今週の"ひらめき"視点

JR四国、全路線赤字を発表。超長期の視点にたって地方交通網の在り方を問え

5月17日、JR四国は2020年度の路線区ごとの収支を発表、前年度、唯一黒字だった岡山と四国を結ぶ本四備讃線(児島-宇田津)も赤字に転落、全8路線、18区間のすべてが赤字となった。
JR四国は今回の収支公表について、「厳しい状況を関係者に理解いただき、運賃や鉄道ネットワークの在り方に関する対話を進める」ことが狙いであり、「廃線」に向けてのコンセンサスづくりが目的ではないとする。しかし、路線の存続をめぐって対立関係にある地元自治体との協議に一石を投じたことは間違いない。

公表されたデータでは、100円を稼ぐために必要な費用(営業係数)は全路線平均で268円、もっとも悪い予土線の北宇和島と若井間では1401円となっており、個別路線ごとの採算性をみれば運行の維持は困難であると言わざるを得ない。
JR四国の2021年度決算は連結ベースで営業収益311億円、営業損失221億円、これを経営安定基金の運用益を含む営業外収益で補填するものの32億円の経常損失が残り、当期純利益は52億円の赤字である。203億円に達する鉄道事業単体の営業赤字は途方もなく重い。

利用者減少の背景にクルマがあることは言うまでもない。国は四国4県を高速道路で結ぶ「四国8の字ネットワーク」事業を推進してきた。四国に高速道路がはじめて開通したのは1985年、そこから30年の節目に発表された報告書は、「高速道路の開通によって自動車で各県を移動する人が1.5倍から5倍に増えた。また、本州と四国を結ぶ高速バスの利用者も7倍に増えた」と高らかにその成果をアピールしている。昨年時点で計画の7割が完成、高知県沿岸部と徳島、愛媛をそれぞれつなぐ未開通区間の整備に期待がかかる。そう、高速道路網の完成はまさに地元にとっての “悲願” でもあるのだ。

今年の大型連休、四国の高速道路利用者はコロナ禍前の7割を回復した。一方、JR四国の指定席予約はコロナ禍前の半分に止まる。回復も道路が鉄道に先行する。とは言え、道路も長期的にみれば安泰ではない。NEXCO西日本の高速道路事業の2022年3月期の営業利益率はわずかに0.03%(見込み)、コロナ禍前の2020年3月期であっても同0.24%である。収益の柱が名神道や山陽道といった大都市間道路であることは想像に難くない。人口減少、内需縮小の影響はまず地方部に顕在化する。やがて「四国8の字ネットワーク」もJRと同じ問題が浮上するだろう。鉄道はもちろん、道路もまたそれぞれの区間採算で判断すればいずれ大きな赤字は避けられない。地方の公共交通インフラをどう維持するのか。事業会社とは異なる次元において、長期の視点から議論する必要がある。


今週の“ひらめき”視点 5.15 – 5.19
代表取締役社長 水越 孝