10月14日、アパレル大手(株)ワールドと(株)TSIホールディングスは2027年3月1日をもって経営統合、両社を完全子会社とする(株)インフィニティ・ユナイテッドを設立する、と発表した。新会社の資本金は50億円(予定)、両社の2026年2月期決算を単純合算すると売上高451,099百万円、従業員11,202人のファッション企業が誕生する。
アンタイトル、タケオキクチ、インディヴィ(以上、ワールド)、マーガレットハウエル、パーリーゲイツ、ナチュラルビューティー(以上、TSI)など、両社はいずれも個性的なブランドを擁する多品種少量型アパレルである。経営統合に際しては、「圧倒的多様性集団としてグローバルSPAやメガリテーラーとは異なる第3極を確立する」としたうえで、単独では実現できない調達、物流、システム、ECへの投資と産業コストの効率化を目指す、と表明した。
両社統合のインパクトは大きく、一般紙でも「国内アパレル3位の企業が誕生」といった見出しが踊った。1位はもちろんファーストリテイリング、2位はしまむらである。ただ、小売と卸売では売上高の意味は異なる。「業界」では百貨店や専門店への製品卸を主たる事業とする企業を“アパレル企業”と称するのが慣例だ。そして、原綿、原糸、紡績、撚糸、製織、製編、縫製など製造工程ごとに細分化された業界の総体が“繊維産業”と称される。それゆえ、日本繊維産業連盟にも日本アパレル・ファッション産業協会の名簿にも1位と2位であるはずの2社の名前はない。
衣料品の国内市場規模は1991年の約13兆円から2025年には約8.5兆円へ縮小※1、単価も大きく下落、輸入浸透率は98.6%に達し※2、最盛期に11.7万軒あった事業所は1.3万軒(2021年)へ激減している(経済産業省)。2022年、産業構造審議会は2030年に向けた繊維産業の展望をとりまとめた。原糸・素材における技術開発(川上)、産地※3における好循環の創出(川中)、高品質・高感性な商品づくり(川下)を目指すべき、と提言する。それぞれの方向性に異論はない。ただ、かつての“百貨店アパレル”の雄、オンワードであっても百貨店事業とEC事業の売上規模は既に拮抗しつつあり、2030年には自社ECだけで百貨店事業を上回ると見込む。製造工程ごとに分断された業界や産地を起点に発想するだけでは、もはや“業界”の未来は描けない。
※1.「2026年アパレル産業白書」(矢野経済研究所)より
※2.輸入浸透率:衣料品の輸入量を(生産量+輸入量-輸出量)で除した値
※3.繊維産業は泉州のニット、三備のデニム、十日町の絹織物、今治のタオルなど特定地域に生産が集中し、産地が形成されている
10月15日、高島屋は増収増益となった中間決算を受け、通期業績見通しを上方修正、2027年2月期営業収益を4月に発表した5030億円から5091億円(前期比103.4%)へ、営業利益を同575億円から590億円(同110.2%)へ引き上げた。好調なインバウンド需要に加え、国内顧客売上高も堅調に推移、為替効果に押し上げられた海外事業も寄与する。
直近9月も好調だ。伸び率はやや鈍化したものの店頭売上高は前年比+2.4%となった。けん引役はやはりインバウンド、件数こそ前年並み(前年比+0.3%)であったが単価は同+12.5%と伸長、免税売上高は同+12.8%となり売上増に貢献した。中国からの訪日客数減を受けて客数は伸び悩むものの円安を背景としたインバウンドによる高額品需要は旺盛で三越伊勢丹の9月免税売上高も前年比+36.5%を記録した。
11月1日、インバウンド需要を支える免税制度が「リファンド方式」に変わる。現行制度では店頭で旅券等を提示、税抜き価格で商品を購入する。一方、リファンド方式では一旦、税込価格で商品を購入、事業者は購入記録情報を国税庁に送信、出国時に税関が購入者と対象商品を検査・確認したうえで消費税分が返金される。今回の変更は現行制度の隙をついた不正な免税転売の横行が契機となったが、リファンド方式それ自体は多くの国で採用されており、海外旅行に慣れた人にとって違和感はないだろう。
ただ、旅行中の支出増、出国時の手続き、返金までのタイムラグといったネガティブ要件もある。店側においても承認送信事業者※とのシステム連携等における初期費用、店舗スタッフへの教育など新制度への対応コストも発生する。一方、消耗品と一般物品の区分がなくなるなど簡素化もはかられる。また、従来 “特定商業施設内”に限定されていた免税カウンターの設置に関する制約もなくなる。つまり、地域の商店街や観光地全体を免税エリアとすることが可能だ。観光客にとっても小規模店にとってもメリットは大きい。一時的な混乱はあるだろう。しかし、需要そのものが縮小するわけではない。百貨店や大型商業施設はもちろん、地域全体で免税売上、すなわち、“物品輸出”の拡大戦略を講じていただきたい。
※承認送信事業者:免税店に代わって旅券情報や購入記録情報を国税庁へ電磁的に送信することができる国税庁長官または所轄税務署長の承認を受けた事業者
10月13日、公正取引委員会は都営地下鉄の軌道保守工事を巡ってJR東日本の関係会社、東鉄工業をはじめとする6社の独禁法違反を認定、違反内容を自主的に報告した東急軌道工業を除く5社に対して排除措置命令を出すとともに課徴金の納付を命じた。6社は入札前に受注予定会社を調整するなど競争を制限したとされ、発注者である東京都交通局についても入札情報の事前漏洩など談合への関与の有無について調査中とのことである。
その前週、公取委はビールや発泡酒における価格カルテルの疑いでビール大手4社に対して強制捜査を行った。4社は“裏会”などと称する会合でビール類や缶チューハイの値上げ幅などを調整していたという。9月にはマンションの大規模修繕工事における談合も明らかになった。マンション管理組合から業者選定等の業務を委託された設計コンサル会社が業者間の受注調整を行ったうえでバックマージンを得ていたとされ、設計コンサル会社2社と工事事業者40社の独禁法違反が認定された。
談合やカルテルが社会問題化すると、“長年続く業界の慣習”であり、過度な価格競争を防ぐことが出来る、会社規模や施工能力に見合った受注調整により品質・納期が守られる、事業リスクが軽減され経営が安定、結果、雇用が維持される、、、などと必要悪を説く論者が現れる。しかしながら、問われているのは供給サイドと需要サイドの非対称性であり、市場取引の公正さである。消費者の選択の権利は侵されていないか、不当な費用が上乗せされていないか、公共事業であれば原資は税金であり入札プロセスにおける透明性は確保されているか、ということだ。そもそもルールを守らないアンフェアなプレーヤーを擁護する理屈はない。
10月12日、国際通貨基金(IMF)が世界経済見通しを発表、2027年の日本の名目GDPを4兆4676億ドルと推計した。予測どおりであれば日本は来年には米国、中国、ドイツに加え、インド、英国にも抜かれ世界6位へ後退する。無論、円安も背景にある。しかし、通貨安それ自体が国力に対する信任の低下とも言える。公平、公正な市場取引、すなわち、健全な競争環境の実現は、生産性を高め、付加価値を創造し、イノベーションを促進するための基本条件である。身内の論理に閉じ、業界の常識に安穏としていては世界から後退するばかりだ。慣習や前例、しがらみに囚われない“出る杭”たちに期待したい。
Photo:開業前の桑都の杜、撮影:筆者
ここへ来て自治体が主体となった自動運転バスの社会実装に向けての動きが活発だ。10月2日、つくば市、筑波大、関東鉄道、KDDIグループはつくばエクスプレス(TX)つくば駅と筑波大構内を結ぶ路線バス“筑波大学循環”でレベル2の自動運転バスの運行をスタートさせた。同日、豊岡市も11月から城崎温泉街で自動運転バスの実証実験を行うと発表、平日に1日3便、JR城崎温泉駅と温泉街とを結ぶ。事業の企画調整は兼松、運行は全但バスが担当、車両は韓国A2Z社製の小型バスROii(ロイ)を使う。
デジタル庁はこの6月16日、「2040年には自動運転が全国津々浦々で、誰もが利用可能なモビリティ・インフラとして定着」している状況をゴールに設定し、技術目標と数値目標を逆算した実行計画「2040デジタル・モビリティ国家を自動運転で実現する提言」を発表した。2027年度は先行的事業化地域で収益モデルを確立、28年度には自治体単位の導入から広域連携へ、29年度には幹線交通網と地域交通の高度な接続を実現、30年度には過疎地を含む全国に水平展開、自動運転を社会に不可欠なインフラとして定着させる、とする。
9月17日、日本自動車工業会も“事故死ゼロ”と“移動の自由”の実現を自動運転の最終目標と位置付け、国、自治体、業界でインフラ技術の進化、社会基盤整備、市場浸透施策に取り組む方針を発表した。AIがキーテクノロジーとなる自動運転はそれゆえAI先進国である米国、中国が先行する。社会実装に向けて日本は大きく出遅れてきた。しかしながら、生成AIの急速な進化、普及、適用領域の拡張は遅れを一挙に取り戻す可能性を高めてくれたとも言え、新たな社会基盤の構築、新たな産業競争力の育成に期待したい。
10月3日、八王子市は旧医療刑務所跡地に整備した大型複合施設「桑都の杜」をオープン、東京工科大を共創パートナーにJR八王子駅と同施設間で自動運転バスの実証実験をスタートさせた。実はこの辺りは筆者の実家があった地域で、先日開業前の同施設周辺を歩いてみた。筆者が通った剣道場も、悪ガキグループと覇権を争った公園も、遊び疲れて家路を急いだ道も、すっかりなくなっていた。とは言え、不思議と寂しさは感じなかった。筆者のあの頃の時間もこの地のどこかに染み込んでいるはず。地域の活性化に向けて実証実験の成功を願う。
10月1日、酒税法が改正、ビール類の酒税は350ml缶あたり54.25円に一本化された。ビールは約9円の減税、一方、発泡酒や第3のビール(新ジャンル)は約7円の増税となる。また、沖縄では1972年の本土復帰時に施行された特別措置法による県内向けビールの酒税軽減措置も廃止となる。
ビールの販売数量のピークは1994年、以降、価格競争が激化する中、大手メーカーは麦芽の使用率による税率差に着目、相次いで発泡酒を開発、2000年にはビール類市場のシェア3割を奪う(課税数量ベース、国税庁より)。2004年にはもう一段の税率差を狙って麦芽の代わりに大豆やえんどう豆などを使った第3のビールを投入、消費者の低価格需要に応える。こうした状況に国は「類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている」とし、“税収中立”のもと2020年から段階的に税率調整を実施、今回の改正はその総仕上げである。
業界はこの日に向けて対応を進めてきた。ただ、ブランドごとに戦略は分かれる。実質的な値上げとなるビール類の“ビール”化を進める一方、従来の製法を維持するブランドも少なくない。各社は発泡酒や第3のビールならではの味わいで差別化をはかるとともに糖質ゼロ、プリン体ゼロ、低カロリーといった機能性を付加することで“ビール代替需要”とは一線を画す市場も開拓してきた。あえて“ビール”化させる合理性はないとの判断である。
この10月に値上げされる食品は3千品目を超える。ビール類における発泡酒のシェアは44%(2024年度、課税数量ベース)、発泡酒や第3のビールを愛飲してきた消費者にとって増税の影響は小さくない。需要量への影響も懸念される。そもそもビール類の市場縮小は傾向的だ。ビール、発泡酒それぞれのピークと2024年度を比較すると前者は67%減、後者は27%減、ビールと発泡酒の合計は41%減である※。個性豊かなクラフトビール、RTD(缶チューハイや缶ハイボールなど)、低価格訴求のPBなど、消費者の選択肢は多い。加えて、あえてお酒を飲まない“ソバーキュリアス”なライフスタイルも広がる。「とりあえずビール」の時代はもう来ない。嗜好の分散、ニーズの多様化、進行する酒離れ、問われるのはまさに個々の商品力ということだ。
※酒類課税数量におけるビールのピークは1994年、7,413千kl、発泡酒は同2002年、2,646千kl、ビール+発泡酒の最大値は1994年、7,444千kl(国税庁)
9月14日、中部電力は浜岡原子力発電所におけるデータ不正問題を受け、林欣吾社長、勝野哲会長の辞任と浜岡原発3、4号機の再稼働審査の取り下げを発表した。耐震設計の前提となる基準地震動の値を意図的に過小評価する不正行為は2012年頃から始まった。2019年と2021年、2回の内部通報は不発、2025年2月、原子力規制委員会への外部通報をもってようやく問題が顕在化する。それでも不正は止まず、一方、1、2号機の廃炉作業においても報告書データの書き換えや費用請求における不正が露見する。
公表された特別調査委員会の調査報告書は、経営陣による不正への直接的な関与はなかったものの再稼働審査の遅れに対する“叱責”が現場に対して大きな圧力になったこと、内部通報制度がまったく機能しなかったことなど、経営および組織としてのガバナンスの欠落を指摘した。そのうえで、「本事案に通底する原因として極めて特異な考え方が存在していた」と結論づけた。
調査委員会が指摘する“特異な考え方”とは、国の原子力行政、再稼働の必要性等を背景に自分たちの行為に問題はないと認識する者が少なからず存在していたことを指す。何らかの事情ゆえに止むに止まれず不正を働くのではない。独自の合理性と独自の正義感にもとづき「自分たちは正しいことをしている」との信念をもって不正を実行していること、そして、それらの者が一定のグループや集団を構成しており、そうした集団が社内の様々なところに存在している可能性があることを“憂慮すべき事態”と警告する。
これこそ問題の核心であり、はたして中部電力に固有のものではないだろう。関電は美浜原発1号機の燃料棒折損事故(1973年)を4年間隠ぺいした。北陸電力志賀原発1号機の臨界事故が発覚したのは発生から8年後の2007年だ。1980年代から続いていた東京電力による福島第一、福島第二、柏崎刈羽原発の原子炉設備のひび割れ等の隠蔽が露呈したのは2002年、米GE社の内部告発による。同社は福島第一事故後も柏崎刈羽原発におけるテロ対策上の違反等により運転禁止命令を受けている。各社はそれぞれ不正防止策を講じ、安全最優先を宣言している。とは言え、高度な専門知識と複雑で巨大な技術の壁の内側のどこかに“特異な考え方”は燻っていないか。油断、驕り、閉鎖性の行き着く先は東海村臨界事故(1999年)であり、福島第一事故(2011年)である。
