4月1日、高等学校等就学支援金に関する法律の改正法が施行、就学支援における所得制限が撤廃された。これにより公立高校には生徒1人あたり年間11万8800円、私立高校には同45万7200円を上限に授業料が支援される。進学率が98%に達する高校への就学支援の取り組みは、従来から国あるいは各自治体の施策として段階的に進められてきたが、今回の改正により家庭の経済力を問わずすべての高校進学希望者の授業料負担が免除される。
7日、政府は学校教育法、教科書無償措置法の改正案を閣議決定、デジタル教科書を国の検定対象に加え、小中学校における正式な教科書として無償配布する。タブレット端末を活用した教材の活用は文科省のGIGAスクール構想のもと既に浸透しつつある。しかし、教科書として認められているのは「紙」のみである。政府はデジタル教科書を正規の教科書として認定するとともに、紙の教科書に掲載されている動画等の補助教材にリンクするQRコードの接続先についても検定対象とする。紙、デジタルの選択は各教育委員会に委ねるとし、2030年度の導入を目指す。
高校進学における「機会の平等」は達成した。学校選択の要件は教育の独自性、進学率、設備環境ということになる。結果、優位に立つのは私学であり、一部の伝統校や中高一貫校を除けば公立の不利は言わずもがなである。人気校を巡る受験競争はし烈化、低年齢化し、そこに新たな経済要件が生じる。一方、デジタル化についても課題が残る。デジタル教育の先進国フィンランドでは国際学習到達度調査(PISA)の順位降下を受け、既に「紙」への回帰が始まっている。シンガポールでも2023年に小学生への端末配布を中止した。心身発達への影響や集中力低下に対する懸念が理由である。
公立高校の定員割れは深刻だ。とりわけ地方では統廃合の呼び水となる。一方、赤字の学校が4割を超える私学への実質的な販促支援は都市部における需給バランスも崩す。誰もが学べる社会に異論はない。しかし、議論の軸足は「負担の軽減」や「支援の平等」といった“家計”の問題に偏っており、“公立”の将来ビジョンそれ自体は置き去りにされた感が拭えない。教科書のデジタル化についても同様だ。教科書のペーパーレス化とコンピュータサイエンスは別物である。教育におけるIT活用の効用とIT人材を育成するための教育の在り方についても更なる議論が必要である。
3月25日、日本郵船を中心とした官民連合※は横浜港大さん橋埠頭に、世界初の洋上浮体型データセンター(DC)を設置、実用化に向けて実証実験を開始した。生成AIやクラウドサービスの普及・拡大に伴いDC需要が高まる。一方、大型DCは、莫大な電力や耐災害性を確保する必要性に加えて、騒音、景観問題、建設費の高騰といった課題も指摘される。今回の実験は浮体式係留施設(ミニフロート)に太陽光発電システムを備えたコンテナ型データセンターを設置することで、大型DC固有の社会課題の解決を目指す。
実験では太陽光発電システムが採用されているが、将来的には洋上風力発電とのシナジーが構想されている。ちょうど1年前の日本郵船のリリースによると「洋上風力発電所の近くに浮体型DCを設置することで、陸上の電力系統に依存・制限されないグリーンDCを実現、地球環境の保全とデジタルインフラの成長に貢献する」とされる。
洋上風力発電は国のエネルギー基本計画において「再生可能エネルギーの主力電源化に向けての切り札」と位置付けられ、2040年度までに原発30~40基に相当するプラントの稼働が目指される。現在、30海域が候補区域に指定され、順次事業者の公募が進められている。しかしながら、第1ラウンドで秋田県の2区域と千葉県沖を落札した三菱商事連合がコスト高を理由に撤退を表明するなど、計画は決して順風満帆とは言えない。海に囲まれた日本にとって「洋上」の可能性は大きい。イノベーションの基盤となるDCの拡充と電力自給率の向上は経済安全保障の1丁目1番地とも言える。成長戦略の最重要分野として投資を加速させていただきたい。
さて、余談になるが、2008年に清水建設が発表した「GREEN FLOAT」構想を覚えている方はいらっしゃるだろうか。ゼロカーボン、食料自給、廃棄物ゼロ、4万人の住居ゾーンを備えた海に浮かぶ環境未来都市だ。筆者は何度か研究会に参加させていただいたが、とりわけ、筆者が魅かれたのはこの洋上浮体都市が固定式ではなく浮遊式であるという点だ。その後、どうなったのかな?と同社のHPを覗いてみたら、2024年にオランダで開催された浮体都市研究コンソシアムに「アジア企業として唯一参加」とのリリースが目に留まった。そうか、続いていたのか、とても嬉しく思った。
※日本郵船、NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市
3月16日、国立環境研究所をはじめとする研究チームは、気候変動緩和策が将来の飢餓リスクに与える影響について大気汚染軽減効果を考慮した研究成果を発表した。気候変動緩和策は、温暖化による作物収量の低下を抑える効果がある一方、バイオエネルギー作物や大規模植林などと土地利用が競合することによる収量減少リスクを伴う。従来、後者が前者を大きく上回るとされてきたが、対流圏オゾン濃度の低下を計算条件に加えると気候変動緩和策によって増加する飢餓リスク人口の約15%が相殺される、とのことである。
気候変動が世界の食料安全保障に与えるメカニズムは極めて複合的、連鎖的であり、産業政策、貿易構造、食文化、生態系、地理的条件からの影響も大きい。また、収量やアクセスの問題のみならず、「主要穀物のタンパク質と微量栄養素の含有量減少による“隠れた飢餓”を誘発させる。また、熱ストレスによる食欲低下といった生理学的な影響も懸念される」という(国際農林水産業研究センター、2025.10.08より)。
気候変動に伴う被害がもっとも早く、そして、深刻化するのは皮肉にもCO2排出量の少ない地域、言い換えれば経済基盤の弱い途上国だ。13日、バヌアツの気候変動大臣は上智大学での講演で「世界の温室効果ガスの0.00016%しか排出していないバヌアツは、激甚化した1つのサイクロンでGDPの64%を失う」と語った。主食である根菜類の生産や漁業への影響も大きい。干ばつ、水不足、疫病、治安の悪化により食料供給システムが崩壊、慢性的な飢饉に苦しむアフリカの温室効果ガスの排出量も世界の4%に過ぎない。
そう、気候変動や食料安全保障の問題は“弱者から”顕在化する。昨年5月、東京科学大学が発表した調査※によると、過去一年間に「栄養バランスの取れた食事をとる経済的余裕がなかった」「同じ世帯の大人が経済的理由で食事の量を減らしたり、抜いたりしたことがある」といったフードセキュリティが脅かされている人(=食料危機層)の割合は43.8%、食料危機層の人ほど猛暑など異常気象のために体調を崩す人の割合も高く、すなわち気候変動に対してより脆弱である。OECDによると日本の相対的貧困率は2021年時点で15.4%、昨今の物価高はこの比率を更に助長しているものと推察される。傾向は他国でも同じであろう。短期的な物価高対策はもちろん、持続的かつ戦略的な気候変動対策が急務である。
※出典:「日本におけるフードセキュリティの実態と気候変動対策への支持」、調査実施者:東京科学大学未来社会創成研究院ウェルビーイング創成センター、実施時期:2025年2月、サンプル:18歳から79歳の全国の男女10,330人
東日本大震災発生から15年と1日が経過した。復興に投じられた予算は41兆5千億円、インフラの復興はほぼ完了、製造品出荷額も震災前を超えた。津波で被災した農地も96%が営農可能だ。福島イノベーションコースト構想など先端技術の拠点づくりも進む。しかしながら、19,782名の犠牲者と2,550名の行方不明者の方々が失った未来、彼らとともにあったはずの時間は取り戻せない。人口減少、高齢化も進む。課題は残る。それでも、15年という時間の中で被災地は新たな時を刻みつつある。
問題は原子力災害だ。計880トンと推計される核燃料デブリの取り出しが困難を極める。これまでに試験採取されたデブリはわずかに0.9グラム、2051年とされる廃炉完了計画の実現は不透明だ。2023年8月、処理水の海洋放出が始まった。2年で13.3万トンが放出された。とは言え、新規発生を差し引くと減少量は8.1万トン、未だ126.6万トンがタンクに残る(2026年2月26日、東京電力)。福島県内の中間貯蔵施設に留め置かれた除染土は「2045年までに県外で最終処分される」と法律で定められている。しかし、候補地の目途は立たない。原子力被災農地の営農再開面積は53%、沿岸漁業の水揚げは震災前の26%、故郷へ帰還できない2.7万人のうち2.4万人が福島県からの避難者である(復興庁)。
15年という月日は、あの日、私たちが共有したはずの「社会の在り方を根本から問い直す覚悟」を希薄化させつつある。与党は2037年を期限とする復興特別所得税2.1%のうち1%を2027年度から防衛予算に転用、減額分を10年の期限延長で相殺する案を税制改正大綱に盛り込んだ。昨年、国のエネルギー基本計画は「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除した。一方、文科省は廃炉に向けた基礎研究費用の予算要求額を昨年の5,251百万円から4,673百万円へ減額している(実績ベースでは約3%減)。
3月3日、国は高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けての文献調査を東京都小笠原村に申し入れた。2026年中の稼働を目指して建設中のフィンランドの最終処分施設“オンカロ”が想定する耐用年数は10万年である。私たちはこの途方もない年月のその先の子供たちに何を残すのか。ネイティブ・アメリカン“オノンダーガ族”オレン・ライオンズ氏の言葉を再度噛みしめたい。「政治の決め事はいつも7世代先の人々を念頭に行う。これから生まれてくる世代の人々が私たちより悪い世界で暮らすことのないように。そのことを片時も忘れたことはない」※。
※「それでもあなたの道を行け」(ジョセフ・ブルチャック編、中沢新一、石川雄午訳、めるくまーる刊)より
2月28日、米国とイスラエルはイラン国内の複数拠点を空爆、最高指導者ハメネイ氏を殺害した。その前日、米国とイランの協議を仲介してきたオマーンのバドル外相が「合意に向けて大きな進展があった」と会見で語っていただけに「米、攻撃開始」の第1報には驚かされた。空爆は止まない。米国を後ろ盾とするイスラエルはレバノンへの地上侵攻を開始した。“支配地域の拡大”が作戦の目的であることをもはや隠そうともしない。
ロシアのウクライナ侵攻は5年目に入った。国連安保理常任理事国が仕掛ける“自国の正義”にもとづく軍事行動に“法の支配”の原則が揺らぐ。強権化する2期目のトランプ氏は既に“タリフマン”の域を超えた。27日、ネットフリックスとパラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーを巡る買収合戦はパラマウントの勝利で決着した。ネットフリックスは撤退理由を「買収金額の問題」と説明するが、トランプ氏からの圧力は周知の事実だ。
トランプ氏の狙いはワーナー傘下のCNNである。かねてから自身に批判的なCNNの報道をフェイクニュースと罵り、ワーナー買収に自ら関与すると宣言していた。パラマウントのエリソンCEOのファミリーはトランプ氏の有力支持者だ。同社は既にCBSを傘下に置く。トランプ氏は「CNNの経営陣は腐っている」とも発言しており、編集方針へのあからさまな介入が懸念される。もちろん、巨大メディアグループ同士の統合には独禁法という壁がある。とは言え、司法省への人事介入も厭わないトランプ氏だけに報道統制は現実味を帯びる。
同じ27日、米政府は、AI開発企業アンソロピック社をすべての連邦政府機関から排除すると発表した。同社のダリオ・アモデイCEOは“人間が介在しない完全自立型兵器の開発”や“米国民の監視”への技術適用を禁じる利用規約の順守を米軍に求めた。トランプ氏はこれに反発、政府機関はもちろん米軍の調達先企業との取引も禁止するよう指示した。2023年、第1回「軍事領域における責任あるAI(REAIM)」サミットの政治宣言を主導したのは米国だ。宣言は国際法とりわけ国際人道法のもとでのAI利用を確保するための法的措置の必要性に言及している。今、米国はその真逆をゆく。世界の予見可能性、法の支配、国際協調への道筋、これらをどう回復するか、日本が貢献すべきは唯一ここである。
2月17日、文部科学省は東北大学、筑波大学、広島大学の3大学11学部に対して外国人留学生の定員枠拡大特例を2026年度から認めると発表した。特例の認定に際しては定員の充足率、財政状況などの要件に加えて、「必須条件ではない」としながらも教育の質の向上と受け入れ環境整備にあてるための「授業料の値上げ」に関する方針が問われた。
国立大学は、それぞれの大学の裁量で決定できる授業料は“標準額53万5800円の1.2倍まで”と制限されている。しかし、昨年、国は留学生を対象にこの上限規制を撤廃、これを受けて東北大学は2027年度以降に入学する留学生の授業料を90万円、約1.7倍に引き上げると発表した。筑波大、広島大も値上げの方針を決定している。2024年、外国人留学生の総数は33万6708人、約9割がアジア圏からであり、新興・途上国からの留学希望者も増えつつある。大学は値上げ分を適切に留学生支援に投じるとともに地域と連携した支援体制づくりを進めていただきたい。
さて、こう書くと「留学生ばかりが優遇され、日本人が冷遇されている」といった声も聞こえてくる。国は、国費外国人留学生(11,157人)のための185億円を含め、留学生の受け入れ拡大のために総額271億円の国費を準備する(R7年度要求・要望額、文部科学省)。とは言え、日本人学生には給付型の奨学金が1,954億円、貸与型をあわせると1兆613億円の経済的支援が用意される(R7年度予算、日本学生支援機構)。対象者数は国費外国人留学生の180倍に相当する規模である。そもそも優秀な学生が経済的理由で進学を諦めることのないようにする制度と優秀な外国人留学生を日本に呼び込むための施策は狙いが異なる。
米商務省によると2025年の米国への海外からの留学生は127万人、前年比13.5%減となった。日本からの留学生も1割減の2万8千人にとどまった。言うまでもなくトランプ政権による移民政策と厳格な入国規制が背景にある。政府は「2033年までに外国人留学生を40万人に拡大する」との計画である。そう、今が好機である。しかしながら、本当のゴールは“40万人”のその先にある。卒業後も彼らが自分自身の未来を日本というフィールドに思い描けるような社会をつくること、ここが最終目標だ。そうあってはじめて多様な文化的背景を持った若く優秀な才能が日本の成長原資となり得る。
