今週の"ひらめき"視点

2022 / 06 / 17
今週の“ひらめき”視点
電力需給ひっ迫、自立分散型ネットワークの構築を急げ

今夏、政府は7年ぶりに企業と家庭に対して節電を要請する。経済産業省の電力需給見通しによると「東北・東京・中部の3エリアにおける電力供給の予備率が3.1%まで低下する」とのことである。安定供給に必要な予備率は3%である。供給はまさに綱渡りだ。エネルギーの安定供給は国民生活、企業活動、そして、安全保障の根幹であり、したがって、需給見通しどおりであれば節電の要請は止むを得ないだろう。しかしながら、毎年のように懸念される電力需給の問題に対して、はたして出来得るすべての対策が講じられてきたであろうか。

東日本大震災直後の2011年7月、国土交通省国土審議会は特定地域の電力不足に備えるためには「電力会社の管轄エリアを越えた地域間での電力融通が重要であり、送電線の容量拡大と周波数変換所の増強が必要」、「遠隔地からのエネルギー供給のリスクを低減するためには自立分散型エネルギーシステムが有効、この実現に向けて各分野を横断する一体的な取り組みが求められる」と提言した。つまり、既存事業者の裁量を越えた取り組みを急げ、ということである。

その日から11年目の6月7日、政府の電力需給に関する検討会は「2022年度の電力需給の総合対策」を発表、電力不足に対する構造的な対策の中に “分散型電源の活用を支援”、“地域間連系線の更なる増強を検討する” と書き込んだ。いや、その通りである。このソリューションに世論の二分はないはずだ。しかし、あれから11年、未だに “検討” なのか。「あの時の提言を、党派を越えた国策として実行した。それゆえに今年の厳しい状況も乗り切ることが出来る」、そんな発表が聞きたかった。

今、世界の新たな分断が、効率最優先のサプライチェーンと巨大システムに一元的に依存した社会のリスクを高める。時代のニーズは集中から分散へ、寡占からネットワークへ、である。
弊社も「カーボンニュートラルビジネス研究所」を立ち上げ、脱炭素と自立分散型経済を先取りした事業開発支援を行っているが、この夏、八ヶ岳山麗エリアを舞台に新たな経済循環モデルづくりをスタートさせる。7月5日、キックオフイベントを兼ねたワークショップを “ワークラボ八ヶ岳”(茅野市)にて開催する。会場受付にて「ひらめき視点を読んだ」と言っていただければ参加費は筆者が持ちます! リラックスした雰囲気の中で分散型経済の未来について意見交換が出来ればと思います。ご来場、お待ちしております。

※「ココラデプロジェクト」スタート、お弁当を食べながらカーボンニュートラルを考える「ココラデ ランチ講座~気候変動と食と私と地域」7/5開催のお知らせ

2022 / 06 / 10
今週の“ひらめき”視点
中学校の部活動、地域へ移行。公教育の維持に向けて制度全体の再設計が必要だ

6月6日、スポーツ庁の有識者会議「運動部活動の地域移行に関する検討会議」は、公立中学校における休日の部活動を地域の民間スポーツ団体等へ移管することを骨子とする提言をまとめた。想定される移行パターンは、地域のスポーツクラブへ移行する、外部指導者に指導を委託する、教員が「兼職兼業」として報酬を得たうえで指導する、の3つとし、2025年度までに全国の公立中学校で実現することを目標とする。まずは休日の移管が対象となるが、平日の移行も奨励される。学校をスポーツ振興の拠点と位置付けてきた体育教育からの大きな転換である。

背景には少子化による生徒数の減少、学校の統廃合がある。今、地方はもちろん都市部であっても部活動の維持は困難であるという。しかし、地域への移行はこれ以外の効用も大きい。多様なスポーツ体験や地域の多世代との交流は子供たちにとって有益だ。また、提言では指導法やハラスメント禁止など専門知識をもった指導者育成の必要性も示された。勝利至上主義のもと看過されてきた人権侵害の根絶は大いに歓迎したい。そして、何よりも最大のメリットは教師の長時間サービス残業からの解放である。現場の “献身” に支えられてきた部活動がようやく正常化に向かうということだ。

そもそも教師は足りていない。文部科学省の調査によると2021年4月の始業日時点、全国の公立小中高校と特別支援学校において、正規教員の定員を臨時教員で補えていない “教員不足” は2558人に達する。絶対数の不足はもちろんであるが、問題は最長1年契約という非正規の臨時教員の多さである。2020年度で教員定数の7.5%に達する。この背景には教員採用の裁量が国から自治体に移管されたことに伴い、人件費における自治体の財政負担が増したことがある。要するに非正規が財政上の調整弁となっているということだ。

標高4800m、ブータンの秘境ルナナに赴任した若い教師と村の子供たちの交流を描いた映画「ブータン 山の教室」(2019年、パオ・チョニン・ドルジ監督)の一場面、教師が子供たちに将来の夢を問う。ある子の答えはこうだ。「ぼくは先生になりたい。先生は未来に触れることが出来るから」。7日、岸田政権が閣議決定した「骨太の方針」は “人への投資” を掲げた。高度人材への投資は急務である。一方、国全体の教育水準の向上も持続的成長の実現に必須である。部活動の地域移行も最終的には費用負担の問題となるだろう。教員採用すらおぼつかない自治体に公的補助の余力は乏しい。国の未来を担うのは子供たちだ。であれば、公教育に対して国はどうコミットするのか、明確なビジョンと責任を打ち出す必要がある。

2022 / 06 / 03
今週の“ひらめき”視点
新しい資本主義、ぼやける。内需の持続的成長に向けての覚悟が欲しい

5月31日、政府は8回目となる「新しい資本主義実現会議」を開催、「市場だけでは解決できない外部性の大きい社会課題をエネルギー源と捉え、官民が課題解決に向けた投資と改革を実行、成長と分配の好循環をはかる」との方針を表明した。しかし、発表された実行計画案は、各方面への目配りが効いた従来型の“総花的”なものであり、「新しい資本主義」の到来を予感させる政治的覚悟は見えてこない。

昨年の総裁選、岸田氏は「新自由主義的政策からの転換」を掲げ、分配重視の政策を訴えた。首相就任前後の会見等で語られた「令和版所得倍増」や「金融所得課税」という言葉に前々政権から続く政策の行き詰まりの打破や中間層の再生に期待を寄せる声も多かったはずだ。しかしながら、発表された計画案を見る限り少なくとも当時の公約からの「後退」感は否めない。

“所得”倍増は “資産所得”倍増に置き換わった。この30年間、多くの国民の収入は頭打ち状態だ。社会保険、税負担率の上昇、加えて、物価高だ。新たに投資商品を購入する余裕はない。優先順位は逆である。もちろん、分配には原資が必要であり、成長の実現は必須である。科学技術・イノベーション力の強化、人材育成、地方活性化、カーボンニュートラルへの投資など、個々の施策の中身に議論の余地は残るものの目指すべき方向に異論はない。

問題は「その先」だ。成長の恩恵が株高、配当、内部留保に偏重するのであれば、量的緩和が現出した好景気が賃金に還元されなかったこれまでと変わらない。内需の自立的回復は見込めないだろう。“倍増” の対象が所得から資産に転じた狙いが、「上場投資信託の残高が時価50兆円を越えるまでに膨張し、身動きがとれなくなった日銀に代わって国民の預貯金で株価を支えるため」であるならまさに本末転倒だ。岸田氏は実行計画案の発表に際して「マルチステークホルダー型の企業社会の実現を推進したい」との考えも述べた。それが氏の本意であるとすれば、投資家、取引先、従業員、地域社会に対する貢献をどうバランスさせるか、ここに対する大胆な政策表明が待たれる。

2022 / 05 / 27
今週の“ひらめき”視点
脱ロシア、脱炭素は林業再生の好機。業界は戦略的な取り組みを

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は木材供給に深刻な影響を与えつつある。ロシアは対露経済制裁の当事国など非友好国に対して単板など一部木材の輸出を禁止、一方、木材流通の国際認証機関はロシアとベラルーシ産木材を「紛争木材」に指定、認証を取り消した。米国の景気回復とコンテナ不足が招いた所謂「ウッドショック」、FRBの利上げを契機に市場は徐々に落ち着きを取り戻すだろうとの楽観はロシアによって一挙に吹き飛んだ。供給不足の長期化に対する懸念が価格を更に押し上げる事態となっている。

ロシアは世界の森林面積の2割を占める森林大国だ。強度が強いカラマツの単板やアカマツの垂木は日本でも住宅用に使われてきた。しかし、単板の輸入は完全に停止、輸出禁止対象から外れた垂木も消費者イメージの悪化等を考慮し、新規発注はストップ状態にある。業界はロシア産に代わる木材の調達に動く。加えて円安だ。日銀の国内企業物価指数4月速報によると木材・木製品の価格は前年同月比56.4%増、3月の同58.9%増に続き、高止まり状態にある。

こうした中、高さ44m、11階建ての純木造高層ビルが横浜に完成した。施工は大林組、耐震性能など安全性能に問題がないことはもちろんであるが、木造のメリットとして強調されたのは環境への貢献である。鉄筋コンクリート製と比べるとCO2の排出量は1/4に抑えられるという。国際エネルギー機関(IEA)によると世界のCO2排出量の1割を建材製造と建設セクターが占める。脱炭素は業界にとって喫緊の課題だ。実際、2021年10月に施行された木材利用促進の法律の名称も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」である。今、時代が林業の再生を後押しする。

木材供給不足の長期化は避けられまい。住宅建設業界にとって厳しい局面が続く。しかし、国土の2/3を森林が占める日本にとって、脱ロシアと脱炭素を背景とした供給網と需要構造の変化は大きなチャンスである。戦後一貫して国際競争力を低下させてきた林業であるが、木材の自給率は回復基調にある。2000年代前半、2割を切っていた自給率は2015年には32.2%、2020年には41.8%(林野庁調べ)まで回復してきた。筆者は昨年本稿*で「森林は循環型経済を構成する中核資源であり、その視点から林業を再定義することで、持続可能な産業としての未来が開ける」と書いた。森林の多面的な効用に対する再評価は林業に新たな価値をもたらすはずであり、その可能性に期待したい。
*「輸入木材、高騰。国産材への回帰トレンドは林業再生のチャンス」(2021年7月9日)

2022 / 05 / 20
今週の“ひらめき”視点
JR四国、全路線赤字を発表。超長期の視点にたって地方交通網の在り方を問え

5月17日、JR四国は2020年度の路線区ごとの収支を発表、前年度、唯一黒字だった岡山と四国を結ぶ本四備讃線(児島-宇田津)も赤字に転落、全8路線、18区間のすべてが赤字となった。
JR四国は今回の収支公表について、「厳しい状況を関係者に理解いただき、運賃や鉄道ネットワークの在り方に関する対話を進める」ことが狙いであり、「廃線」に向けてのコンセンサスづくりが目的ではないとする。しかし、路線の存続をめぐって対立関係にある地元自治体との協議に一石を投じたことは間違いない。

公表されたデータでは、100円を稼ぐために必要な費用(営業係数)は全路線平均で268円、もっとも悪い予土線の北宇和島と若井間では1401円となっており、個別路線ごとの採算性をみれば運行の維持は困難であると言わざるを得ない。
JR四国の2021年度決算は連結ベースで営業収益311億円、営業損失221億円、これを経営安定基金の運用益を含む営業外収益で補填するものの32億円の経常損失が残り、当期純利益は52億円の赤字である。203億円に達する鉄道事業単体の営業赤字は途方もなく重い。

利用者減少の背景にクルマがあることは言うまでもない。国は四国4県を高速道路で結ぶ「四国8の字ネットワーク」事業を推進してきた。四国に高速道路がはじめて開通したのは1985年、そこから30年の節目に発表された報告書は、「高速道路の開通によって自動車で各県を移動する人が1.5倍から5倍に増えた。また、本州と四国を結ぶ高速バスの利用者も7倍に増えた」と高らかにその成果をアピールしている。昨年時点で計画の7割が完成、高知県沿岸部と徳島、愛媛をそれぞれつなぐ未開通区間の整備に期待がかかる。そう、高速道路網の完成はまさに地元にとっての “悲願” でもあるのだ。

今年の大型連休、四国の高速道路利用者はコロナ禍前の7割を回復した。一方、JR四国の指定席予約はコロナ禍前の半分に止まる。回復も道路が鉄道に先行する。とは言え、道路も長期的にみれば安泰ではない。NEXCO西日本の高速道路事業の2022年3月期の営業利益率はわずかに0.03%(見込み)、コロナ禍前の2020年3月期であっても同0.24%である。収益の柱が名神道や山陽道といった大都市間道路であることは想像に難くない。人口減少、内需縮小の影響はまず地方部に顕在化する。やがて「四国8の字ネットワーク」もJRと同じ問題が浮上するだろう。鉄道はもちろん、道路もまたそれぞれの区間採算で判断すればいずれ大きな赤字は避けられない。地方の公共交通インフラをどう維持するのか。事業会社とは異なる次元において、長期の視点から議論する必要がある。

2022 / 05 / 13
今週の“ひらめき”視点
中国「ゼロコロナ」政策、世界はその先にやってくるリスクに備えろ

中国当局による「ゼロコロナ」政策の影響は、懸念されていた通りの規模と深刻さをもって顕在化しつつある。上海、深圳、瀋陽、東莞、長春、西安など厳しい統制を強いられた都市は3月以降、20を越えた。本来、消費を牽引すべき都市部における厳格な行動規制の長期化は、内需全体を委縮させるとともに全土のサプライチェーンに深刻な影響を与えつつある。
自動車販売がこれを象徴する。中国自動車工業協会によると4月の新車販売は前年の5割程度に落ち込んだ。封鎖地域における工場の停止、物流の混乱、顧客の不在が原因だ。

こうした中、4月下旬になると上海でも生産再開に向けての動きがみられた。とは言え、工場と外部との出入りは依然制限されている。つまり、事業所内に一定規模以上の宿泊設備がなければ本格稼働は出来ないということだ。一方、物流でも「重点物資輸送車両通行証」制度がスタート、省を越えたモノの輸送が動き出した。ただ、こちらも人員不足等により運送費は通常の数倍に達している。正常化には程遠い状況だ。

「ゼロコロナ」による影響は中国国内に止まらない。中国税関総署によると4月の輸出は3月の前年同月比14.7%増から同3.9%増へ急減、2020年6月以来の低い伸び率となった。一方、輸入も低調に推移、2020年8月以来のマイナスとなった3月の2287億ドルを下回る2225億ドルとなった。つまり、Made in Chinaの出荷額が落ち込むと同時に中国向けのモノの流れも低調だった、ということだ。そもそも海外向けの荷物が港に届かない。加えて、作業員不足による荷揚げ作業の停滞、輸送力低下による貨物の滞留など港湾システム全体の機能不全が効いている。日本企業への影響も大きい。

さて、事態の長期化に伴い「ゼロコロナ」への異論が国外はもちろん国内からも出始めた。しかし、秋の共産党大会を前に「現指導部が自らの誤りを認め、方針を転換することはない」との見方は根強い。当局が発した「職務怠慢による感染拡大に対する責任は厳しく問う」とのメッセージは地方官吏にとって絶対的な行動指針だ。「ゼロコロナ」が続く限り正常化は遠いと言わざるを得ない。とは言え、中国経済の急回復も世界にとってのリスクだ。巨大な需要の戻りはエネルギー、食料、資材、物流における世界的な供給不足を招来するはずであり、ロシアの軍事侵攻に伴う物資の高騰に拍車をかけることになるだろう。いずれにせよ目の前の混乱への対処と並行して “その先” にやってくるリスクを想定した戦略シナリオを準備しておく必要がある。