を地域全体で探るしかない。
球磨川の氾濫で大きな被害があった人吉市、筆者は以前同市の産業政策づくりに関与する機会をいただいたことがある。ご担当者によると地域の未来を担うべく整備した人吉中核工業用地は「災害搬出ゴミの仮置き場となった。復興には3-5年を要する」とのこと、言葉もない。1日も早い復興を祈念するとともに、球磨川を抱いた豊かで安全な町づくりを応援したい。

2020 / 07 / 31
今週の“ひらめき”視点
ストップ、GOTO! まずは終息、そして、内需全体の活性化策を

7月22日、全国的な感染拡大が収まらない中、GO TO トラベル事業が “前倒し” でスタートした。同日、日本医師会の中川俊男会長は、通常医療を含めた医療提供体制崩壊への懸念を示したうえで「この4連休は県境を越える移動や不要不急の外出は避けてほしい」と呼びかけるとともに、GOTOトラベルについて「勇気をもって変更していただきたい」と述べた。恐らく中川氏のこの言葉こそ医療の現場からの本音であろう。それでも強行されたGOTOトラベルは、もとより “みんなが一斉に動く” ことで最大の成果が得られるキャンペーンという施策自体の “矛盾” を差し引いても、その効果は最小化されたと言える。

そもそも制度的にみても課題は少なくない。基準が示されないまま適用された “東京排除” は論外であるが、旅行代理店を介在させた場合に利用者の恩恵がもっとも大きくなる設計は疑問である。経営基盤の弱い中小宿泊事業者の経営支援という観点に立てば、手数料を抜かれない直接予約をこそ促すべきであろう。
そして、困っているのは観光業界だけではない。東京からの身近な観光県の一つ、長野県、昨年のGWには370万人もの観光客が訪れたが、今年はわずかに7万4千人、98%減となった。影響は甚大である、とは言え、その “長野” であっても、H29年(2017)の県内総生産(8兆4,417億円)における宿泊・飲食サービス業の比率は3.7%(3,147億円)である。一方、県内総生産の29.9%を占める製造業や9.9%の卸売・小売業もまた生産調整、外出自粛、時短営業によって大幅な減収減益を余儀なくされている。地方=観光地でない、ということだ。
※参考:「観光地利用者統計調査」(長野県)によるH29年の県内観光消費の総額は304,574百万円

自然災害等による緊急措置としての給付金支給に異論はない。しかし、個別事業者の資金繰り支援は、原則として政策金融の強化で対応すべきであろう。
コロナ禍の中、宿泊施設支援を目的に各地でクラウドファンディング・プロジェクトが立ち上がった。報道では美談としてとりあげられたが、将来の宿泊予約と引き換えに調達された資金はあくまでも前受金であり、つまり、債務である。例えば、1年後、1泊1万5千円の宿泊料を8掛けで予約販売した場合、年利25%の高利でのファイナンスということだ。
一方、政策金融も融資であり、実質無利息であっても返済義務はある。中小事業者にとって負担は小さくないだろう。しかし、それゆえにこそ事業継続意欲と能力のある企業が、長期にわたって返済できるよう施策を講じるのが政治の役割である。

人口動態を鑑みれば、観光業界も長期的な内需縮小の途上にある。外需あるいは富裕層マーケティングの強化でこれを補う戦略は是である。しかし、それでも観光市場の8割は内需であって、ここの底上げがなければ産業全体を押し上げることは出来ない。そもそも内需の成長を放棄した政治などあり得ない。では何をすべきか。もっとも効果的であるのは労働分配率と1人当たり可処分所得の向上である。2006年度以降の10年間で、家計の可処分所得が雇用者報酬の伸びを上回ったのはリーマンショック後の一度だけ、税や社会保険の負担増が可処分所得の伸びを抑制している。
当の宿泊業でも同様だ。2013年から2017年にかけて宿泊者数は9%増加した。これに伴い、宿泊・外食サービス業の国内総生産は15%拡大、結果、営業余剰は28%のプラス、雇用者報酬の総額も5%伸びた。しかし、1人当り雇用者報酬は1%のマイナスである。国民1人1人が豊かさを実感できない限り、内需全体の活性化はあり得ない。
まずは、立ち止まり、戦略の見直しをはかるべきだ。今、すべての産業にとって、もっとも有効かつ最優先の経営支援策は言うまでもなく “不安の除去” である。

2020 / 07 / 17
今週の “ひらめき” 視点
副業容認への流れは止まらない。しかし、それが唯一の正解ではない

15日、ヤフー株式会社は副業人材を活用する新たな人材戦略を発表、募集を開始した。名称は「ギグパートナー」、経営企画など経営の意思決定をサポートする戦略アドバイザー職と特定業務に高度な専門スキルを有する事業プランアドバイザー職を募集、業務委託契約を結ぶ。
キャリア要件は、「より創造的な便利を生み出す」ために自律自走して業務を進められる方、またはそのためのスキルや経験を有する方(同社HPより抜粋)。他社との雇用関係の有無は問わない。勤務形態は原則テレワーク、専門人材であれば週に1日以上、月額5万から15万円程度の報酬を想定、新規事業の立ち上げや業務提携仲介など高度な業務経験のある人材の確保を目指す。

グローバリゼーションを背景に大手企業やIT系企業を中心に日本企業においても “多様な働き方” への模索は従前から始まっていた。昨年4月に施行された「働き方改革関連法」の施行も転換点の一つであったと言えるが、新型コロナウイルスがこの流れを一挙に加速させ、決定づけた。
当社が緊急事態宣言下に行った調査でも新型コロナを契機に「働き方の多様化、副業の容認」への取り組みを開始した企業が10.6%、「今後、検討すべき施策」との回答率は48.9%に達した。

実際、副業人材を含む10万人のビジネスパーソンをネットワークする、株式会社ビザスクのビジネスナレッジ提供サービスの2020年3月~5月期の取扱高は前年同期比41%増と急成長している。副業、ジョブ型雇用、リモートワーク、同一労働同一の賃金など、多様な働き方への流れに後戻りはないだろう。
政府も “ギグワーカー” の雇用環境整備に向けて検討を開始した。かつてのように社員(国民)の生活をまるごと引き受ける余力が企業(国)にない以上、この流れは必然である。

ただ、新型コロナは “多様な働き方” を後押しする一方で、企業の行動基準も変えた。世界の機関投資家の視線は、短期的な株主還元ではなく社会そして地球の “持続可能性への貢献” に向けられる。
労働市場の流動化と副業の容認、言い換えれば、個人と企業それぞれの時間当たり生産性の最大化だけが “正解” ではない。島津製作所の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローや旭化成の吉野彰名誉フェローといった人材は “副業” からは生まれないだろう。また、個人の絶対的な能力差による収入格差は分断を固定化させる社会的リスクも孕む。
今、個人、企業、社会、それぞれの関係における個別最適と全体最適の在り方について、それぞれがしっかりと問い直すべきだろう。

「アフター・新型コロナウイルス~日本産業の構造変化と成長市場」(7月10日発刊)より。

2020 / 07 / 10
今週の“ひらめき”視点
新生活様式の浸透は公共交通の在り方を見直すチャンスである

7日、JR東日本は4-6月期の鉄道収入が前年同期比34.1%となった、と発表した。記者会見で深沢祐二社長は3密防止および新生活様式への対応として「時間帯別運賃制の導入を含む新たな運賃体系の検討に入る」と表明、あわせて、始発電車の繰り下げ、終電時間の繰り上げなど列車の運行体制や定期券の見直しにも言及した。
狙いは通勤ラッシュなどピーク時間帯の乗降客を分散させることによる混雑混和と時間帯別営業生産性の標準化、実施時期については明言を避けたが「利用客が以前のように戻ることはない」ことを前提に長期的に経営を維持するための検討を進める、とする。

新型コロナウイルスがもたらした最大の経済的災禍は “ヒトの移動制限” による。しかし今、“新生活様式” の名のもと、そこへの適応が社会的に要請され、デジタル化による “リモート社会の実現” が次世代成長戦略と位置付けられる。とりわけ、ビジネスにおけるテレワークの浸透、すなわち、ヒトの大量移動の縮小による大都市への一極集中の是正、地方の活性化、労働生産性の向上、といった社会的効用が期待される。

ウイズコロナ、アフターコロナの社会が日常生活における移動量の縮小を目指すのであれば、もはやその拡大を前提としたビジネスモデルは成り立たない。実際、在宅勤務の制度化やオフィス面積の縮小を発表した大手企業も多く、収益の柱である通勤定期需要の拡大はもはやあり得ないだろう。とすればJR東日本の戦略は一鉄道事業者としてごく自然な発想である。

移動量の縮小が社会的に肯定される未来を仮定すると、CASEやMaaSもその目指すべきゴールが変質するだろう。また、そもそも都市と地方では移動の量も質も異なる。岡山の両備グループが提起した地方の公共交通維持の問題についても未だ答えは出ていない。一方、ビジネス需要の持続的拡大を前提に1970年代に構想された第2東海道新幹線構想はリニア中央新幹線に名を代えてそのまま維持される。

新型コロナウイルスはヒトの移動が成長の前提となっていた社会のリスクを浮き彫りにした。しかし、単に量の最小化が正解ではないだろう。問題は質にある。巨大な危機を前にこれまでの前提と異なる社会を築くことが目指されるのであれば、もう一度、都市、地方、そして、高速交通網も含めて、国全体の公共交通の在り方をゼロベースから議論すべきである。

2020 / 07 / 03
今週の“ひらめき”視点
「化石賞」はいらない。国は脱炭素に向けての覚悟を

政府は、低効率でCO2排出量が多い石炭火力発電を段階的に削減する方針を固めた。対象となる旧型の石炭火力は110基、うち9割を2030年までに段階的に廃止する。
日本の石炭火力のシェアは31%、石炭火力への依存度の高さは国際的にも批判の的となっており、11月にロンドンで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前に国の電力政策を明確化しておく狙いもある。

地球温暖化防止に向けて世界の流れは一致している。資本の世界も同様であり、機関投資家の視線はこれまで以上に厳しい。今年の総会では、みずほフィナンシャルグループへの株主提案が注目された。
提案者は環境NGO “気候ネットワーク”、将来性のない化石燃料事業への投資はみずほグループにとってリスクであり、また、新興国の石炭火力事業への融資はパリ協定と整合しないとして、「パリ協定の目標に沿った経営計画の開示」を義務付けるよう定款の変更を求めた。会社側は「石炭火力発電への融資については与信残高削減目標を設定している」、「環境や社会に配慮した投資方針は従来から積極的に開示している」と反対を表明、一方、米の議決権助言会社は株主提案への賛成を推奨、ノルウェーやデンマークの年金基金はこれを支持した。結果、株主提案は否決された。ただ、1/3の賛成票を集めたことの意味は大きい。

30日、日本経済新聞はNTTが2030年度までに独自の発送電網を整備し、再生可能エネルギー事業に参入すると伝えた。投資額は1兆円、発電量は日本の再生可能エネルギーの12%、四国電力1社の発電力を上回る750万キロワットを確保するという。
既存電力会社の競争優位は発送電網の独占にあるが、NTTはこれに依存しない体制を構築する。全国7,300の電話局に蓄電池を配備、これをネットワークすることで顧客への直販を実現するという。NTTという大資本の参入は再生可能エネルギーへのシフトを一挙に加速させるインパクトがある。

世界のESG投資資金は2018年時点で30兆6,800ドル(3,400兆円)を越える。100年という超長期の視点で運用する年金基金や保険会社も出てきた。総資産2,200億ドルを有する世界最大の運用会社「ブラックロック」のローレンス・フィンク氏は気候変動問題が「世界の運用ルールを変えた」と語る。
政府は旧型石炭火力休廃止への道筋を提示した。前進ではある。とは言え、発電効率の高い新型石炭火力30基は維持し、かつ “新設” も認めると言う。また、新興国への輸出も継続することを表明している。
パンデミックによるエネルギー需要の縮小は石炭火力のコスト優位を一時的に更に高めるだろう。ただ、目先の利益と既得権に安住し続ける限り、未来は遠のく。世界のESGマネーを引き寄せ、次世代エネルギー産業でイニシアティブをとるためにも中途半端なご都合主義は捨てるべきである。新型コロナウイルスはあらゆる業界のイノベーションを加速する。もはやコロナ以前への後戻りはない。今こそエネルギー政策を根本から見直す最大のチャンスであり、この機を逃すべきではない。

2020 / 06 / 26
今週の“ひらめき”視点
ソフトバンクグループ、再建と信用回復のためにも情報開示を

25日、ソフトバンクグループの定時株主総会が開催された。孫氏は、前期は9,600億円を越える当期損失となったものの財務改善のための資金調達が順調であること、保有株式の株式価値は新型コロナウイルス感染拡大前の水準より増えたことを強調、経営再建に自信を見せた。
実際、先月までにアリババ株1兆2,300億円、通信子会社ソフトバンク株3,102億円を売却、2日前の23日にはTモバイルUSへの出資分24%のうち16%を親会社ドイツテレコムに2兆2,000億円で売却することを発表済だ。

2013年、ソフトバンクは米通信3位のスプリントを買収、米通信市場に参入する。当時、「世界最大のモバイルインターネットカンパニー」を目指すと標榜した孫氏は、既にこの時点で4位のTモバイルUSとスプリントを合併させ、首位のベライゾン、2位のAT&Tに対抗する第3極構想を持っていた。
孫氏のプランは米当局の厳しい規制に阻まれ頓挫する。また、水面下の交渉においても合併後の経営権を巡ってドイツテレコムとの厳しい対立があったという。

ところが、2017年に交渉を再開すると孫氏は経営権の放棄を受け入れ、翌年には合意に達する。ビジョンファンドの設立が2017年であったことを鑑みると、もはや孫氏の関心は通信事業会社の経営にはなく、投資家として保有資産の最大化をはかることに移っていたのだろう。その意味でスプリントへの投資は結果的に正しく現在のソフトバンクグループに貢献したと言える。

しかしながら、ビジョンファンドの前期収支は1兆3,646億円の赤字、苦境は続く。5月18日の決算説明会で孫氏は「ビジョンファンドの投資先88社のうち15社程度は倒産する可能性がある」と表明、あわせてファンドの人員削減にも言及した。一方、「15社は大きく成長、10年後にはファンドが出資した企業価値の90%をこの15社が占める」とも語った。
ファンドである以上、リスクがあって当然である。とは言え、ソフトバンクグループの一般株主にとって、同社の株価を左右するファンドの中身に関する情報があまりに少なすぎる。

株主総会の冒頭、孫氏は「危機は新しい日常を生む」と力強くメッセージした。19世紀のコレラは下水道整備を促すことで安全な水をもたらした。1920年代の世界恐慌は公共事業が克服、結果、ダムと道路を整備することで電気と自動車のインフラをつくった。そして、2020年、人と人の接触を制限する新型コロナウイルス危機がデジタルシフトを加速する、と。
異論はない。投資会社としての投資方針も明確である。しかし、それゆえにもう一段の透明性に期待したい。足元では不正会計が露呈し経営破綻に至った独フィンテック大手「ワイヤーカード」とソフトバンクグループ関連会社との関係も取り沙汰される。孫氏、そして、ソフトバンクグループの信用回復のためにも、「ここまでやるか」と唸らせるほどの情報開示に期待したい。