今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2026 / 01 / 30
今週の“ひらめき”視点
株式市場改革、上場会社は“公開企業”であることの意味を問い直せ

1月26日、東京証券取引所は「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」(第9回)を開催、議決権保有比率が40%を超える大株主※を有する上場会社の取締役選任議案において、大株主とその関係会社票を除いた少数株主の賛否率の開示を義務付ける旨、決定した。あわせて少数株主の反対票が5割を越えていた場合、半年以内に反対理由に関する分析結果を開示するとともに株主との対話方針等の策定を求める。新たな施策は2026年12月期の決算企業から適用する方針だ。

研究会では上場会社の負担増への懸念も議論されたが、最終的に「十分に注目すべき少数株主の反対意見は可決されたことをもって無視すべきではない」との方向でまとまった。昨年、JALの持分法適用会社(株)エージーピーの総会では、大株主JALが提案した“株式併合による非上場化案”に対して、経営側はMoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)議案で対抗した。このケースは「大株主と経営陣との対立」といった構図であり、したがって、大株主が経営の実権を握っていることを前提とした今回の改定案とは条件が異なる。しかしながら、少数株主の権利があらためて注目されたことの意味は大きい。

同日、“上場”を巡ってもう一つ重要な改革が発表された。日本公認会計士協会は「新規上場会社等の会計不正によって財務諸表の信頼性への懸念が高まっている」とし、上場会社監査法人の品質管理システムのモニタリング強化等をはかるとともに、小規模監査法人の監査品質への懸念を払拭すべく、現在“最低5人”とする会計士の人数要件を引き上げると発表した。売上の最大9割が架空取引であったAIベンチャー“オルツ”の事案が対策を急がせたであろうことは想像に難くない。

少数株主との対話、財務諸表の信頼回復は健全な株式市場を維持するための必須条件である。昨年6月の総会に株主提案があった会社は111社、可決はわずか7社に留まる。不適切会計も新規上場企業だけの問題ではない。日本公認会計士協会によると会計不正企業数は年々増えており昨年3月期には56社に及んだ。背景には資本効率の改善、高い株主還元、ガバナンス強化など企業価値の短期向上を求める投資家からの強いプレッシャーがある。上場廃止を選択する企業も後を絶たない。昨年は過去最多の124社に達した。上場会社および上場を目指すスタートアップには“パブリックカンパニー”であることの戦略的意義と覚悟をあらためて問い直していただきたく思う。

※保有率の計算に際しては財務諸表等規則8条8項に定める関係会社を含む(東京証券取引所資料より)

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2026 / 01 / 23
今週の“ひらめき”視点
ファッション市場の構造変化にみる日本の今。内に閉じるな、外へ

1月19日、イタリアの高級ブランド“ヴァレンティノ”の創業者ヴァレンティノ・ガラバーニ氏が亡くなった。1960年代前半、フィレンツェでファッションショーを開催、イタリアのオートクチュール界の先駆けとしてのキャリアを本格的にスタートさせる。1968年には有名な「ホワイトコレクション」を発表、トレードマークとなる“V”のロゴもこの頃から登場する。

1980年代から90年代後半、“ワンランク上”がマーケティングの主流だった時代、本家にあやかった多くの“バンレチノ”が量販店に溢れた。百貨店の市場規模(日本百貨店協会)が11兆円を超えた1997年、この年の月間現金給与総額(事業所規模30人以上、毎月勤労統計調査より)は421,324円となった。しかし、ここをピークに分厚い中流層は崩れてゆく。2024年の月間給与総額は397,789円(同)、百貨店市場も6兆円を割り込んだ。この間、繊維製品小売市場も14兆5288億円から10兆9452億円に縮小、国内市場の主役は売上高を12倍へと飛躍させた“ユニクロ”に取って代わった。

一方、インポートファッション市場は1997年の1兆6612億円から2024年には2兆4714億円へ拡大、リーマンショック等による一時的な足踏みはあったものの年平均成長率は1.5%と堅実に成長している。とは言え、需要構造は変わった。バーバリーの戦略転換がこれを象徴する。2015年、バーバリー本社(英)は三陽商会とのライセンス契約を打ち切り、販路を直営店に一本化する。もちろん商品はインポートのみ、日本国内におけるシェアを捨て、富裕層とインバウンドにターゲットを絞り込んだグローバル戦略に振り切った。

果たして結果は、2024年、バーバリーの国内売上高は2015年比約2倍へ、ヴァレンティノもまた約2.5倍へ倍増させている。この10年、国内富裕層は一貫して増加、インバウンド市場の拡大もご承知のとおりである。ジャパン・クオリティを支えてきたのは国内の良質なベターゾーンマーケットである。今、内需の量的な縮小が避けられないのであれば、グローバル市場における競争力の回復こそ“安い日本”から脱する鍵だ。引き籠もっている場合ではない。

繊維製品小売市場、アパレル小売市場、インポートブランド市場に関するデータは当社調査資料
「繊維白書」「アパレル産業白書」「インポートマーケット&ブランド年鑑」から引用

2026 / 01 / 16
今週の“ひらめき”視点
社会との信頼回復に向けて、組織は自浄能力を取り戻せ

1月14日、原子力規制委員会は、中部電力が浜岡原子力発電所の再稼働審査において“想定される最大規模の地震の揺れ(基準地振動)”を過小評価していた問題について「データのねつ造」と断定、審査の停止と本社への立ち入り検査を実施すると発表した。IDカードの不正使用(東京電力)、地質データの書き換え(日本原子力発電)、核物質防護センサーの点検記録の虚偽記載(東北電力)など福島第一原発の事故を経てなお原発を巡る不正が止まない。一体、何がそうさせるのか。これは原発事業者に固有の問題であるのか。

浜岡原発におけるデータ不正が発覚したのは2025年2月、公益通報制度を使った原子力規制委員会への“外部”からの情報提供だった。2025年10月、日本取引所グループから「特別注意銘柄」に指定されたニデックの不正会計問題の端緒も海外子会社における不正な利益操作に関する “匿名”の内部通報であった。2023年、ダイハツの認証不正問題も“外部機関”への通報が問題の発端となった。

ダイハツには監査部が運営する「社員の声」という制度があった。しかし、匿名通報は信ぴょう性が低いとされ結果通知は行われず、また、多くの案件が当該事案の発生部署に差し戻されていたという。第三者委員会の報告書はこうした運用が内部通報制度への不信を招くとともに会社の自浄作用に対する疑念を強めたと指摘する。そのうえで、従業員が不正行為に及んだのは「短期開発への強烈なプレッシャーに追い込まれたため」であり、現場が「経営の犠牲」になったと断じる。短期開発の箇所を“予算達成”“再稼働”に置き換えればニデック、中部電力にそのまま当てはまるだろう。

2025年、中日本高速道路は2012年の笹子トンネル崩落事故後に社員から聞き取った事故原因に関する内部資料を遺族に開示した。「安全に対する根拠なき自信過剰」「予算の都合で安全対策が先送り」といった現場の声が記された資料は、遺族からの開示請求に対して10年余にわたって「ご要望の資料は存在しない」と説明されてきた。森友学園問題における財務省の対応と重なる。2026年、改正公益通報者保護法が施行される。通報を理由とした懲戒や解雇など通報者に対する不利益待遇は刑事罰の対象となる。制度の適切な運用は言うまでもない。とは言え、まず取り組むべきは個々の組織のガバナンス強化であり、ここが現場と経営、個人と社会との信頼を回復する起点となる。問われるのはトップの資質そのものということだ。

2026 / 01 / 09
今週の“ひらめき”視点
2026年、世界と未来への信頼をつなぐために

新年おめでとうございます。年頭にあたり謹んでご挨拶を申し上げます。

トランプ2.0の最初の1年が終わった。不法移民を排除し、脱炭素を嘲り、多様性を拒否し、世界を相互関税で恫喝する。パリ協定、世界保健機構(WHO)、国連人権理事会、ユニセフからの脱退を表明し、米国の対外援助を担ってきた米開発局(USAID)を解体した。
国内では民主党の支持率が高い主要都市に対して「治安の悪化」を理由に軍を投入、政権に批判的な言論を展開する大学やメディアを「国家安全保障上の脅威」として排斥する。
トランプ氏の王様ぶり、政権の強権化は、恐らく多くの米国人が共感した“MAGA”(米国を再び偉大に)の政策理念とは別の次元にある。もはや自国第一主義の一線を越えており、米国の民主主義そのものが“フェイク”の危機に瀕しているということだ。

米中対立の中、リスクを抱合しつつ成長するASEANとの連携強化を

世界で分断が深まる中、多国間主義への信頼が揺らぐ。企業を取り巻く外部環境はますます不安定になると同時に事業活動における地政学的な制約が強まる。
自由貿易の理念が遠のく中、皮肉にも中国がその擁護者として名乗りをあげる。昨年10月末、APEC首脳会議に出席した習近平氏は、米国を念頭に保護主義への懸念を表明するとともに多国間貿易の重要性を訴えた。
実際、2025年1月-11月における中国の貿易黒字は1兆758億ドル、▲18.9%と大幅減となった米国向けの輸出額をASEAN、EU、アフリカへ分散させ、補った。伸長率はそれぞれ+13.7%、+8.1%、+26.3%、貿易黒字は2年連続で過去最高を更新する勢いである。
もちろん、最大の輸出先である対米輸出マイナスの損失は大きい。しかしながら、トランプ氏が仕掛けた関税戦争は結果的に中国に新たな成長機会を与えたとも言えよう。一方、米国もまた中国依存の低減をはかる。輸入元の切り替え先はやはりアジアである。

とは言え、アジアと中国、アジアと米国との関係はいずれもウインウインとは言い難い。安価な中国製品の大量流入は成長途上にある国内産業にとっての脅威であり、一方、対米輸出の拡大は米国にとって貿易収支の悪化を意味する。2025年1月-7月、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアに対する米の貿易赤字は前期比1.5倍に拡大している。
“赤字”はトランプ氏の嫌うところであり突然の追加関税といった制裁措置への警戒も高まる。
一方、日本企業にとっても米中が最大のリスク要件である。米国の対外政策は依然として安定しないし、中国との関係にも亀裂が入った。とは言え、コロナ禍を契機に大手企業の危機対応力は強化されており、多くの企業で事業ポートフォリオの再構築が進んでいる。一定の時間を要するとしても克服は可能であり、中立的で安定的なパートナーシップを前提にアジアが抱える構造問題の中に新たな事業機会を見出してゆきたい。

成長への希望と成果の共有に向けて、大企業は旧来の取引構造の見直しを

昨年末、日銀は物価の安定と賃上げの継続的な実施を促すべく政策金利を0.75%へ引き上げた。しかし、実勢金利と比較すると依然として緩和的な水準であり、成長型経済の実現のためには賃金水準の持続的な引き上げが不可欠である。政府の掛け声もあり、産業界の賃上げ機運は高い。
しかしながら、労働分配率は依然として低く、2024年末、企業の内部留保の総額が636兆円と過去最高を更新する一方、労働分配率は53.9%、1973年以来の低水準にとどまる。すなわち、マクロ的には賃上げのポテンシャルは十分にあるということだ。問題は中小企業、彼らに財務的な余裕はない。
日本商工会議所によると、7割を越える中小企業が賃上げを予定しているものの、うち6割は業績改善がみられない中での“防衛的賃上げ”であったという(調査期間:2024年4月-5月)。そもそも多くの中小企業は大企業を頂点とする連鎖的な下請構造の中にあって公正な利益配分の埒外にある。否、そればかりか、依然として下請法における指導件数が年間8千件を超えるなど(令和6年度)、優越的な立場にある大企業と下請企業の取引構造は本質的に変わっていない。2026年3月期も上場企業の多くが好決算を見込む。異次元緩和の後遺症から日本経済を脱却させるためにも、大企業には是非ともサプライチェーン全体利益の底上げを実現していただきたい。

米オープンAI社がChatGPTをリリースして3年、世界の景色は一変した。ディープフェイク、知的財産権、セキュリティ、ガバナンスなど、もろもろの課題を抱え込みつつも、もはや後戻りはない。未来が突如として手元に引き寄せられた感がある一方、その先の未来への確信は遠のく。今、漠とした不安とイノベーションへの期待が交差する。そして、前者に現実の格差と閉塞感が重なる時、日本もまたトランプ的なポピュリズムに覆われかねない。
未来への信頼をつなぐために私たちはどう行動すべきか。フェイクを排し、事実を根拠とした多様な言論空間を維持し、多国間主義への信頼を回復すること、ここが私たちの自由で、豊かな活動をつなぎとめる起点であり、また、前提条件である。

本年もご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2025 / 12 / 26
今週の“ひらめき”視点
欧州、米国、EV化戦略を転換?日本勢はその先を見据えての投資を!

12月16日、EUの行政執行機関、欧州委員会は「2035年までに新車のCO2排出量をゼロにする」ことを義務づけた2023年の決定を撤回、条件付きではあるが2035年以降もエンジン搭載車の販売を可能にする修正案を欧州議会に付議する。一方、フォード、GMなど米国勢もEV投資の縮小を発表、ガソリン車の増産に舵をきる。はたして世界のEV化の流れは後退するのか。

欧州委員会の決定の背景には、トランプ関税による対米輸出の減少、安価な中国EVの大量流入、欧州域内の需要低迷に苦しむ欧州自動車メーカーの業績不振がある。1300万人の雇用を擁する業界からの「急激な構造改革は困難」との要請に折れた形だ。とは言え、修正された数値は「CO2排出量を2021年比で100%削減から90%削減へ」であり、ガソリン車についてもプラグインハイブリッド車(PHV)など環境負荷の低減が条件となる。また、猶予された10%相当分は域内生産のグリーン鉄鋼や合成燃料で相殺する方針であり、CO2削減の基本方針を堅持したうえで現実の経営環境に配慮した、ということだ。

実際、欧州の市場トレンドは変わっていない。欧州自動車工業会(ACEA)が発表した11月のEU域内新車販売台数は88万7491台(前年同月比2.1%増)、シェアはガソリン車が23%、EVが21%とほぼ拮抗するが、伸び率は前者の▲21.9%に対して後者は44.1%増である。
一方、米国の事情は欧州とは異なる。そもそも気候変動問題を詐欺と決めつけ、石油産業の再興を掲げるトランプ氏による政策転換が要因だ。バイデン政権が導入した燃費規制は大幅に緩和され、EV取得を促すための税控除も廃止された。

米国の状況はEV投資に出遅れた日本勢にとって有利との見方もある。短期的にはその通りだ。とは言え、脱炭素への流れは変わらない。2025年1-11月期、EUに英国とEFTA(欧州自由貿易連合)の4ヵ国を加えた欧州全体の市場で日本勢は全社が前年割れとなった。一方、同期間におけるBYDの伸び率は+276%に達し、11月単月では台数ベースで日産を越えた。HYUNDAIグループもTOYOTAグループの販売台数を上回った。アジアでも中国、韓国メーカーの存在感が高まる。日本市場へも小型EVを投入、本格攻勢をかけてくる。世界のどこで、どのパワーソースで、どのセグメントで、どう戦うのか。トランプ後を見据えた日本勢の世界戦略に期待したい。

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「インドネシアEV市場、アジアの牙城で輝き続けるために」今週の"ひらめき"視点 2025.6.22 – 7.3
「トランプ関税に揺らぐ自動車市場。日本勢はチャレンジ精神を取り戻せ」今週の"ひらめき"視点 2025.4.20 – 4.24

2025 / 12 / 19
今週の“ひらめき”視点
土地売買、国籍登録を義務付けへ。問題の本質は土地利用の適性化にある

政府は、防衛関連施設周辺や国境離島など「重要土地等調査・規制法」の対象となる土地に加え、森林や大規模土地の取引に際して、取得者の国籍登録を義務付ける法令を整備する方針を固めた。法人については代表者のみならず外国籍の出資者が議決権の過半を占める場合にも適用、外国資本による土地取引の実態を把握するとともに土地の不法利用を防ぐことが狙い。

外国人による土地取得への批判が高まる。とりわけ、森林取得に伴う水資源の危機が喧伝される。果たして実態はどうか。農林水産省の調査によると「令和6年に外国法人等が取得した森林は382ha、全国の私有林面積の0.003%、平成18年からの累計でも10,396ha、同0.07%にとどまり、水資源への直接的な影響は確認されていない」とのことだ。因みにこの報告書では比較例として“米国は5.0%”という数字をあえて記載している。内閣官房も「外国人または外国法人と思われる者による地下水の採取において地下水障害や住民トラブルの事例は報告されなかった」旨、公表している(12月16日)。

「投機的な短期売買」「非居住者の増加」など都市部のマンション取引も批判の的だ。とは言え、国土交通省によると東京都における外国人による新築マンション取得率は2024年が1.5%、今年上半期が3.0%だ。確かに増えている。しかし、この比率をもって「東京が買い占められている」とは言えないし、2024年上半期の東京23区における新築マンションの短期売買率は「国外に住所がある者」が7.0%であるのに対し、「国内に住所がある者」はこれを2.4ポイント上回る。

世界的に割安な富裕層向けマーケットにおける海外勢のシェアは高い。インバウンド需要を見込んだ外国資本の直接投資も拡大している。ただ、それをもって排外的な言説の根拠にするのはいかがなものか。土地取引の透明化と国土利用の実態把握に異論はない。問題は産業廃棄物の不法投棄、無許可民泊、無届け開発など“違法な土地利用”を防ぐことであり、不動産バブルを抑止し、住環境を守り、森林資源を適切に管理し、水源涵養林を保全し、生態系の維持をはかることにある。これらに実効性をもたせる施策こそが議論されるべきであり、外国人政策という文脈からの視点にのみこの問題を収斂すべきではない。