今週の"ひらめき"視点

インフレ抑制か景気優先か。ロシアの国際社会からの離反、影響拡大

3月10日、日本銀行は企業物価指数の2月速報を公表した。国内企業物価指数は前年比+9.3%、41年ぶりの高水準だ。主要因は輸入品の高騰である。2月の輸入物価指数は円ベースで前年比+34%、品目別でみるとエネルギー、木材、食品関連がそれぞれ+84.8%、+68%、+26.2%と突出して高い。もちろん、一時的に118円台をつけた5年ぶりの円安の影響も大きい。しかし、輸入物価指数は契約通貨ベースでも前年比+25.7%となっており、供給不足に対する懸念が急速に顕在化しつつある。

言うまでもなくウクライナを巡る緊張の高まりと、2月24日に始まったロシアによる軍事侵攻が背景にある。新型コロナウイルスによって閉ざされた世界はようやく動き出しつつあった。しかし、今度は “戦争” がグローバル経済の未来に対するイニシアティブを奪うこととなった。事態の行方が見えない中、各国は “それ以前への回帰はない” ことを前提とした財政、金融、産業政策の検討を迫られる。急務は顕在化しつつあるインフレ対策だ。

欧州中央銀行(ECB)は2022年の物価上昇率について「最悪の場合、+7.1%になる」との見通しを発表、これを受けてラガルド総裁は「想定外の物価上昇」に対応すべく量的緩和の終了を表明した。米国もゼロ金利解除に動く。コロナ禍からの回復に伴う需要増を背景に2月のインフレ率は7.9%と40年ぶりの高い伸びを記録、連邦準備制度理事会(FRB)は「景気回復は力強い」と判断、高インフレを抑えるべく0.25%の利上げを実施する方針だ。
一方、日本銀行は、国内景気の下支えを優先、金融緩和策を維持する。しかし、米ドルとの金利差の拡大はもう一段の円安を招く可能性もあり、急激な物価高が企業収益や家計を圧迫する可能性も大きい。いずれにせよ情勢は流動的であり、各国の金融当局には時局にあわせた柔軟な対応を期待したい。

それにしても、である。ロシアは国内事業の停止やロシアからの撤退を決定した外資企業の資産を接収し、政府管理下におく法律を準備しているという。政府を批判した外国人経営者は逮捕も辞さないとの報道もある。外貨建て債務の返済をルーブルで支払う大統領令は既に署名済だ。海外企業からリースしている航空機を返還せずとも良いとする法律も検討されているという。まったく呆れる限りだ。これではグローバル経済への復帰はあり得ない。はたして強権的な専制主義国家を集めた新たな経済圏を形成し、その盟主にでもなるつもりか。国連のロシア非難決議に反対した国はベラルーシ、北朝鮮、エルトリア、シリアだ。これでは永遠に豊かにはなれまい。ロシア帝国再興の野望は既に破綻している。


今週の“ひらめき”視点 3.13 – 3.17
代表取締役社長 水越 孝