今週の"ひらめき"視点
おこめ券、空振り。令和の米騒動を契機に農政の抜本的な見直しを
令和7年度補正予算審議が始まった。政府は自治体がそれぞれの地域特性に応じて自らの裁量で物価高対策を講じるための財源として重点支援地方交付金2兆円を計上した。食品価格高騰による負担軽減、低所得世帯等における電気・ガス・水道など生活インフラコストの軽減、中小零細企業のエネルギー高騰対策や賃上げ環境整備など、生活者と事業者を対象とした施策が使途メニューとして例示されているが、もっぱら注目されているのは農林水産省が活用を推奨する“全国共通おこめ券”だ。
ところが、これが不人気だ。1枚500円に対してお米との引き換えは440円分という手数料の高さと煩雑な事務コストが要因だ。ただ、問題の本質はここではない。10月22日、鈴木憲和農水相は就任会見において物価高対策としておこめ券の配布に言及、そのうえで「米は需要に応じた生産が原理原則」と発言した。これは高騰した小売価格を実質的に是認するものであり、5キロ3千円代を目指して前政権が掲げた増産方針からの転換に他ならない。
今回の米騒動については、投機目的で21万トンが買い占められた、などといった説明がまことしやかに流された。しかし、実際は「令和5/6年に40-50万トン、令和6/7年に20-30万トンの供給不足が発生」しており、農水省はその要因を「需要予測は人口減少トレンドを前提としており、精米歩留まりの低下等を考慮しなかったため」と総括した(令和7年8月)。2018年、国は、国による米の生産目標数量の配分制度(減反政策)を廃止する。一方、転作補助金を増額するとともに需要予測にもとづく“生産量の目安”を発表、これを受けて都道府県>産地の農業団体>農業者へと段階的に生産量の目安が情報として提供される。要するに価格維持を目的とした減反は形を変えて維持されてきたと言え、今回の米騒動はその歪みが露呈したということである。
おこめ券の発行母体は全国農業協同組合連合会と全国米穀販売事業共済協同組合であり、農水官僚出身の鈴木氏の地盤はブランド米“はえぬき” “つや姫”で名高い山形県である。12月9日、記者会見で農業団体への利益誘導に関する疑義を質された鈴木氏はこれを完全否定した。是非そうあっていただきたい。一方、「国の需要予測を根拠に生産調整を」との方針は“市場に委ねる”こととは真逆の発想である。少なくとも価格維持政策が専業米農家の減少と消費者の米離れに歯止めをかけられなかったことは事実である。食料安全保障という観点に立てば主食生産者への所得補償も選択肢だ。戦後農政の徹底した検証を踏まえ、10年先を見据えた制度を検討いただきたい。
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代表取締役社長 水越 孝
