今週の"ひらめき"視点
気候変動と食料安全保障。問題のしわ寄せは弱者に集中する
3月16日、国立環境研究所をはじめとする研究チームは、気候変動緩和策が将来の飢餓リスクに与える影響について大気汚染軽減効果を考慮した研究成果を発表した。気候変動緩和策は、温暖化による作物収量の低下を抑える効果がある一方、バイオエネルギー作物や大規模植林などと土地利用が競合することによる収量減少リスクを伴う。従来、後者が前者を大きく上回るとされてきたが、対流圏オゾン濃度の低下を計算条件に加えると気候変動緩和策によって増加する飢餓リスク人口の約15%が相殺される、とのことである。
気候変動が世界の食料安全保障に与えるメカニズムは極めて複合的、連鎖的であり、産業政策、貿易構造、食文化、生態系、地理的条件からの影響も大きい。また、収量やアクセスの問題のみならず、「主要穀物のタンパク質と微量栄養素の含有量減少による“隠れた飢餓”を誘発させる。また、熱ストレスによる食欲低下といった生理学的な影響も懸念される」という(国際農林水産業研究センター、2025.10.08より)。
気候変動に伴う被害がもっとも早く、そして、深刻化するのは皮肉にもCO2排出量の少ない地域、言い換えれば経済基盤の弱い途上国だ。13日、バヌアツの気候変動大臣は上智大学での講演で「世界の温室効果ガスの0.00016%しか排出していないバヌアツは、激甚化した1つのサイクロンでGDPの64%を失う」と語った。主食である根菜類の生産や漁業への影響も大きい。干ばつ、水不足、疫病、治安の悪化により食料供給システムが崩壊、慢性的な飢饉に苦しむアフリカの温室効果ガスの排出量も世界の4%に過ぎない。
そう、気候変動や食料安全保障の問題は“弱者から”顕在化する。昨年5月、東京科学大学が発表した調査※によると、過去一年間に「栄養バランスの取れた食事をとる経済的余裕がなかった」「同じ世帯の大人が経済的理由で食事の量を減らしたり、抜いたりしたことがある」といったフードセキュリティが脅かされている人(=食料危機層)の割合は43.8%、食料危機層の人ほど猛暑など異常気象のために体調を崩す人の割合も高く、すなわち気候変動に対してより脆弱である。OECDによると日本の相対的貧困率は2021年時点で15.4%、昨今の物価高はこの比率を更に助長しているものと推察される。傾向は他国でも同じであろう。短期的な物価高対策はもちろん、持続的かつ戦略的な気候変動対策が急務である。
※出典:「日本におけるフードセキュリティの実態と気候変動対策への支持」、調査実施者:東京科学大学未来社会創成研究院ウェルビーイング創成センター、実施時期:2025年2月、サンプル:18歳から79歳の全国の男女10,330人
今週の“ひらめき”視点 2026.3.15 - 3.19
代表取締役社長 水越 孝
