今週の"ひらめき"視点
土地売買、国籍登録を義務付けへ。問題の本質は土地利用の適性化にある
政府は、防衛関連施設周辺や国境離島など「重要土地等調査・規制法」の対象となる土地に加え、森林や大規模土地の取引に際して、取得者の国籍登録を義務付ける法令を整備する方針を固めた。法人については代表者のみならず外国籍の出資者が議決権の過半を占める場合にも適用、外国資本による土地取引の実態を把握するとともに土地の不法利用を防ぐことが狙い。
外国人による土地取得への批判が高まる。とりわけ、森林取得に伴う水資源の危機が喧伝される。果たして実態はどうか。農林水産省の調査によると「令和6年に外国法人等が取得した森林は382ha、全国の私有林面積の0.003%、平成18年からの累計でも10,396ha、同0.07%にとどまり、水資源への直接的な影響は確認されていない」とのことだ。因みにこの報告書では比較例として“米国は5.0%”という数字をあえて記載している。内閣官房も「外国人または外国法人と思われる者による地下水の採取において地下水障害や住民トラブルの事例は報告されなかった」旨、公表している(12月16日)。
「投機的な短期売買」「非居住者の増加」など都市部のマンション取引も批判の的だ。とは言え、国土交通省によると東京都における外国人による新築マンション取得率は2024年が1.5%、今年上半期が3.0%だ。確かに増えている。しかし、この比率をもって「東京が買い占められている」とは言えないし、2024年上半期の東京23区における新築マンションの短期売買率は「国外に住所がある者」が7.0%であるのに対し、「国内に住所がある者」はこれを2.4ポイント上回る。
世界的に割安な富裕層向けマーケットにおける海外勢のシェアは高い。インバウンド需要を見込んだ外国資本の直接投資も拡大している。ただ、それをもって排外的な言説の根拠にするのはいかがなものか。土地取引の透明化と国土利用の実態把握に異論はない。問題は産業廃棄物の不法投棄、無許可民泊、無届け開発など“違法な土地利用”を防ぐことであり、不動産バブルを抑止し、住環境を守り、森林資源を適切に管理し、水源涵養林を保全し、生態系の維持をはかることにある。これらに実効性をもたせる施策こそが議論されるべきであり、外国人政策という文脈からの視点にのみこの問題を収斂すべきではない。
今週の“ひらめき”視点 12.14 – 12.18
代表取締役社長 水越 孝
