今週の"ひらめき"視点

中国EVメーカー、停滞する世界のEV市場の間隙を狙う

5月18日、ニデック(旧日本電産)が「EV駆動装置E-Axle(イーアクスル)事業を大幅縮小、中国、欧州企業との合弁も解消へ」との報道があった。イーアクスルは創業者永守氏が推進してきた肝いり事業であり、会計不正、品質不正の温床となった永守路線からの決別を社内外に示すメッセージとしての意味は大きい。ただ、イーアクスルは5月13日にリリースされた「再生に向けて」と題した再建プランにおいて既に“構造改革・転換領域”の対象事業に区分されており、本質的には事業の継続リスクを精査したうえでの合理的な経営判断と言えよう。

イーアクスルはEVの駆動部であるモーター、インバーター、ギアを一体化することで小型軽量化と生産性の向上をはかる技術であるが、ご承知のとおり中国の車載モーター市場は激しい価格競争下にある。加えて部品のパッケージ化は更に進む。究極は駆動部、ブレーキ、ステアリング、バッテリー、制御ソフトをシャシーに一体化させたCATL(寧徳時代新能源科技)の“スマートシャシー”だ。クルマの下半分と車体上部との連携は信号で行われるとのことであり、つまり、シャシーに車室部分を乗せるだけでクルマが完成する。

今、世界の主要メーカーでEV戦略の見直しが進む。需要の停滞と最大市場である中国における供給過剰が背景にある。中国市場については巨大な補助金が公正な競争を阻害してきたことも一因だ。ただ、熾烈な競争の中、各社がテクノロジーにおける革新を競い合ってきたことも事実である。自動運転しかり、生産性の向上しかりである。シャシーと車体上部を独立して開発できる“スマートシャシー”は企画から量産までのリードタイムを12か月に短縮する。コストカットの積み上げで実現できるものではない。生産工程そのものに対するイノベーションが発想の起点にある。

厳しい競争が続く国内市場にあって中国EV勢はEVが伸び悩む海外市場の“隙”を狙う。BYDはこの夏、軽自動車規格のEVを日本市場に投入する。東風汽車はステランティスと提携、「プジョー」、「ジープ」ブランドのEVを生産、世界市場へ輸出する。2027年にはスマホ大手シャオミ傘下の小米汽車が欧州を皮切りに世界戦略を本格化させる。成熟市場におけるハードルは高い。自動車産業それ自体が発展途上にあるアジアにおける成功モデルは通用しない。とは言え、EV市場の未来と自社技術の可能性に賭ける彼らの姿に、恐らく日本電産の成長期にもあったであろう世界を目指す“創業者”魂の片鱗を見る。


今週の“ひらめき”視点 2026.5.17 - 5.21
代表取締役社長 水越 孝