今週の"ひらめき"視点
米中、月面基地計画。地上の覇権争いを宇宙へ持ち出すな
5月26日、宇宙開発ベンチャー(株)ispace(アイスペース)とJALグループは、アイスペース社が2028年に予定している月面着陸ミッションにおけるペイロード(荷物)輸送サービス契約を締結したと発表した。“次世代へ受け継ぐ箱舟”(ARGO PROJECT)と名付けられた事業は、人類の文化や人々の営みの記録を災害や紛争によって失われることのない“月”で保管し、未来の人類に継承するプロジェクトで、JALグループは地域の特産品や時代を象徴する工業製品を月へ運ぶ輸送枠を自治体や企業に販売する。
しかしながら、果たして「月」はARGO PROJECTが想定する「地球の紛争リスク」を回避できるのか。24日、中国は宇宙飛行士3人を乗せた「神舟23号」の打ち上げに成功、25日には宇宙ステーション「天宮」とドッキングした。中国は2030年までに有人月面着陸を実現、30年代半ばにはロシアと共同で月面基地を建設する計画だ。その翌日、米国は有人月探査プロジェクト「アルテミス計画」の工程表を発表、2029年までに建設地点の調査を進め、30年代には大型の居住施設を月面に建設すると発表した。
月面だけではない。宇宙空間における米中の競争も熾烈化しつつある。米国はスペースX社の通信衛星コンステレーション「Starlink」を含め既に7000機~9000機の人工衛星を運用、現在、1000機程度とされる中国も2030年までに1万5000機の低軌道衛星を配備する計画である。とは言え、そもそも天体を含む宇宙空間は1967年に発効された宇宙条約の第2条において「いずれの国家も領有権を主張することは出来ない」と定めている。ただ、国際法に対する信任が揺らぎつつある地上の現状にあって、ましてや宇宙だ。国際条約の有効性は心もとない。
2010年、英国の宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士(1942-2018)は地球外生命が存在する可能性は高いとしたうえで、もしも彼らが地球に現れるとすれば「自らの故郷である惑星の資源を使い果たした後、地球を新たな資源の供給地、新たな居住地とみなした時である。コロンブスの北米大陸への上陸が先住民にとって脅威となったように地球人にとって好ましくない結果となる」と警告した。「宇宙から国境線は見えなかった」とは日本人初のスペースシャトル搭乗員、毛利衛氏の言葉である。地球が氏の言葉通り本当に1つになれるのはホーキング博士の懸念が現実になった時でしかないのか。いや、私たちはもう少し賢くありたい。
今週の“ひらめき”視点 2026.5.24 - 5.28
代表取締役社長 水越 孝
